「Mountain Lion」でさらなる飛躍を目指すポストPC時代のMacWWDC 2012リポート(1/2 ページ)

» 2012年06月21日 11時43分 公開
[林信行,ITmedia]
WWDC 2012でベールを脱いだ「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」

 WWDCの開催から1週間以上が経過した。すでにiOS関係の発表については、別記事で紹介した通り。今回は、売り切れが続く「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」を含む、Mac関連の発表を筆者の個人的感想や洞察を中心にまとめていく。

 7月リリースと発表された「OS X Mountain Lion」で、MacはよりiOSに近づくことになる。しかし、iOSに近づきつつも、キーボードを搭載するPCとiPadのあいだには明確な区分があり、あえてOSを分ける必要がある、というのがアップルの哲学であり、Windows 8を出すマイクロソフトとの違いでもある。

 アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏は生前、キーボード付きで画面を垂直に立てて使うデバイスは、長時間のタッチ操作には向かない、と言っていた。そして「OS X Lion」のリリースに向け、MacBookシリーズが搭載するマルチタッチ対応トラックパッドの大型化を図り、デスクトップPC向けにもMagic TrackPadを提供してきた。iOS機器に近づきつつも明確な線引きが行われたMacの最新戦略をここに振り返ってみたい。

RetinaディスプレイモデルがMacの新しい時代を切り開く

超高精細なRetinaディスプレイがついにMacにも搭載された

 2010年に発表されたiPadは、PCやスマートフォンを抜く勢いで急成長するタブレットという市場を生み出した(ユーザー数5000万人に到達したスピードは、Macが21年、iPod touchが4年、iPhoneが3年強なのに対して、iPadは2年弱となっている)。

 このタブレット市場においてiPadは首位を独走し、続く2位のAndroidに対して2倍にもなる圧倒的なシェアを誇っている。ただ、そのiPadの勢いに食われて、ここ数年ではノートPCの需要が減っているという報告もある(もっとも、世界経済の落ち込みやHDDの供給不足のせいと見る人もいる)。

 だが、個人が外で気軽にメールやWebブラウジングをしたり、教育機関や企業で利用する情報端末として、iPadがノートPCに代わるかなり有望な候補となってきたことは否めないだろう。しかもこの春に登場した新しいiPadが、高い表現力を持つRetinaディスプレイを備えたことによって、さらにノートPCは分が悪くなってきた。これは何も、Windows搭載ノートPCだけの話ではなく、OS Xを搭載したノート型Macでも同じだった――WWDC 2012で、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルが発表されるまでは。

 そう、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、新しい「世代」のノートPCだ。

 ピクサーのアートディレクターであるジョン・ラセター氏は「アートがテクノロジーに挑戦し、テクノロジーがアートにインスピレーションを与える」を座右の銘にしているが、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、まさにそれを体現したようなデバイスといっていい。

 地上デジタル対応のフルハイビジョンテレビや、Retinaディスプレイ搭載のiPadといった新時代の高精細デバイスには、これらの製品に見合った新時代のコンテンツが必要だ。しかし、現在市場にあるほとんどのコンテンツは、地上アナログ放送時代と本質的にはあまり変わらないツールで作られている。

 しかし、そこにフラッシュメモリを主体としたアーキテクチャや、これまでと隔世の感がある解像度を備えた次世代マシン、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルを投入し、あわせて新世代のOSも提供するアップルは、次世代を担う新しいアプリケーションが登場し、コンテンツの表現も劇的に進化をすると期待しているのではないかと思う。

 これは商品戦略としても優れている。まず1つに、Retinaディスプレイは高解像度写真や文字の鮮明さを見るとすぐに分かるアドバンテージがあり、既存の製品のユーザーは同ディスプレイを目にする度に、その圧倒的な違いを意識せざるを得ない(今はまだiPhone 4/4S、iPad、MacBook Proの1モデルだけだが、これからどんどん増えてくる)。

