スマートフォンやMIDなど、これから成長が予想される小型デバイス市場を攻略するために開発されたAtomは、当初「Nシリーズ」「Zシリーズ」を市場に投入していたが、現在ではデスクトップPC(Nettop)向けの「Dシリーズ」、情報家電向けの「CEシリーズ」、そして組み込み向けの「Eシリーズ」といった5つの分野に拡大している。
NとZは、特にNetbook向けCPUとして確固たる地位を築いており、Dシリーズはコンパクトな液晶一体型が多いNettopのほかに小型メディアサーバやNASなどでも採用されている。自作PC向け市場でも、コンパクトなPCを作るときに選択するユーザーが多い。
CEシリーズにおける最大の成果は、IDF 2010でも紹介された「Google TV」に集約される。Atomにメディアコーディング機能を搭載して処理性能を高め、テレビ向けの入出力インタフェースを内蔵したのがCEシリーズの特徴だが、これまで目立った採用例はなかった。その理由の1つがコストと柔軟性の問題だ。
テレビメーカーやレコーダー/プレーヤーメーカーの多くは自分たちで半導体も開発できるため、外部から調達しなければならないAtomベースのCPUを採用する必要性はコスト的な面からいっても少なかった。
この状況を変えるきっかけとなったのが「スマートTV」の登場だ。スマートTVでは、単純なメディア再生機能だけでなく、インターネットへの接続やアプリケーション実行環境などでより高度な処理が求められる。このため、スクラッチからCPUを開発するのではなく、すでにアプリケーションが存在するAtomを採用するのも選択として挙がってくる。GoogleとIntel、ソニー、Logitechによる共同プロジェクト「Google TV」は、このAtomをテレビに採用した例としても注目できるだろう。Google TVでも採用されている「CE4100」の後継として、メディア処理機能や省電力性を強化した「CE4200」もIDF 2010で発表されている。
iPadによって一躍注目されるようになった「タブレット」デバイスもAtomが進出していく分野と考えられている。タブレットデバイスのコンセプトは古くからあり、今回のIDFでも“最古のタブレット”という「GRiDPad」が紹介されている。もっとも、20年前に最初のタブレットが登場した当時は小型デバイス向けCPUの性能は低く、タッチパネルの仕組みやユーザーインタフェースも洗練されていなかった。用途も非常に限定的で、iPad登場以前のタブレットデバイスは、法人需要にほぼ限定されていた。そのタブレットデバイスにAtomが求められる理由もスマートTVと同様で、タブレットデバイスの表現能力が向上し、業務用の特定処理だけでなく汎用のアプリケーションの動作も求められるなど、高度な処理を要求されるようになったからだ。
こうした変化に、Intelは「Atomに追い風が吹いてきた」と実感しているだろう。「パフォーマンスは強力だが、柔軟性が低くコスト高」という組み込み向けCPUとしてのデメリットが、高いパフォーマンスを求める市場ニーズの変化でメリットに変わろうとしているからだ。
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