このような通信品質の低下に対し、ドコモが取った手はおおむね3点。「カバーエリアの調整」や「周波数間分散」「5G基地局の設置」がそれだ。1つ目のカバーエリアの調整とは、より余裕のある基地局側に収容する端末を増やすといった対応だ。基地局から発射される電波は、円を描くように広がっており、一部は重なり合っている。移動しても途切れず、ハンドオーバーによって通信を継続できるのはそのためだ。
基地局ごとに収容している端末の数は、人の集まり方や円の大きさによって変わってくる。このとき、「余裕のある方のエリアのカバレッジを広げることでトラフィックのバランスを変え、ユーザーに体感劣化がないようにする」のがカバーエリアの調整だ。調整は、電波の出力や電波を発射する方向、角度を変えて行う。一部基地局は出力の変更や位相変更による角度調整を遠隔で行いつつ、現場に張り付いてその効果を確認し、結果に応じて再調整をかけていったという。先の福重氏は、次のように語る。
「通常の営みであれば、シミュレーションで(チルト角を)何度にするかを決めて、しばらく運用した後、ユーザーの分布や品質、トラフィックを分析して、そのまま運用するか、もう少し調整するかを決める。今回は、多くの人が集まる場所にリアルタイムで人を貼りつけ、効果が見られた場合、一定期間運用して再調整がいるかどうかを繰り返し、高速でやってきた」
2つ目の周波数間分散は、800MHz帯など、浸透性の高い特定の周波数に多くの端末が集まりすぎないようにするチューニングだ。特に混雑が激しい場合、「特定のバンドが先に体感劣化する」(同)。このようなケースで、周波数の「遷移を加速することで、他のバンドに行きやすくする」(同)調整も加えた。大手3社はキャリアグリゲーションで複数の周波数を束ねて高速化しているが、「そこを諦め、混雑時には接続性や安定性を重視する」(同)よう、方針を変更したという。
通常、このような制御は、「花火大会など、一時的に特定のユーザーが集まるような場所で使っていた」(同)。渋谷や新宿、池袋などのターミナル駅付近は、毎日、花火大会が開催されているのに近いと見なし、同様の手法を取ったというわけだ。これにより、特定の周波数の混雑が緩和され、一定程度、通信速度の向上が図られたという。
とはいえ、上記2つの対策は、あくまで対症療法的でしかない。いくらエリアや周波数を調整しても、全体のキャパシティーを超える人が集まってしまえば、効果は限定的になる。根本的には、やはり設備の増強が必要だ。特に、帯域幅が広い新周波数帯の5Gは、こうしたキャパシティーの逼迫を解消するための鍵になる。
その計画も一部は「前倒しして、6月にサービスを開始できた」(同)。渋谷駅付近で100Mbps超の速度が出るようになったのも、5Gを増設したためだ。実際、冒頭で述べたように、ハチ公口では混雑時でも5G SAにつながり、高いスループットをたたき出した。こうした対策は、確実に効果が出ているといえる。
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