店舗を変えるモバイル決済

手数料を超えるメリットはある? ケーキ店「ル リス」がキャッシュレス対応した結果モバイル決済で店舗改革(1/2 ページ)

» 2020年02月21日 06時00分 公開
[小山安博ITmedia]

 消費税増税や大型台風の直撃など、2019年は日本経済に影響を及ぼす出来事が多かった。そうした中、増税に伴う政府の補助事業でキャッシュレス化が推進され、それを機にキャッシュレス対応をした中小店舗も多い。今回取材した東京・三鷹市のケーキ店「ル リス」もそうした店の1つだ。

ル リス キャッシュレスを導入したケーキ店「ル リス」

売り上げの半分がキャッシュレス決済になった月も

 井の頭公園にほど近い場所に構えるル リスは2010年1月に創業し、10周年を迎えたばかりの地元の人気店。客層は基本的に地元の人たちで、商圏は三鷹市や隣接する調布市などが主体。都内だが戸建ての多いエリアであり、年齢層高めで生活にゆとりのある人が多い。マンション建設も続いていて子育て世代も増え、年齢層が幅広いエリアでもある。

ル リス 店内の様子

 これまでは現金決済だった同店だが、2019年8月からmPOSの「Airレジ」とキャッシュレス決済の「Airペイ」を導入した。代表の須山真吾氏によれば、実はそれまで、クレジットカードなどのキャッシュレス決済の問い合わせはほとんどなかったという。そのため、キャッシュレス対応について特段の必要性を感じていなかったという同氏だが、契機となったのは消費税増税だ。

ル リス 須山真吾氏

 ル リスは、持ち帰りが基本のケーキ店であり、増税後も軽減税率によって消費税率は8%のままだ。しかし、一部10%となる商品もあって、税率が混在することになった。ところが、同店のレジは昔ながらのキャッシュレジスターで、複数の税率を設定できなかったそうだ。

 そのため、レジの更新が必要となり、同時に政府の補助金が利用できることから、それを機にキャッシュレス対応を含めた検討を開始。同業者などからの勧めもあって検討したAirレジは、月額料金も掛からない点が決め手となって導入を決めたという。実際の稼働は2019年8月終盤からだった。

 もともと現金決済のみだったため、当初はキャッシュレス決済の利用はなかったそうだが、10月に入って実際の増税が始まると、一気に利用が拡大した。増税によってキャッシュレス決済の話題が増えたこともあるが、同店がキャッシュレス・消費者還元事業による5%還元の対象店というのが大きい、というのが須山氏の推測だ。

 その結果、10月は最大で1日の売り上げの半分がキャッシュレス決済になったほど。売り上げが1年で最大となるクリスマスシーズンでも、3分の1以上がキャッシュレスで決済したそうだ。比率としてはクレジットカードがほとんどで、PayPay、LINE Pay、Alipayのコード決済にも対応しているが、利用はわずかだという。

ル リス キャッシュレス決済の案内。他にコード決済も利用できる

手ぶらで訪れる人が増えた

 同店の客単価は2000〜3000円ほど。ケーキに加えてお菓子のギフト需要も多く、こちらは1500〜2000円が多い。業務の手みやげ需要もあり、そうした場合は3000円を超える単価になるという。クレジットカードが多い理由は、このあたりの単価に理由がありそうだ。比率もそれなりに高く、キャッシュレス比率は平均して3〜4割に達しているという。1日の客数は50〜60人程度だが、「夏と冬で客数の差が大きい」のがケーキ店の特徴でもある。夏はとにかくケーキは売れないそうで、キャッシュレス化による影響は未知数だ。

 キャッシュレス決済によって1回の買い物における単価が増えるといった購買行動の変化はあまり感じられていないそうだが、「手ぶらで訪れる人が増えた」という印象があるという。

 隣接する井の頭公園や、徒歩十数分の吉祥寺駅周辺へ散歩に行く人が、手ぶらでフラッと店に寄ることが増えているというのが、新しい動きとしてみられるという。「特別なときのケーキを買おう」という意識で来ているわけではないので、客単価自体は低めだが、今まで、きちんと現金を持って訪れるような場所だったケーキ店が、手元に現金がなくてもカードがあれば気軽に立ち寄って購入できる店になった、というわけだ。電子マネーやコード決済にも対応するため、今後「スマートフォンだけ持ってケーキを買いに来る」という例も増えそうだ。

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