iOSとMac OS Xの進化は行き詰まるのか、それとも本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2012年06月19日 17時15分 公開
[本田雅一,ITmedia]

高密度・高解像度ディスプレイの使い方にシンプルな回答を用意したアップル

 WWDC 2012の開催週も過ぎ去り、アップル関連のニュースも落ち着きを見せている。筆者はちょうど、同じ時期にサンフランシスコに仕事に出かけていたが、開発者たち(+アップル製品のファンたち)の熱気は想像以上だった。

 WWDCは基調講演を除き、秘密保持契約の元に開催されるイベントのため、これまで取材はしてこなかった。ちなみにWWDCの講演は開催後、開発者向けにオンラインビデオでも提供されるので、聴くだけならば現地に行かなくても構わない。この辺りのアップルのスタンスは明確で、個人的にはとても好感を持っている部分だ。

15.4型ワイド液晶ディスプレイで2880×1800ドットの高解像度、高画素密度(1インチあたり220画素)を実現した「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」

 さて、さらに個人的な話をすれば、今回、約1年半ぶりに新しいMacを注文した。超高解像度ディスプレイへの第一歩を、自分自身で体験したかったからだ。

 スペックの上から言えば、単に画素数が増えただけだ。縦横ともに2倍の画素に驚いている向きもあるだろうが、世の中にはもっと高密度、高画素のディスプレイもある。それよりも、高解像度化することによるハードウェア、ソフトウェア両面でのデメリットを、アップルがどう料理するかという部分にひかれた。

 グラフィカルユーザーインタフェースを持つパーソナルコンピュータは、1インチあたり96画素程度が限界だったCRTディスプレイの時代に基礎部分が設計され、その上にアプリケーションが作られてきた。Webページもビットマップグラフィックスは96dpiが基本となっている。これが今や1インチあたり200〜300画素、あるいはそれ以上でも、十分に低いコストと描画パフォーマンスを引き出せる。

 後は、それをどう使うか? という点で、もう10年以上も業界は悩み続けてきた。アップルは整数倍の画素数というシンプルな答えを用意したことになるが、この辺りはまた、十分に使い込んだ上で、次期Mac OS XのMountain Lionがリリースされた後にでも、その振る舞いを確認したい。

 と、ずいぶん前置きが長くなったが、今夏のWWDCでの一連の発表を見て、アップルの製品開発面での強さを再確認すると同時に、Mac OS X、iOSといった“基礎部分”の進化に関しては“行き詰まり”とまでいかなくとも、どこか迷いのようなものを感じた。

行き詰まりなのか、新たなる進化の方向なのか

 昨年、現行Mac OS XのLion、それにiOS 5が発表されたとき、少しばかり違和感を持った。Macで言えば、全画面表示モードで役に立たなくなるサブディスプレイ、Mission Controlの完成度や、まるで役に立たないLaunchpad、Finderのビューについても手が入った。新たな操作性を目指すときに発生するゆがみとも言えるが、最近のアップルにしては未完成という印象が強かった。

 今やアップルの屋台骨となったiOSも、iOS 5になってそれまでのシンプルさを失ったのではないだろうか。iMessageはSMS/MMSの利用が多い米国では熱狂的に受け入れられたし、日本でも(SMSの相互乗り入れが始まったこともあり)今後は利用が伸びるだろう。

iOS 5に採用された「通知センター」。メールやメッセージ、カレンダーなどの新着情報をまとめて通知する

 しかし、Android、あるいはAndroidでアジアの各社が創意工夫しながら実装した機能を学習し、機能面でAndroidに遅れまいと、iOS向けにカスタマイズしてライバルの要素を取り込んでいるようにもみえた。通知センターなどはその典型的な例だろう。いまだ、スマートフォン向けのOSとして最も洗練された製品であることは疑う余地はないものの、さらに洗練度を上げるのは難しくなっているのかな? と、発表当時は感じていた。

 もちろん、そうした新しいOSに対する懸念が、すぐに製品全体の評価につながるわけではない。MacもiPhoneも、アップルの主力製品はいまだに魅力的だ。しかし、あるいはプラットフォームの完成度という面では、今が頂点なのだろうか?

 かつて90年代、いろいろな批判はあったものの、マイクロソフトはWindowsでパーソナルコンピューティングの未来をリードしていた。Windowsに盛り込まれたアイデアのいくつかはMacにも取り入れられたし、WindowsとPCが生み出した大きなエコシステムが、98年以降は業界標準の技術を用いて再構築したMacの進化を下支えした側面もある。

 しかし、新バージョンが登場する度に話題を振りまいたWindowsも、基礎部分の改善が進んでくると改良の方向性に行き詰まりはじめ、パートナー企業が提供してきた製品や機能、あるいは自社で開発して独立した製品として販売していた機能などを、Windowsの標準機能として取り込むようになっていった。

 どこからどこまでがOSの領域で、どこからどこまでがアプリケーションの領域なのか。個人向けソフトウェアだけでなく、企業向けシステムの分野においてもさまざまな議論がある。そうした細かな議論はともかく、OS本体の進化速度が遅くなってくると、パートナーの事業領域を侵し始めるのは、どのプラットフォームでも同じなのかもしれない。

iOS 6ではTwitterに続いて、Facebookの機能もOSに融合される

 例えば、iOS 5搭載のTwitter連動、iOS 6に搭載されるFacebook連動の機能は、iOSデバイスとソーシャルネットワークの密な関係を考えれば、妥当な機能追加と見る人もいるだろう。しかし、OSが利用するソーシャルネットワークを決め打ちする、というのは、本来あまりよいことではない。

 ソーシャルネットワークという枠組みで言えば、さまざまなタイプのネットワーク(ソーシャルグラフ)があり、ある情報(例えば、撮影した1枚の写真)に関して共有したい相手は、その時々によって異なるものだ。Androidの“共有”APIが使いやすい、とは言わないが、多様なサービスをプラグインできるという意味では、ソーシャルネットワークの種類を限定した機能統合は勇み足という印象を持った。

 OSの進歩について、「新たなアプリケーションを、パートナー企業が生み出せるよう、新しい道具を常に整備しておく」ことに主眼を置くべきと考えるなら、第三者による発展を促す方がいい。

 これはMac OS Xについても同じだ。Mountain Lionの場合で言えば、アプリケーションからの通知を一括管理する通知センターに関しては、OSでサポートすべきものだと思うが、ソーシャルネットワークを通じた情報シェアに関しては、連動するサービスを限定せずに拡張性を持たせるべきだろう(Mountain Lionは7月にリリースの予定だが、秋にFacebookを統合するとアナウンスしている)。

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