世界を変える5G

5Gのエリア整備の苦労は? KDDIが「鉄道路線5G化」に関する取り組みを説明(2/3 ページ)

» 2021年07月02日 19時30分 公開
[井上翔ITmedia]

エリア構築には苦労も多い

加藤純人氏 エリア構築の難しさを語るKDDIエンジニアリングの加藤純人氏(エリア設計部)

 au(KDDIと沖縄セルラー電話)が5Gで用いる電波には、28GHz帯の「ミリ波」、3.7帯の「Sub-6」、そしてau 4G LTEで用いている帯域を5G NR(5Gの通信規格)に転用した「NR化」の3種類がある。これらの電波の“使い分け”は、エリア構築において重要な要素の1つとなる。

 周波数の高い電波は、従来は通信に使われることが少なかったこともあり、帯域幅を広げやすく、結果として通信速度も引き上げやすい。しかし、電波の直進性が高く、衰えやすい上に透過しにくいため、建物や起伏の多い場所のエリア化には不向きだ。

 逆に、周波数の低い電波は回り込みやすく、衰えにくく透過しやすいため。広い範囲や建物の多い場所のエリア化に適している。しかし、他の通信に使われることも多いため、使える帯域幅が狭く、結果として通信速度を引き上げにくい

特性 周波数は、高くなるほど帯域を広く確保しやすくなるため通信速度も上げやすくなる。だが、高い周波数帯は回り込みや透過がしにくくなるため、建物や起伏の多い場所のエリア化には不向きとなる
電波 高周波数帯で通信する場合、盲点になりやすいのが「雨」。雨が降るだけで速度が大きく変わることがあるのだ。高周波数の電波は透過しにくいがゆえに、雨(水分)も通信の邪魔になってしまう

 端的にまとめると、通信速度が求められる場所や人やデバイスが密集しやすい場所はSub-6やミリ波で、通信できる場所を広く確保することを重視すべき場所ではNR化した帯域でエリアを構築する、という使い分けが理想といえる。

 基地局のアンテナを設置する際には、周波数の高低を問わず“見通し”が良い場所に置くことが理想ではある。しかし先述のように、高い周波数帯の電波は、は建物や起伏が障害となりうるため、利用者により近い場所にも基地局(アンテナ)を設置することで品質を高めている。

工夫 Sub-6やミリ波は建物や起伏に弱い。故にユーザーにより近い場所にもアンテナ(基地局)を配置することで品質を高めている

3.7GHz帯はさらなる苦労が

 Sub-6で用いる帯域のうち、3.7GHz帯は別の困難も抱えている。

 この帯域は「宇宙無線(衛星)通信」でも使われている。具体的には、海外の衛星放送(国際放送)で用いられることが多い。そのため、3.7GHz帯の5G基地局を宇宙無線通信の地球局(地球側の送受信設備)の近くに設置すると、相互に干渉してしまう

 そのため、3.7GHz帯の基地局を設置する場合は、事前に既存の免許人(地球局の運用者)と交渉が必要なこともある。その上で、干渉対策を施さなければならない。

干渉 3.7GHz帯は宇宙無線通信にも使われているため、基地局の設置場所によっては地球局の免許人との事前協議と干渉対策が求められる

 干渉対策は、主に基地局アンテナから発する電波の「出力(強さ)」「指向(方向)」「チルト角(角度)」を調整することで実施する。宇宙無線通信への干渉を避けつつ、5G通信のパフォーマンスをできる限り発揮できるように調整するのは、エリア設計者の“腕”の見せ所でもある。

干渉対策 干渉対策は、主に電波の「出力」「指向」「チルト角」の調整で行う。小野田氏によると「基地局の電波が数十km先の施設(地球局)に影響を与えることもある」とのことで、対策は想像以上に難しい面もあるようだ

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