実は“知っているサイズ”なんです――「Xperia Z Ultra」が6.4インチである理由開発陣に聞く「Xperia Z Ultra」(1)(1/2 ページ)

» 2013年07月30日 12時00分 公開
[田中聡ITmedia]

 ソニーモバイルコミュニケーションズが、6.5ミリの薄型ボディに6.4インチの大型ディスプレイを搭載した新型スマートフォン「Xperia Z Ultra」を、6月に中国・上海で開催された「Mobile Asia Expo 2013」で発表。スマートフォンとタブレットの中間に位置付けられる“ファブレット”であることに加え、2.2GHzクアッドコアCPU搭載のチップセット「Snapdragon 800」や、色域を広げる「トリルミナスディスプレイ for mobile」と超解像技術「X-Reality for mobile」など、最先端のスペックやソニーの技術が搭載されている点でも話題性は高い。日本での発売は未定だが、この“新しいXperia”の発売を期待する人は多いのではないだろうか。

photophoto 6.4インチディスプレイ搭載の「Xperia Z Ultra」。ボディカラーはBlack、White、Purpleの3色

 今回、日本でXperia Z Ultraの開発チームにインタビューをする機会を得たので、商品企画からデザイン、ディスプレイ技術、機構設計、ソフトウェアまで幅広く話を聞いた。第1回では商品企画とデザインに焦点を当てる。

photo Xperia Z Ultraの開発陣。左からX-Reality for mobile担当エンジニアの小坂氏、エクスペリエンス・プランナーの石田氏、プロダクトプランナーの市野氏、カラ―&マテリアルデザイナーの金田氏、メカニカルエンジニアの小竹氏

6.4インチは、実際に触れると「ありかも?」と心変わりする人も

photo 市野氏

 ここ最近、スマートフォンのディスプレイの大型化が進んでおり、5インチ前後のモデルが急増した。5インチともなると幅は70ミリ前後になり、片手で操作ができるサイズの限界といえる。しかしXperia Z Ultraでは、5インチから大きくジャンプアップした6.4インチのディスプレイを備え、幅は約92ミリにまで広がった。もはやスマートフォンなのかタブレットなのかも分からないサイズ感だが、なぜ、6インチ台のスマホを開発することを決めたのだろうか。

 プロダクトプランナーの市野氏は「現在、スマートフォンの大型化が進んでいる背景には、従来の携帯電話で電話やメールを利用するスタイルから、スマートフォンで映像を見たり、SNSやブラウジングをしたりするスタイルが増えていることが挙げられます。メディア機能を重視する方にとっては、大きなデバイスの需要があるのではないかと考えました」と振り返る。

 企画検討をスタートさせて「画面サイズの境界線が次はどこになるのか?」を考えていく中で、6インチ台が1つの候補に挙がった。開発チームは大きさ違いのブロックモック(四角形の箱)を何パターンか作成したが、6インチ台のブロックモックだと、見た目はただの大きな箱。そこで、このブロックモックにデザインテイストを加えれば、「見方も変わってくるのではないか」と考え、社内とユーザー調査を何度か行った。ユーザー調査は「特にアジア圏で大型デバイスへの需要が強い」(市野氏)そうで、日本と中国、ほかに欧州と北米で実施した。

 このユーザー調査では、特に中国が大きなデバイスに対する許容度が高いことが分かったという。次が欧州、その次が日本。欧州の中ではフランスが許容度の高い結果だった。日本では相対的に小型デバイスを求める人が多いが、調査方法を工夫することで、「6インチ台もありかも?」とポジティブな反応を示す人が多かったそうだ。

photo 単体で通話もできるBluetoothヘッドセット「SBH52」

 「『携帯電話として持つのならどれぐらいがいいですか?』と聞くだけではなく、持ちやすさや、大型だからこそ楽しめるコンテンツ、また、単体で通話もできるBluetoothヘッドセット『SBH52』などを説明すると、心変わりをされる方もいらっしゃいました」と市野氏は話す。「7インチタブレットと比べても(それほど)サイズが変わらないのに、(Xperia Z Ultraは)軽くて細くて薄くていいんじゃないかという意見や、これだったら1台でいけるんじゃないかという意見、実生活と照らし合わせると、こっちの方が合ってるんじゃないかという意見も出ました」

90ミリはパスポートと同じサイズ

photo 6.4インチなら片手でも握りやすい

 最終的に6.4インチに落ち着いたのは、「持ち歩けるサイズの中に、一番大きなディスプレイを詰め込むこと」(市野氏)を考えた結果だという。大きくても握って持ち運べるような幅と、それを苦にしない軽快感を重視した。それでも幅92ミリは大きすぎるのでは? とも思えるが、パスポートやスーツ用の手帳も幅が約90ミリであることが決め手になった。「90ミリならスーツの内ポケットにも入りますし、手の小さな方でも簡単に握れます。ポータビリティが確保できるわけです」と市野氏は話す。6.4インチは厳密な目標値として設定していたのではなく、結果的に落ち着いた数字だという。「外形サイズを決めて、その中に収まったのが6.4インチです。パスポートサイズに近いところを目安にしていました」と市野氏。

 「社内ではタブレットとも比較しました。6.4インチという数字だけを見ると、タブレットと変わらないのでは? という声もあると思いますが、7インチだと小さな手の方には持てません。ポケットにも入り、片手で安心して持てるサイズの中に、最大でどれだけのディスプレイを詰め込めるのか――を検討した結果が6.4インチだったんです」(市野氏)

 Xperia Z Ultraが初めて披露されたMobile Asia Expoでも、「世界中のメディアで大反響がありました」と、エクスペリエンス・プランナーの石田氏は振り返る。「皆さん、最初はサイズを見て『ん?』と興味津々で、実際に触って胸ポケットに入れると『あれ? 何も感じない?』と。パスポートを出して『このサイズ知っている』と話している方もいらっしゃいました。サイズが巨大……というよりは、慣れ親しんでいるサイズ感の中で、こんなにいろいろなものが詰め込まれていて、防水なの? という驚きの声の方が多かったですね。(幅92ミリは)女性だと、グッチの長財布くらい。意外と手が知っているサイズなんですよ」(石田氏)

 5インチよりも大きく、7インチより小さいXperia Z Ultraでは、どんなユーザーをターゲットに想定しているのか。市野氏は「メインのユーザーはガジェット好きの20〜30代男性。通話よりも、こういったデバイスを持ち歩きながらデータ通信をしてほしいですね」と答える。女性ユーザーについても、カバンを普段から持ち歩いている人なら6.4というサイズは問題ないという考えだ。「5インチくらいでも(女性の)服には入らないので、手帳代わりに持ち歩いていただきたいですね」(市野氏)

 Xperia Z、Xperia Tablet Zとの棲み分けも気になる。「さずがに(Z、Tablet Z、Z Ultraの)3台持ちまでは想定していませんが(笑)、Zをお持ちの方が、もう1台の選択肢として考えていただくのもありだと思っています。(約10.1インチの)Tablet Z も持ちやすくなるよう仕上げていますが、7インチタブレットの方が持ちやすい場合もあるので、そういった方に使っていただくのもありだと思います。お客さんのライフスタイルに合うサイズの選択肢を加えることで、自由度を高めたいですね」と市野氏は話す。現在のスマートフォンにはほとんどない「6インチ台」を加えることで、ユーザーに新たな選択肢を与える――というわけだ。

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