「Optimus Technology」が実現するマルチディスプレイの疑問:元麻布春男のWatchTower(1/2 ページ)

» 2010年11月04日 16時00分 公開
[元麻布春男,ITmedia]

Optimos Technologyで実現するマルチディスプレイ環境の「謎」

 2010年10月に登場したThinkPadシリーズに採用されるNVIDIAのOptimus Technologyは、Arrandale世代のCore iシリーズに統合されたグラフィックスコア(Intel HD Graphics)と、NVIDIAの外付けGPUを共存させ、必要に応じて外付けGPUにグラフィックス処理を行わせるものだ。

 統合型グラフィックスコアと外付けGPUの両者は同時にシステムに存在するが、興味深いのは、ドッキングステーションを追加したとき、最大4台(うち1台はノートPCの内蔵ディスプレイ)のディスプレイを利用できることだ。このように、統合型グラフィックコアと外付けGPUを同時に利用することでマルチディスプレイが実現するのも、Optimus Technologyの大きなメリットといえる。

 しかし、ここで疑問を持つユーザーもいることだろう。外付けGPUを使うとき、Intel HD Graphicsは無効になるのではなかったのかと。例えば、同じアーキテクチャ(Clarkdale)によるデスクトップPCの場合、PCI Express x16スロットにグラフィックスカードを組み込むと、Intel HD Graphicsは無効になる。もし、Optimus Technologyと同じことができるのであれば、デスクトップPCでもIntel HD Graphicsと外付けGPUによるマルチディスプレイ環境が実現できるはずだ。

 インテルがモバイル向けのCalpellaプラットフォームでサポート(ただし、オプション扱いだが)する「Intel Switchable Graphics」では、統合型グラフィックスコア(Intel HD Graphics)と外付けGPUを、リブートなしに(on the fly)切り替えて使うもので、両者のうち使えるのはどちらか一方になる。この機能では、外付けGPUはNVIDIA製に限らない。インテルは、統合型グラフィックスコアと外付けGPUを同時に利用することを想定していなかった。NVIDIAはOptimus Technologyでインテルの想定外の環境を実現したことになる。

 NVIDIAのSwitchable Graphics Technologyでは、統合型グラフィックスコア(IGP)の出力は、FDI(Flexible Display Interface)を経由してチップセット(PCH)が内蔵するディスプレイコントローラへ導かれ、そこから、最終画面出力が生成される。この技術ではIGPの画面出力と、外付けGPUの画面出力がマルチプレクサ(Muxes)で切り替わる。この方法は、インテルがIntel Switchable Graphicsで導入している手法でもある。

インテルが開発したIntel Switchable Graphicsでは統合型グラフィックスコアと外付けGPUの同時利用はできない(写真=左)。NVIDIAが開発したSwitchable Graphics Technologyもインテルと同じ構成と考えられる(写真=右)

インテルの環境では共存できない統合型と外付け

 加えて、NVIDIAのSwitchable Graphicsでは、外付けGPUはArrandale(CPUとIGPとMCHが統合したチップ)に接続されている。Calpellaプラットフォームでは、Arrandaleが外付けGPU向けのPCI Express x16をサポートし、チップセット(PCHとして機能する“Ibex Peak”)が計8レーンのPCI Express x1をサポートする。統合型グラフィックスコアと外付けGPU用のPCI Express x16が物理的に(接続ピン的に)共存できないのであれば、Switchable Graphicsですら実装できないことになってしまう。

 NVIDIAのSwitchable Graphics Technologyはマルチプレクサによって共存が可能になっているが、唯一例外がある。それは、内蔵液晶ディスプレイとIGPの間をeDP(Embedded DisplayPort、内部接続用のDisplayPort)で接続する場合で、eDPとPCI Express x16は一部のピンを共有しているからだ。ただし、現時点でeDPを用いたノートPCは存在しない(すべて内蔵液晶ディスプレイとの接続には従来通りLVDSを使っている)から、実質的な障害にはなっていない。

 もちろん、ピン的に共存できるからといって、両者が共存できるとは限らない。が、PCI Expressコントローラの数は不足しない。論理的扱いにおいて、統合型グラフィックスコアはPCI Express/PCIデバイスとして扱われるが、実際にはメモリコントローラと直結しており、PCI Expressコントローラに接続されているわけではないからだ(統合型グラフィックスコアとメモリコントローラは同じダイ上にある)。

 こうした点を踏まえると、統合型グラフィックスコアと外付けGPUが共存できないのは、論理的な制約である可能性が高い。論理的な制約の多くは、ソフトウェアの工夫で回避可能であることから、NVIDIAはソフトウェア的に両立させる方法を見つけたのだろう。

 Optimus Technologyは、ソフトウェア的な工夫に加えて、「Copy Engine」と呼ばれるハードウェア(一種のDMAエンジン)を追加して、外付けGPUの描画結果を、統合型グラフィックスコアのフレームバッファに転送することでそれぞれの描画を合成して、統合型グラフィックスコア側のディスプレイコントローラから出力させている。NVIDIAの説明によると、Copy Engineがなければ、グラフィックスエンジンがデータの転送を行わねばならず、性能が低下するという。

 これらのことをまとめると、Optimus Technologyとは、NVIDIAの外付けGPUをインテルのCPUに統合するグラフィックスコアと共存させるためのソフトウェア的な工夫と、データを統合型グラフィックスコア側へ転送するハードウェアの組合せで構成されていると考えられる。Optimus Technologyにおける外付けGPUの接続は、Switchable Graphics Technologyよりシンプルで合理的に見える。

 統合型グラフィックスコアを搭載するデスクトップPCにグラフィックスカードを追加してマルチディスプレイを行うのであれば、わざわざ外付けGPUの描画結果を統合型グラフィックスコア側に転送する必要はないから、Copy Engineは不要になる。Optimus Technologyのソフトウェア部分だけ応用することで、マルチディスプレイが実現しそうなものだが、NVIDIAがそれを行わないのは、何かほかに理由があるのだろう(例えばSLIとの共存が難しいとか)。

Optimus Technologyの接続図。物理的な接続は、Switchable Graphics Technologyよりシンプルだ

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