「ファブレット」がスマホ市場から消えたワケ 時代を彩った名機とともに考える(1/3 ページ)

» 2023年10月25日 13時00分 公開
[はやぽんITmedia]

 スマートフォンのディスプレイは大型化しており、今や6型のスマホは当たり前になりつつある。より大きなディスプレイを搭載する折りたたみスマートフォンも増えている。その一方で、タブレットに近い大きなディスプレイを備えた、いわゆる「ファブレット」と呼ばれる端末はほとんど見かけなくなった。今回はファブレットが“消えた”理由を考えたい。

ファブレットが生まれた背景を振り返る

「ファブレット」を見かけなくなったという話の前に、まずどのような経緯でファブレット端末が生まれた背景を見ていこう。このような大画面デバイスの登場と切っても切れないものには、YouTubeや各種ストリーミングサービスといった動画コンテンツの拡充と大容量、高速ネットワークの普及が挙げられる。

 2010年から11年頃は現在主流の4G回線が出始めた頃であり、モバイル環境でもフルHD画質の動画が視聴できる大容量かつ高速な「次世代回線」が売りだった。また、これに伴い端末側の性能も向上。カメラ性能の向上に伴い、高画質な静止画やフルHD画質の動画撮影も可能となったり、端末性能を生かす形で高画質なゲームも登場したりした。

 このことから、モバイルで動画はもちろん、ゲームなどもHD解像度で楽しめるようになると、必然的に高画質を生かせるデバイスが求められるようになった。

 そんな高速通信ができる時代とともに、大幅な進化を遂げたデバイスはスマートフォンだ。スマートフォンが進化する過程で、他社との差別化で「大画面でのコンテンツ視聴」といった要素も求められるようになった。それに応える形でスマートフォンとタブレット端末の中間にあたる画面サイズを持つ「ファブレット」と呼ばれる端末が登場したのだ。

 ファブレットの発端は2011年発売の「Galaxy Note」だったと筆者は考えている。当時3型後半から4型の画面サイズを持つ端末が主流だった中で、5.3型という大画面を採用したことは、市場にも大きな影響を与えた。

ファブレット Galaxy Noteの発売当初は「デカすぎる」という声も少なくなかった。画像は2012年発売の「Galaxy Note II」

 Galaxy Noteの登場後には大画面を備えた端末がいくつか登場している。画面解像度がフルHDになるなどの高解像度化も進み、iPhoneとの差別化でAndroidスマートフォンを中心に4型後半から5型クラスの画面を備えるようになった。

 そして、この流れを大きく変えたモデルが、2013年に発売されたソニーの「Xperia Z Ultra(auでは翌2012年発売)」だ。今もなおファンからは「ズルトラ」の愛称で親しまれており、6.4型の大画面、防水・防塵(じん)を備えた超薄型ボディーによって重量を212gに抑えるなど、今見ても先進的に思える部分が見受けられる端末だ。

ファブレット 今でもファブレットの代名詞と評されるXperia Z Ultra

 この他に特徴的なものとしては、2014年にauから発売された「LG G Flex」がある。画面を曲げることで大画面ながらも本体サイズを抑えようとした意欲作だ。また、この年には「iPhone 6 Plus」が発売されるなど、Appleも大画面スマートフォンを展開するようになった。

ファブレット LG G FlexはGalaxy Noteシリーズとは異なるアプローチで大画面化を行った
ファブレット iPhone 6 Plusの登場は、スマートフォンにおける大画面化において、持ちやすさと画面サイズのバランスの良いところを突いてきた傑作となった

 日本でもXperia Z Ultraの成功があり、「ファブレット」に一定の支持を得られたことで、市場の変化も見られた。後にHuaweiの「P8 MAX」やASUSの「ZenFone 3 Ultra:などの製品も発売され、Xperia Z Ultraの後継機に悩むユーザーの心をつかんだ。

ファブレット
ファブレット 6.8型のHuawei P8 Max(写真=上)やASUS ZenFone 3 Ultra(写真=下)はさらなる大画面、Xperia Z Ultraの弱点だったカメラ性能を強化した製品だ

ベゼルレス化で大画面でも以前より小型化したファブレット

 そんなファブレット端末も技術の進歩によってさらなる進化を遂げた。その最たるものが、有機ELディスプレイの普及によるベゼルレス化だ。「Galaxy S8」や「iPhone X」の登場によって世界的なトレンドにもなり、結果として従来の5.5型クラスの端末サイズに6.5型相当の画面を備えることが可能になった。

 ファブレットの最大の利点といわれた「大画面」をより省スペースで作れることで、より握りやすく、ポケットやカバンへの収まりがいい製品が多く登場するようになった。

 加えて、この世代からは画面のアスペクト比にも変化が見られた。16:9比率が主流だった従来のスマートフォンに対して、2017年ごろからは18:9や19:9などのより縦長の画面となっていった。日本では2019年に発売された「Xperia 1」が21:9比率を採用したことで、「スマートフォンは縦に長くなった」という印象を与えた。

ファブレット 21:9のアスペクト比という縦長の画面を採用したXperia 1。現在では折りたたみスマホのカバーディスプレイがこの比率に近いものが多く、画面分割時に1:1の表示になるなどの使い勝手のよさも評価される。そういう意味では先見性があった
ファブレット 2019年発売のGalaxy Note 10+は6.8型の大画面を備えながらも、従来のファブレットと呼ばれる端末よりも小型化している

 それでは、従来のファブレットのサイズでベゼルレスを突き詰めれば、7型クラスのスマートフォンも作り出せるのではないだろうか。そのような考えを形にしたものが2018年に発売されたHuaweiの「Mate 20 X」だ。

ファブレット Mate 20 Xは「ファブレットの完成形」ともいえる製品だ。7.2型ディスプレイや防水・防塵機能、ステレオスピーカーを搭載し、カメラ性能もMate 20 Proとほぼ同等のスペックを構えるなど、あらゆる方面に妥協なしのスマートフォンともいえる存在だった。日本で発売されなったことが悔やまれる
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