Huawei躍進の源、上海R&Dセンターのデバイスラボで見えたもの

» 2017年09月20日 16時42分 公開
[太田百合子ITmedia]

 Huaweiは同社製スマートフォンの主要研究施設である上海R&Dセンターの実験ラボの一部を、日本のメディアに初公開した。これまで事あるごとに、毎年売り上げの10%以上を研究開発費に投資しているとアピールしてきた同社。実際、世界に約18万人いる従業員のうち、約45%が研究開発に従事しているという。

 2017年9月現在、日本を含む世界15カ所にR&Dセンターを開設。日本では材料、フランスではデザインというように、それぞれのセンターで異なる研究開発に取り組んでいる。中国国内には9つのセンターを構え、その実験ラボの総面積は5万8399平方メートルに上る。上海はうち1万3677平方メートルを占める、深センに次ぐ一大拠点で、スマートフォンと無線技術に関わる幅広い研究開発が行われている。

Huawei 上海R&Dセンターのエントランス。1万人以上の従業員が働いており、地下には4000人が同時に食事ができる食堂や巨大な駐車場も用意されている。

 一番長いところで全長が1100メートルもあり、ほんの数年前までは、アジアで最も横に長い建物だったという上海R&Dセンタービル。2010年に開設された巨大な施設だが、既に研究施設はその中だけに収まり切らず、今回見学が許可されたのは、向いにある上海京セラの敷地内にある建物を借りて、新設された実験ラボだった。ただし、内部での写真撮影は禁止されていたため、以降はHuawei提供の写真とあわせてのレポートとなる。

スマートフォンの通信をテスト

 最初に案内されたのは、通信プロトコルに関する実験を行っている2階の「Communication Protocol Test Lab」。だだっ広いフロアに無数のサーバラックが並ぶ様子は、まるで巨大なデータセンターのようだ。サーバラック内には、実験用のボックスが多数配置されていて、その中に入れた端末から得られた実験データを、コンピュータで一元管理できる仕組みになっている。

 担当者によれば、ここではスマートフォンの通信に関する、ありとあらゆるテストが行われており、ボックス内には世界20社以上の通信キャリアにあわせ、さまざまな周波数帯を用いたネットワーク環境が構築されているとのこと。

 それぞれ電波の強弱や混雑の有無に加え、例えば上海から東京へ移動した場合に、通信がどのように変化するかといったものも含めて、1000を超える組み合わせでネットワーク環境のシミュレーションを実施。基本の音声通話やデータ通信からVoLTE、VoWiFi(Voice over WiFi)、さらにキャリアアグリゲーション(CA)やMIMOなども含む、包括的な通信テストが行われている。

 今回案内された1つのエリアだけで、約200台の実験用デバイスが稼働中で、テストはデバイス1台に対して24時間×7日間、長い場合はその倍の2週間ぶっ通しで行われることもあるという。

 ご存じのようにHuaweiはデバイスメーカーであると同時に、世界の通信キャリアに対し携帯電話基地局などの設備を提供する、世界トップクラスのシェアを誇る通信機器ベンダーでもある。つまり各国のキャリアに納入され、実際に使用されている最新の設備を使って、デバイステスト用のネットワーク環境を構築できるというわけだ。実際に実験ラボに並んでいた機器も、キャリア等に納入されているものと同じものという。これは他のデバイスメーカーにはない、大きなメリットといえるだろう。

Huawei サーバラックのような設備が整然と並ぶラボ内。ラック内には複数の端末が配置されていて、それぞれキャリアの環境を再現するなど、異なるネットワーク環境化での通信テストが行われている
Huawei 見学したラボには、基地局設備と思われる機器が多数設置されていた。実際にキャリアに納入されているものと同じ通信機器を用いて、実際のネットワーク環境を再現しているという
Huawei 実際に端末を耳に当てた状態の模型を上下移動、または回転させて、基地局アンテナとの距離や電波の強弱、人体などの障害物やスマートフォンの角度が、音声通話の精度にどう影響するかをテストする施設もあった

スマホのさまざまな動作を自動テスト

 続いて案内された3階は、特許取得済みの完全自動システムを用いた「Automated End Device Test Center」。文字通り、ロック解除から始まるスマートフォンのさまざまな動作を自動的に行い、その振る舞いをテストするものだ。

 フロア内には、やはりデータセンターを思わせるサーバラックが並び、その中に彼らが「Xbox」と呼ぶ自動試験装置が800台以上も配置されている。全て稼働させれば、同時に5000台のデバイスを試験できるとのこと。見学時にも装置内には複数のデバイスが入れられていて、ロック解除からソフトウェア、ハードウェアの動作、バッテリーの温度変化など、さまざまなテストが行われていた。

Huawei ラック内にずらりと並べられたXboxにはそれぞれ、1から複数台のデバイスが入れられていて、さまざまな動作テストが全て自動で行われていた。一部のXboxは外からのぞけるように窓が設けられていたが、中の端末はカバーがされており、機種は確認できなかった
Huawei ハードウェアからソフトウェア、ユーザビリティまで、端末の動作の安定性をまる1週間、専用の装置に入れっぱなしでテストを行うという。そのテスト項目は何通りもあり、1つのテストで99.95%以上の成果が確認されないと次の工程に進めない決まりになっている

 見学中、ある装置の中から音が聞こえてきたのでのぞいてみると、かなりの大音量で音楽が流れていた。聞けばデバイスの音量を自動的に上げたり下げたりしながら、スピーカーのテストを行っているという。

 また別の装置内では、繰り返し同じ番号を入力し、通話を発信する操作のテストが進行中だった。他にも数え切れないほどのスマートフォンが、装置の中でそれぞれ自動的に同じ動作を繰り返している光景は、なかなかインパクトのあるものだった。Huaweiによれば、この特許取得済みの完全自動システムによって、本来なら1万人以上のテスターの作業分に相当する試験を効率的にこなすことができ、短期間に大量の検証ができるようになったという。

若くて楽しそうなスタッフが多い印象

 今回は見学できなかったが、上海のR&Dセンターにはこの他にも、デバイス関連の実験ラボとして、ハードウェアの耐久性や耐衝撃性能をテストする「Mechanical Reliability Laboratory」や、オーディオ関連の実験施設である「Audio Laboratory」、アンテナに関する研究を専門で行う「Antenna Laboratory」、同じく無線通信に関するテストを行う「OTA Laboratory 」などがあり、多くの研究員が日々研究開発に取り組んでいる。

 印象的だったのは、彼らが皆そろって若く、そのためかラボがまるで大学の研究施設のように見えたこと。それでいて誰もが実に楽しそうに働いていたことだ。潤沢な研究開発費のもと、これだけ設備の整った施設で同世代の仲間とともに研究に没頭できる日々が、若い研究者にとって充実したものであることは容易に想像できる。彼らの表情に、Huaweiのスマートフォンが今、世界で躍進している理由の一端を見た気がした。

取材協力:ファーウェイ・ジャパン

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