ここ数カ月ほど、携帯電話の契約手続きにおける「マイナンバーカード(個人番号カード)」の話が話題に挙がることが多い。
ネガティブな面では、偽造されたマイナンバーカードを用いて、契約者本人以外に“なりすまして”携帯電話の機種変更を行ったり、SIMカードの再発行を行ったりといった事件が発生した。
このことを受けて、政府(内閣府や総務省)では携帯電話の契約時の本人確認について本人確認書類のICチップ読み取りを必須化する方向で検討が進められている。対面手続きではマイナンバーカードの他、運転免許証や在留カードへの対応が想定されているが、非対面(オンライン)手続きではマイナンバーカードの利用が必須化される可能性が高い。
そこで今回の「元ベテラン店員が教える『そこんとこ』」では、携帯電話の契約にまつわる本人確認について、昔の筆者の経験と、現在も第一線で働く携帯電話ショップの店員(スタッフ)からの話を交えつつ解説していきたい。
携帯電話の契約手続きで本人確認書類を求められた場合、多くの人は運転免許証を提示してきたと思う。筆者自身も、自分が客(契約する側)として契約する場合は運転免許証を出すことが多く、店員(契約を受け付ける側)としても、本人確認書類として受け付けることが一番多かったのは運転免許証だった。
ただ、運転免許証での手続きが多いとはいえ、特に都市部では運転免許証を持っていない人も珍しくない。そのような人は「パスポート(旅券)」「住民基本台帳カード(住基カード)」「健康保険証」や、外国籍のお客さまは「在留カード」で受け付けることもあった。
しかし、不正契約防止の観点から、契約時に使える本人確認書類には定期的に見直しが入る。そのため、以前は使えた本人確認書類が無効になったり、別の書類と併せた提示を求められるようになったりすることがある。また、ある通信事業者(キャリア)では単体で受け付けてもらえる書類でも、別のキャリアでは利用不可(あるいは条件付きで受け付け)というケースもある。
そんなこともあり、筆者が現役店員だった頃は、本人確認が行えず手続きを進められない事案、以前の本人確認書類が使えずクレームに発展した事案、果ては本人が本人であることを証明できる書類を、どうやってもそろえられない事案もあった。
少し話がそれるが、せっかくの機会なので気を付けるべき「本人確認書類」を幾つか紹介しておく。
日本国旅券(日本のパスポート)はかつて、有力な本人確認書類として広く通用していた。しかし、2020年2月4日発行分から「所持人記入欄(住所記入欄)」が廃止されたことに伴い、NTTドコモでは本人確認書類としての通用を完全廃止した。
他のキャリアでは引き続き日本国旅券を本人確認書類として利用可能だが、2020年2月3日までに発行された(所持人記入欄がある)旅券を用意するか、キャリアごとに定められた補助書類と一緒に提示する必要がある。
在留カードを使う場合は、ほとんどのキャリアで国籍国の旅券(パスポート)を補助書類として提示する必要がある。キャリアや契約条件によっては、さらなる補助書類の提示を求められることもある。
条件次第で在留カード“単体で”本人確認を行えるキャリアもあるが、何らかの補助書類が必要だと思って準備を進めた方がよいだろう。
マイナンバーカードの前身となった住基カードは、ソフトバンクでは本人確認書類として利用できない。他キャリアでは顔写真付きのカードを本人確認書類として利用可能だが、一部のキャリアでは補助書類の提示が必要だ。
一方、マイナンバーカードは全キャリアにおいて“単独で”本人確認書類として使える。ただし、市区町村が発行した「個人番号(マイナンバー)通知カード」(※2)や「個人番号通知書」は本人確認書類として利用できないので注意しよう。
(※2)個人番号通知カードの発行は、2020年5月25日をもって終了している(参考記事)
マイナンバーカードの前身である住基カードは、ソフトバンクを除いて写真付きのもの(左)を本人確認書類として利用できる。ただし、一部キャリアでは補助書類も提示する必要がある。なお、住基カードは2015年12月末をもって発行を終了しており、最終発行分の有効期限は2025年12月末までとなっている(出典:地方公共団体システム機構)かつては健康保険証も本人確認書類として通用していた。しかし、偽造を含めて健康保険証を悪用した不正契約が相次いだこともあり、全てのキャリアにおいて本人確認書類としては使えなくなった。
ただし、他の有効な本人確認書類を所持していないことが多い未成年者(18歳未満)の契約手続きでは、キャリアが指定する補助書類と併せて提示することを条件に、確認書類として利用可能だ。
また、携帯電話回線(端末)の新規契約や契約変更“以外”の手続きについては、引き続き健康保険証を本人確認書類として使えるキャリアもある……のだが、どのような手続きで使えるのかはキャリアによって大きく異なる。そのため、特に成人の場合は健康保険証以外の本人確認書類を用意した方が無難だろう。
健康保険証は保険者によって様式(形状や記載内容)が異なるため、店舗側で“ホンモノ”かどうか確認することが難しい。そのことも、本人確認書類としての通用を原則廃止した背景の1つだと推察される(出典:全国健康保険協会)上記の通り、同じ書類でもキャリアによって扱いが異なることは多い。キャリアAでは単体で通用するが、キャリアBでは補助書類が必須で、はたまたキャリアCでは通用しない――そんなこともあるので、特に複数のキャリアを取り扱う併売店の契約担当スタッフは、キャリアごとの本人確認書類の利用可否を頭に入れておかないといけない。
どのキャリアでも問題なく通用する本人確認書類というと、マイナンバーカードか運転免許証(運転経歴証明書)くらいしかない。しかし、運転免許証は一番手頃な「小型特殊自動車免許」でも、都道府県の運転免許センターで試験を受けて合格しないと発行されない。「誰でも所持できて、どのキャリアでも通用する本人確認書類」が必要なら、マイナンバーカードは事実上唯一の選択肢といえる。
ともあれ、公的機関が発行した正式な書類であり、基本的には「肌身離さず持っているもの」ではあるものの、本人確認書類はお客さま(ユーザー)はもちろん、店員にとっても“大変”なものなことが分かるはずだ。
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