バンコク市内には公共交通網としてバンコク・スカイトレイン(BTS)と呼ばれる高架鉄道とバンコク・メトロ(MRT)と呼ばれる地下鉄がある。パンティッププラザはバンコク市内の中央にあるBTS「サイアム」(Siam)駅から北に歩いて10分ほどで着く。わずが10分だが、真夏のタイでは徒歩10分が途方もなく長く感じるだろう。そのパンティッププラザから「サイアム」駅に向かって南に戻っていくと、巨大な建物が見えてくる。ここが「ZEN」というショッピングセンターで、日本資本の「伊勢丹」とともに、家電チェーン店の「PowerBuy」が入っている。
PowerBuyで販売されているのは、バンコク住民の平均収入ではちょっと手が出せない高額商品が主流だ。例えば、テレビでは日本メーカーや韓国メーカーの薄型テレビが中心となっている。ただ、バンコクの所得格差は大きいので、富裕層なら余裕で買えるのは中国の国際大都市と同じだ。品ぞろえ的に、所得が高い外国人向けのようで、実際、PowerBuyの客層は外国人が多いが、店舗がバンコクの中心部にあるため、タイ人の富裕層もよく利用している。
もちろん、PowerBuy以外の家電量販店もバンコクで営業している。その中には「Akihabara」なんて名前の家電店があるが、タイのAkihabaraは高級志向であるようで、店内で販売されているテレビは薄型が主流であるなど、ミドルレンジからハイエンドの価格帯がズラリとならぶ。


PowerBuyで売っているテレビは高級な薄型のみ(写真=左)。バンコクのビジネス街「シーロム」通りにある家電量販店の「Akihabara」(写真=中央)。Akihabaraで売っているテレビも高級な薄型のみ(写真=右)タイは貧富の差が激しい。所得格差が激しいということは、富める者の対極にも人がいるということだ。海賊版ソフトウェアは、パンティッププラザだけでなく住宅街を含めたバンコクのあらゆる場所で販売している。また、一般的な家庭の多くは、ブラウン管テレビとローカルブランドの安価なDVDプレーヤーの2点セットを所有している。このローカルブランドの家電製品はどこで売っているのだろうか。少なくともPowerBuyやAkihabaraでは見かけない。
それが、バンコク市内の南西部にあってタイ国鉄のバンコクターミナルの1つ「フワランポーン」駅から西側に広がる「ヤワラー」と呼ばれる中華街だ。ヤワラーの面積は横浜や神戸の中華街よりもずっと広く、通りごとに靴の店が集まっていたり、食料品が集まっていたり、昔の秋葉原のような家電販売店が集まっていたりする。家電販売店ではテレビ以外にも、DVDプレーヤー、iPod「似」のmp3プレーヤー、そして、聞いたことのないブランドの携帯電話などがそろっている。
バンコクの庶民が利用する市場をディープに楽しみたいならヤワラーは面白い。ヤワラーでは、昼間に店が開いて沢山の露天で埋め尽くされる。暑い日中というのに通りは人でごった返すが、なぜか夜になって涼しくなると一斉に店が閉まって閑散となるので外国人は注意すること。ヤワラーにも華僑の店はたくさんあるが、タイの華僑はタイ語しか話せない。華僑が中国語を捨てるほどタイに魅せられたのだろうか。


ヤワラーにある電気店。ブラウン管テレビにエアコン、扇風機と庶民密着の品ぞろえだ(写真=左)。パンティッププラザにあるのだから、ヤワラーにないわけがない(写真=中央)。バックパッカーが集まるバンコクのカオサンロードにはネットカフェも多数ある。中古PCショップではない(写真=右)バンコクの携帯電話事情を知るには、サイアム駅から西に駅1つだけ行った「サナームキラーヘンチャート」駅(National Stadium駅。サイアム駅からペデストリアンデッキを歩いてもいける)にある、「マーブンクロン」(MBKと略する場合もある)と呼ばれるショッピングセンターがいい。地元バンコクの若者だけでなく外国人も多数訪れるMBKには、携帯電話の専用フロアがあって、シンプルなお手軽機種からiPhoneまで多彩な機種が売られている。
タイでGSM対応携帯電話を利用するのに必要なSIMカードは、MBKの携帯電話売り場で買えるほか、バンコクのどこにでもある“セブンイレブン”や“ファミリーマート”で購入可能だ。パスポートなど身分証明を提示する必要もなく、200バーツ(約600円)程度で買える。携帯電話実名制度を導入している国では、外国人がSIMカードを購入するのが面倒であったりするが、観光立国であるためには、タイのように外国人でも身分証明書なしでもSIMカードを購入できるようにする必要があるのかもしれない。
バスやスカイトレイン、地下鉄といった公共交通機関の車内や、駅、またはバス停にいるタイ人を見ていると、多くの中高年は携帯電話を、若い世代のほとんどが携帯電話とmp3プレーヤーを使っている。中国の都市部では、「みんなから尊敬される金持ちに見せるためにも、可能な限り高級品を身につける」という、強烈な自己顕示欲の表現手段としてデジタルガジェットが使われていて、上海の地下鉄の中では、だれもがiPhoneを使っていたりするが、バンコクはそうした「見えを張る」という思想はないのか、カラー液晶を搭載したソコソコの性能の携帯電話で満足している人がほとんどだった。


MBKの携帯電話売り場(写真=左)。MBKの携帯電話売り場では、使える電話番号で価格がえらく違う(写真=中央)。MBKで販売されている携帯電話のラインアップ。どうでもいいことだが“ソニエリ”のつづりが違う。地域格差、所得格差が激しい中国で、「上海=中国のすべて」と考えると事実を見誤ってしまうように、バンコクのIT事情“だけ”をもってして、タイ全体のIT事情として紹介するのは適切ではない。バンコクに住む人一人当たりの平均月所得は約3万円と、タイのほかの地域より飛び抜けて高い。この記事で紹介する情報も、「タイのIT事情」ではなく、バンコクに限ったIT事情であることを、くれぐれも忘れないでいただきたい。
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