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» 2012年06月19日 17時15分 公開

本田雅一のクロスオーバーデジタル:iOSとMac OS Xの進化は行き詰まるのか、それとも (2/2)

[本田雅一,ITmedia]
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新たな進化の方向を模索するMac OS XとiOS

 このように書いていると、新しいMac OS XとiOSに対し、否定的な印象を持っていると思われるだろうが、それぞれの品質に関して疑いはあまり持っていない。

Mountain Lionでは、iMessageやリマインダー、Game CenterなどiOSの使い勝手をMacに取り入れ、iOSデバイスとの連動性を高めている

 Mountain LionはiOSが備える機能を取り込み、iOSデバイスとの連動性を高めることに主眼が置かれていると案内されており、実際、そうした側面は強い。

 しかし、OSの基礎部分に関しては大きく手を入れず完成度を高めており、Lionで生まれ始めていたゆがみをうまく補正する堅実なアップデートになるだろう。

 iOSも“5”になったときには大幅に動作が鈍くなったが、その後の改良で以前の軽快さを取り戻しつつあり、その反省はiOS 6にも生かされているように思う。iOS 5で感じ始めていた歪みは、iOS 6では感じさせないはずだ。

 また、OSが進化していく過程で、パートナーの事業領域を侵すことも、ある程度は仕方がないという見方もある。例えばマイクロソフトは、かつてOS全体のユーザーインタフェースにWebブラウザの振る舞いを取り込もうとし、また動画や音楽の再生機能をOSの一部にしようと試みた。

 当時のマイクロソフトの言い分は、テクノロジーの進歩やコンピューティングのトレンドに応じて、必要な機能はOSの中に取り込んで横断的に各アプリケーションで活用した方がユーザーの利益にかなうというものだった。

 このマイクロソフトの主張には異論もあるだろうが、ここではさておき、その後の紆余曲折(うよきょくせつ)の中で、マイクロソフトは独禁法違反で追求され、Webブラウザやメディア再生の機能をOSから切り離す方向へとWindows開発の舵(かじ)を切った。

 PC用OSとして90%を越えるシェアを持っているWindowsがOSの中にアプリケーションが持つ機能を統合してしまうと、競合する他のアプリケーションの生存与奪権利をマイクロソフトが有してしまうことになる。

 マイクロソフトが、いくらコンピュータシステムとインターネット技術の統合、一貫した体験を主張したとしても、すべては詭弁(きべん)に聞こえていたのが当時の世相でもある(ちなみに当時のアップルは、企業存続の危機にひんしていた)。

 ビル・ゲイツ氏はソフトウェアはWebへと向かい、アプリケーションの中心がWebへと向かうなら、それをOSに統合していかなければならないと主張。アプリケーションプラットフォームとしては、その方向へと進化できたものの、エンドユーザー向け機能としてのInternet ExplorerやWindows Media Playerなどは、Windows本体とはやや遠い位置に置かれるようになった。

 今のアップルもその影響力から言えば、WebサービスやiPhoneに関連するさまざまな事業領域において、ある意味、生命与奪の権利をアップルが有しているという側面はある。アップルが地図サービスをGoogleから自社提供サービスに切り替えれば、それまでGoogle Mapsに集まっていたロケーション関連のビジネスは、アップルへと流れ始めるだろう(もちろん、Google Mapsがなくなるなんてことはないだろうが)。

 アップルはPC向けOSにおけるマイクロソフトほど、大きなシェアを獲得しているわけではないため、独禁法違反の調査が入ることはまだないかもしれないが、地図サービスに限らず、OSに特定のWebサービスを囲い込むことに対して、今後は批判の声が強くなることも予想される。

 iOS 6に追加されるPassbookなどは、その実装方法や今後の運用方針によっては商取引と直接的に連動するため、アップルに対する不満の声が挙がる可能性もある(あるいは各ステークホルダーにとって公平なプラットフォームとして定着するかもしれないが)。

 しかし、これは新しい進化の方向を模索した結果の方向性ではないか? とも感じる。こうした印象を持つようになった点が、個人的にはiOS 5と6の一番の違いだ。

iOS 6では地図機能をGoogle Mapsからアップル独自のものに切り替える(写真=左)。iOS 6では、航空券、映画のチケット、会員証、クーポンなどのさまざまなチケットやカードを電子的に1つにまとめるアプリ「Passbook」も追加される(写真=右)

“OSが束ねる要素”を拡大

 マイクロソフトがPC分野において、現在でも大きなシェアを持ち、また大きな利益をたたき出しているにもかかわらず、以前ほどの存在感を示せていないのは、“OS”という殻の中に入っていたからだと思う。

 OSで独占的な地位を得たマイクロソフトだが、実際にエンドユーザーの手に触れるハードウェアは、自分たちのコントロール下にない。これはPCメーカーにとっても同じで、いくら優秀なエンジニアが開発したとしても、OSの機能にまで踏み込んだPCをメーカーは設計できない。

 その点、以前からアップルは自社ハードウェアとOSの組み合わせで価値を創出し、それらがネットワークでつながることで、より大きな価値を生み出す仕組みを作ってきた。現在のアップルが目指しているのは、その次の段階、すなわちネットワークサービスの中でも、特にユーザー体験を高める上で重要なものを、OSと統合しようと考えているのかもしれない。

 例えば、地図のようにロケーションサービスと連動する重要なサービスは、自社でコントロールできなければ、提供できる機能の範囲が限定されてしまう。iPhoneの使われ方を考えれば、クーポンやチケット発行などをOS側に統合し、より使いやすくしたいと考えるのも当然だろう。振り返れば、iCloudの統合も、同じ意思決定によるものだったとみることもできる。

 すなわち、今のiOSやMac OS Xが統合しようとしているのは、アプリケーションの領域ではなく、パーソナルコンピューティングの基礎となるサービス部分ということだ。それらはハードウェア、OSと統合した上で、新しい時代のアプリケーションプラットフォームになっていく。

 こうしてコラムを書いているとき、ちょうどマイクロソフトが自社ブランドでタブレット端末を発売する、というリーク記事がウォールストリートジャーナルに掲載された。Xboxの例でも分かる通り、彼らも自身でハードウェアを持たなければユーザー体験をコントロールできないし、コントロール可能になれば、より大きな価値を提供可能になるだろう(米Microsoftは現地時間で6月18日、自社開発のタブレット端末「Surface」を発表した/編集部注)。

 コンピュータ分野における学術用語としてのOS、基本ソフトという言葉の意味は今後も変わらないが、製品の枠組みを考えるとき、OSに求められる要素、OSが統合していくべき範囲やカテゴリの定義は大きく変化しようとしているのかもしれない。

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