ドコモが有識者会議に提出した資料で挙げていたのは、2021年に割り当てられた東名阪以外の1.7GHz帯。ドコモは、これを2012年に割り当てられた700MHz帯と比較し、「多様なサービスの一部を切り取った評価への懸念」を表明した。この1.7GHz帯の割当では、サービスの項目に「MVNO促進」や「SIMロック解除」「eSIM導入」といった、周波数の有効利用とは直接の関係がなさそうな項目がズラリと並んでいる。
ドコモが設置した基地局を借りるMVNOが増えれば、そのぶん多様なサービスが実現するため、電波の有効利用が図れるといったロジックは理解しやすいが、SIMロック解除やeSIMはかなり間接的かつ恣意(しい)的な基準に見える。競争促進の観点ではどちらも推進すべきサービスなのかもしれないが、本来であれば、周波数の割り当てとは切り離して議論すべきこと。ドコモがこうした基準に不信感を抱くのも無理はない。
東名阪以外の1.7GHz帯は、ドコモの他、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社が申請したが、結果として周波数を獲得したのは楽天モバイルだった。審査結果を見ると、エリア展開についてはドコモが最高得点を獲得している一方で、MVNO促進は4点とソフトバンクの6点や楽天モバイルの8点より低い。ドコモ回線を借りるMVNOは非常に多く、少々不可解な結果にも見えるが、これは評価基準が10Mbpsあたりの接続料だったためだ。SIMロック解除やeSIMの推進に関しても、ドコモは楽天モバイルの後塵を拝している。
特にサービスの項目については、参入当初からSIMロック解除やeSIMを推進してきた楽天モバイルに著しく有利だ。楽天モバイルを優遇することでキャリア間の競争を促進したい総務省の思惑は分かるが、エリア計画で大きくリードしていたドコモにとって納得できない結果だったことは容易に想像がつく。こうした審査が続くのであれば、より透明性の高い電波オークションで決着をつけた方がいい――これが、ドコモの考えといえる。既存の割り当ての仕組みに異議を唱えつつ、楽天モバイルをけん制したという見方もできる。
事実、ドコモの主張に対し、真っ先に反応したのは楽天モバイルのCEOを務める三木谷浩史氏だった。同氏は17日にTwitter上で「弊社としては大反対」と持論を展開。「ドコモなど、過剰に利益を上げている企業の寡占化が復活するだけで、最終的にはせっかく下がってきている携帯価格競争を阻害する『愚策』だ」とドコモの井伊氏や電波オークションを検討している総務省を批判した。
三木谷氏の発言にも一理あるようにも思える。ようやく自前でのネットワークが完成しつつある楽天モバイルだが、基地局建設コストやKDDIへのローミングコストがかさみ、赤字は過去最高を更新し続けている。2022年度の黒字化は見えてきているものの、電波オークションに全力投球できるほどの利益が出るのは、まだまだ先になりそうだ。大手3社と比べて資金力に劣る楽天モバイルは、獲得できる周波数が獲得できず、不利になる可能性が高い。仮に電波オークションを導入するとしても、各社の置かれた環境をどう考慮するかは課題になりそうだ。
総務省が楽天モバイルに「1.7GHz帯(東名阪エリア以外)」の電波を割り当てへ 5Gでの利用を前提に
3G終了が絶好の機会 楽天モバイルが「プラチナバンド」再分配に意見表明
「プラチナバンドがなければ競争は困難」 楽天モバイルが既存周波数の再編を訴える
4G周波数の5G転用は「優良誤認」と「速度低下」の恐れあり ドコモの5Gネットワーク戦略を解説
総務省が「5G」電波の割り当てを決定 ソフトバンクと楽天は“追加条件”ありCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.