従来よりも寄れないことの弊害は 写真撮影だけではなく、QRコードや身分証明書の読み取りにも影響してくる。近年ではPayPayを始めとしたバーコード決済の利用機会も多く、日常的にスマートフォンで店頭のQRコードを読み取ることも多いはずだ。
そのような場面で最短焦点距離が伸びると、従来の感覚ではコードにピントが合わないことも多くなっている。例えば店頭のQRコードについては多少離れても認識するため、いつもよりスマートフォンを引き気味に持つことで対応できる。
問題なのは、各種サービス登録時の身分証の撮影だ。近年ではクレジットカード、携帯キャリアの契約などで、マイナンバーカードや運転免許証をスマートフォンで撮影して登録するものも増えている。eKYC認証で撮影する場面も多く、ピントが合わず読みとりにくいことがあるのだ。
マイナンバーカードのように、アプリ内に表示される枠内に収めるものに関しては、iPhone 12世代までを基準に認識用の枠が作られている。そのため、最短焦点距離が伸びたiPhone 14 Proでは枠に合わせるとカードにピントが合わず、あまり遠ざけてしまうと枠から離れて認識されなくなってしまう。
このように、決済や情報登録を目的としたサービスでは、複数カメラを利用しない方式になっているため、上記で示したようなデジタルズームは利用できない。
Androidスマートフォンであれば、カメラが切り替わって超広角カメラで撮影できるものもある。一方、iPhoneではカメラの制御APIの関係もあり、現時点では標準カメラアプリを除いて切り替えができない。
近年のスマートフォンのカメラ機能強化により、不都合が生じているというわけだ。
今回、ここに来て最短撮影距離の問題が、iPhone 14 Proの登場でいっそう目立つようになった。カメラ性能を追求するためにイメージセンサーを大型化することについては理にかなっている。一方で、QRコードやeKYC認証といったシーンで使いにくくなっていることも事実だ。
1型のセンサーを搭載するAQUOS R7の開発者インタビューは本誌でも掲載しているが、こちらもPayPay決済などの利用シーンを考えて高速オートフォーカス対応センサーに加え、最短撮影距離を12センチほどにしたとある。
それでも大型化したセンサーの分だけ最短撮影距離は伸びており、iPhone SEなどと比較するとほぼ倍の距離になっている。
一方で、カメラ性能強化のスマートフォンはハイエンド帯に集中しており、定価についても10万円を超えるものが大半だ。日本では1/1.3型クラスの大型のイメージセンサーを採用するスマートフォンは振り返っても15機種前後しか発売されていない。それらの機種のためにアプリを改修するのは厳しいといえる。
スマートフォンのカメラ性能の進化。その背景で利用しにくくなっているサービスがあることも知っておくと、スマートフォンを選ぶ際の検討材料が増えるはずだ。
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