EV2333W-HとEV2023W-Hは、10ビットのルックアップテーブル(LUT)による内部ガンマ補正機能を搭載している。この効果は高く、sRGBモードで黒白の無段階グラデーションを表示しても、不自然な段差(トーンジャンプ)はほとんどなく、色かぶりも気にならない。シャドウ寄りの階調で若干のつぶれが確認できるものの、これは大半の液晶ディスプレイが抱える現象で、色再現性を重視する用途でない限り、不満は出ないはずだ。
液晶パネルはVA方式なので、TN方式より格段に視野角が広く、実用上はまず問題ないが、厳密に見れば、画面に角度が付いたときの色度変化はそれなりに発生する。画面の正面に対して上下左右から眺めると、彩度とコントラストが落ちて白っぽくなるので、フォトレタッチのような色を扱う作業時は、操作する画面上の場所を正面から見るようにすればよいだろう。
階調表現の優秀さは、エックスライトのキャリブレーター「i1Pro」(製品パッケージとしては「i1Basic」)での計測結果からも確認できる。PCのRGB出力と画面上のRGB出力のグラフがほぼ「1:1」の直線になっており、RGB個別のグラフでもズレがほとんどない。つまり、かなり正確な階調と発色を実現しているということだ。
エックスライトの「i1Basic」は、測色器の「i1Pro」が付属し、ディスプレイのキャリブレーションに機能を特化したパッケージ。名前の通り、i1シリーズの中ではエントリーモデルにあたるが、i1Proはスペクトル方式を採用した測色器で、フィルター方式のエントリーモデル「i1Display 2」に比べて、検出精度がかなり高い。より高度なカラーマネジメント環境を構築したい場合は、必要に応じてソフトウェアの機能を拡張することも可能だ。
日本国内での販売は、2009年4月から加賀電子が行っており、クリエイター向けオンラインショップ「KGDirect」や「CGiN」で購入できる。両サイトでのi1Basicの価格は16万9800円だ。i1シリーズの製品紹介サイトはこちら。
なお、i1Proはナナオのカラーマネジメント対応ディスプレイ「ColorEdge」シリーズと組み合わせることで、ナナオ独自のソフト「ColorNavigator 5」による高精度なハードウェアキャリブレーションにも対応する。
EV2333W-HとEV2023W-Hは、黒→白→黒の応答速度が25msと遅いため、動画鑑賞やゲームにはあまり向かないが、前述の通りEV2333W-Hは中間調の応答速度を高めるオーバードライブ回路を搭載している。OSDメニューにて、オーバードライブの強度と有効/無効を選択することが可能だ。選択肢は、強/普通/オフの3通りがある。
「オフ」だと残像感が割とはっきり伝わってくるので、映像鑑賞やゲーム、モーションCGといった用途では「普通」か「強」がよいだろう。「普通」と「強」の違いは、一般的な映像鑑賞やゲームならほとんど見分けがつかない。厳密に見れば、「強」だと輪郭の偽色が微妙に確認できる。これはオーバードライブによるオーバーシュート/アンダーシュートの影響だろう。強度が「普通」だと輪郭の偽色は消えるが、「強」と比べて輪郭のシャープさがやや甘くなるようだ。この辺りは、個人の感覚や好みの問題になってくる。
EV2333W-HとEV2023W-Hの省エネ機能は賢く、人感センサーを利用したEcoView Senseの自動パワーセーブは、かなり高精度だ。今回試用した限りでは、センサーの誤作動(画面の前にユーザーがいてPCを操作している状態でパワーセーブになってしまうなど)はまず見られなかった。使っていないときにキッチリと自動パワーセーブが可能で、この小さな積み重ねがCO2や電気代の低減につながる。何台もの液晶ディスプレイを導入するオフィスで特に効果的なのはもちろん、家庭や個人であっても有用だ。
機能と性能もきちんと押さえられている。インタフェースは複数の入力系統があり、縦位置表示に対応し、柔軟な高さ調節が可能なスタンド、豊富な色調整が行えるOSDメニュー、3通りのスケーリング機能など、実用的な機能が充実しているのは高評価だ。VAパネルと10ビットLUTのおかげで画質も安定しており、sRGBモードにおける色温度とRGB入出力グラフの正確さは、このクラスの汎用液晶ディスプレイとしてはトップクラスではないだろうか。
最近は液晶ディスプレイの低価格化が著しく、画面サイズや解像度だけで製品を見ると、EV2333W-HやEV2023W-Hが少々割高なのは否めない。しかし、これらは機能と画質の両面で、単に価格勝負のディスプレイに大きな差を付けており、購入後の省エネや疲れ目軽減を図る機能、5年間保証まで考慮すると、トータルコストはむしろ安く思える。環境性能まで意識して製品選びをするならば、必ず検討してほしい液晶ディスプレイだ。
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