 これは何もMac製品の戦略だけの話ではない。これまではiPadのRetinaディスプレイに対応したアプリケーションを作ろうにも、巨大な27型ディスプレイでも使わないことには、アプリケーションの表示をピクセル単位で確認することができなかった。しかし、新MacBook Proであれば、画面のたった6割程度のスペースでiPadのフル解像度に対応した画面設計ができる。これによって、iPadのRetinaディスプレイ対応アプリケーションは今後加速度的に増えるはずで、そうなったとき、他社のタブレットは文字の美しさ1つで比べても、iPadから大きく見劣りすることになってしまう。

 いずれはMacBook Airをはじめとするほかのノート型Macや、iMacに代表されるデスクトップ型Macすべてが、このRetinaディスプレイを採用するのは火を見るよりも明らかだ。しかし、ライバルのWindows搭載製品がそこに追いつくには、しばらく時間がかかるだろう。というのも、アップルほど多くのディスプレイパネルを調達するのも大変なら、それをOS側でサポートしてもらうにも時間がかかり、さらには対応アプリケーションを作ってもらうのにもやはり時間がかかるからだ。MacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、まさに一部のアプリケーションからOS、ハードウェアまで、自社で開発しているアップルだからこそ作れる製品といえる。

 それまでの数年間、Retina Macを見たことがあるユーザーは、ほかのPCを見る度に、ハイビジョン放送を見た直後にアナログ放送を見たときのような、あるいは数百万画素のデジタルカメラで撮影した写真を見た後に、数十万画素のデジタル写真を見るような、やぼったさをどこかで感じずにはいられなくなるはずだ。

 ちなみにWWDC 2012の基調講演で紹介されたビデオの中で、アップルデザイン部門の上級副社長、ジョナサン・アイブ氏は、劇的なパフォーマンスと、優れた携帯性という相反する目的を達成できたのは、アップルが内部の部品に至るまで製品の形状にあわせてデザインされた、自社製のものを採用しているからだと語っている。この言葉の通りだとすれば、仮に他社がRetina解像度のディスプレイをいち早く調達できたとしても、それをここまで薄いボディに納める点で、また1つハードルがあるのかもしれない。

 こうした、他社とまったく異なるアップルのモノ作りは、一朝一夕でできたものではない。iPod、iPhone、iPad。あるいはPowerBook G4、MacBook Proと世代を重ねる度に、アップルは製品の素材レベルで洗練を重ね、製造方法で洗練を重ね、前の製品での経験の上に新しい経験を積み重ねながら、彼ら流の21世紀のモノ作りの方法を築いてきた。そこには、使う部材を減らすための徹底的な工夫から、ファンのノイズを耳障りでなくすための工夫、環境への配慮の工夫といったあらゆる視点から改良が盛り込まれている。

従来よりも圧倒的に薄いボディに最新世代のハイエンドパーツを搭載しつつ、ファンノイズなどにも配慮している

 これらのいくつかの点は、(数年前までは)アップルの弱みとされてきたことだ。しかし、批判を受けて一時的な解決策に逃げず、正攻法という製品の本質的アプローチを変えずに、その中で少しずつ改良を加えてきたことで、ついにMacBook Pro Retinaディスプレイモデルのレベルにまで到達したということだ。

 もちろん、「未来はRetina」と分かっていても、「今すぐは、いらない」という人もいるかもしれない。ただ、そうした人たちにとっても、一新されたMacBook AirやRetinaディスプレイ非搭載のMacBook Proシリーズは、Ivy Bridgeと呼ばれる新型CPUに切り替わり、より高速なIntel HD Graphics 4000や、USB 3.0ポートの装備、さらには512GバイトSSDまで搭載できるようになったりと大幅に魅力を増している。Retina表示非対応の旧世代ノートPCの市場でも、あいかわらず有望な選択肢であり続けるだろう。

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