長期利用者向けの割引施策も、過度な割引は「契約の解除を妨げる条件に該当する」と見なし、総務省は一定の制限を加える考え。許容される割引の範囲は「1カ月分の料金」とした。解約金や端末割引と同様に、長期利用割引も総務省から突如提案されたため、構成員からは戸惑いや反発の声が多く挙がった。
現在、長期利用割引として、NTTドコモは1年に1度、3000円相当のポイントをプレゼント、KDDIとソフトバンクは月々の利用料金に応じて毎月ポイントをプレゼントしている。これらの還元額が1カ月以内の料金に収まっていれば問題ないが、長期利用者にとって不満の残る展開だ。そもそも、総務省は長期利用者に対する優遇措置は推進すべきという立場を取っていたこともあり、ドコモもそれに応える形で「ずっとドコモ割コース」を始めたという経緯もある。
北氏は「長期利用割引については、この会合で全く議論することがなく、30日のヒアリング結果の一覧を見ても、規制の必要性は訴えられていない。言葉は悪いが、釣った魚にエサをやらない業界では、珍しくエサをやる施策。全く議論していない中で省令化するのは拙速だ」と批判する。
総務省は「2年契約をしていた人に9500円の利益を毎年提供するとなると、2年間契約させる拘束性が出てくる」といった事態を危惧しており、拘束性が高くなる可能性があるものは、とにかく排除したい考えのようだ。
新政策は省令に盛り込まれて義務化された場合、現在の契約内容にさかのぼっては適用されるのか? 総務省は、既往契約は特例とし、改正法が施行された後に契約の更新や条件変更をしても、施行日前の条件適用を許容する、としている。
つまり、改正法が施行されても、従来の契約を続ける限り、解約金は9500円のままで、継続利用を条件としない端末割引は制限されない。
これは2019年10月にMNOとしてサービスを開始する予定の楽天モバイルにとっては、向かい風となりそうだ。楽天モバイルは、「一切の縛りや解約金をなくすべき」「既往契約に対しても改正法を適用すべき」と5月30日の研究会で要請したが、新規参入で他キャリアからユーザーを取りたい同社にとっては、当然の考えともいえる。
既往契約まで改正法を適用するかどうかが、楽天モバイルに大きな影響を与えるのは間違いない。
分離プランについては、本研究会で長く議論されてきた。3キャリアも対応するプランを提供しており、賛否両論はあるものの、「不公平感の解消」「競争の促進」という点で一定の納得感はある。
しかし、解約金、端末割引、長期利用割引の規制については、研究会の終盤で突如降ってきたテーマであり、根拠も乏しいと言わざるを得ない。解約金を1000円とすることで他の料金が値上げなんてことになれば本末転倒だ。端末割引の過度な規制がユーザーの満足度を下げるのは明白であるし、5Gを初めとした新技術の浸透を妨げる恐れがあることも、度々指摘されてきた。
しかもドコモとKDDIは新料金プランを提供したばかりで、さらなる変更を余儀なくされる可能性も出てきた。ユーザーと販売現場に及ぼす混乱は計り知れない。
予定では18日の研究会が最後で、今後はパブリックコメントを経て省令が決まるが、まだ議論が決着したとは到底思えない。総務省は会合の最後に「次回以降の会合は調整の上、別途連絡する」と述べていたが、果たして次回はあるのだろうか。納得できる根拠と十分な議論を経て省令に定めてほしいと思う。
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