“トラフィック爆発”への対処を進める通信キャリアのネットワークの今本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2012年04月25日 12時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 スマートフォンによるデータトラフィックが爆発的に増加したことで、携帯電話キャリア主要各社のネットワークは、過去に進めてきた設備投資計画の通りでは、その増加ペースに追い付かなくなってきた。どのようにして、自社のインフラにまんべんなくデータトラフィックを分散させるかは、現在の大きなテーマになっている。

 そんな中、4月10日からKDDIがEV-DO Advancedを採用したというニュースは、多くの読者がご存じのことだろう。KDDIはEV-DO Advancedの導入エリアを急拡大させ、6月中には全国で利用可能になるという。またNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルはいずれも、Wi-Fiネットワークへのオフロードの取り組みにも積極的だ。

 モバイルネットワークが第3世代から第4世代へと変節する今、各社のネットワークの状況を、実際の使用感やネットワークの増強計画などを見ながらまとめてみたい。

ウチの方が優秀だと言うけれど……

 携帯電話のネットワーク、それもデータ通信の速度となると、刻々と状況が変化して安定した値は出てこない。インフラの取材をすると、必ず「うちが一番頑張っている」という話が出てくるが、それを正確に伝える手段はなかなかない。

 もちろん、ネットワークを運営する側からすれば、さまざまな統計データを出すことも可能だろうが、そこらの一個人や編集部が頑張ってみても、なかなか「完璧」なデータは取れないものだ。とはいえ、実際に使っていれば、言葉にし辛くとも、個人的に“感じる”ことは多い。

 現時点で筆者は「BlackBerry Bold 9900」でドコモ回線、「ARROWS Z ISW11F」(「iPhone 4S」を使う場合もあり)でau回線、「iPhone 4」でソフトバンク回線を使っている。

 あくまで体感的、主観的なものだが、都市部のトラフィックが多い場所、例えば新宿や池袋の駅構内といった、人が集中する場所において(そして筆者の行動パターンにおいて)、もっとも安定して通信できていたのは、昨年末からこの春にかけてはauのネットワークだった。

 ドコモのFOMA回線は、利用シーンや利用地域を広げた時には、大変に高品質なネットワークだと感じるものの、やはり都市部では利用者数が絶対的に多いのだろう。スマートフォンが増加して以降は、駅の構内などで、データが流れる時と流れない時の速度差が著しく大きくなった。とはいえ、せいぜい遅くなる程度で、送受信ができなくなるようなことは経験がない。

 混雑状況がドコモよりさらに悪いと感じるのが、ソフトバンクの3G回線だ。データが流れない時間が数秒から数10秒続いた後、突然、流れ始めてすぐに止まり、タイムアウトするといったことが頻発する。現象がいつも発生するわけではなく、時と場所によっては非常に高速に通信できることもある。問題はその差が激しいことで、急ぎのメールを送りたいのに送ることができず困ったことがしばしばあった。

 “あった”というのは、この半年で改善が進んだからである。特定の駅のホームにおいて、ピンポイントで接続状況が良くなる、ということが、新宿をはじめ何カ所かであった。新宿の場合、駅だけでなく街中の混雑も激しい。例えば新宿・伊勢丹の周辺はソフトバンクの3Gネットワークにとってかなり厳しいエリアで、時間帯によってはほとんど通信ができない状況すら体験したことがあるが、こちらも現在はそこそこデータが流れるようになってきている。

 UMTS(W-CDMA)で3Gネットワークを構築している2社のネットワークに関しては、ピークのスピードは高速だが、データ通信の混雑状況が深刻さを増してくると、単純に遅くなるだけでなく、詰まったように動かなくなるように感じる。

 これに対してauのネットワークは、おおよそ都心では1Mbpsを越える程度のピーク速度であった。1Mbpsを切ることも珍しくはない。最高速度という点では、UMTS回線の方が上に感じる。しかし、少なくともデータが詰まるような振る舞いにはならず、少しづつでも流れてくれることが多い。WiMAX内蔵スマートフォンをいちはやく導入したことで、3G回線からのオフロードも進んでいるのかもしれない。

 動画を視聴するため……というならば、ピーク速度が必要という結論になるかもしれないが、メールやWeb、SNSの閲覧に利用するならば、少しずつでもその場でデータが流れる方が使いやすい。と、いうのがEV-DO Advanced導入前の話である。

ネットワークがより賢くなることでもたらされるもの

 EV-DO Advancedについては、すでに本誌でも伝えられている。簡単に言ってしまうと、端末から複数の基地局が見えているときに、どの基地局と端末を接続するかの選択を、従来よりも賢くやっていこうというものだ。

 一般的には、もっとも信号レベルの高い(もっとも近いと想定される)基地局が選ばれる。この点はCDMAでもUMTSでも同じだが、EV-DO Advancedでは周辺基地局の状況も見据えながら、基地局あたりの利用者数を分散させるよう基地局を選択する。

 特に混雑が予想される場所、前記のような繁華街の駅や街中などでは、たいていは5〜6カ所ぐらいの基地局が端末から見えている。もちろん、地方に行けばこの数は減るが、その場合は利用者も減る。基地局の選択肢は、混雑状況がひどいところほど幅広い。

 つまり、混雑している場所ほど、EV-DO Advancedの導入効果も高い。EV-DO Advancedは最高速度を上げる技術ではなく、基地局利用の効率を上げる技術ということだ。その結果としてスループットが向上する。

 EV-DO Advancedは、端末側のソフトウェアを一切変更する必要がないという特徴もある。利用できるのが一部の新しい機種に限られたり、Androidスマートフォンにアップデートを適用して対応したりする必要があると、過去のアップデートできないフィーチャーフォンやiPhoneには手出しができず、効果も限定的にしか現れない。しかし、EV-DO Advancedは、EV-DO対応の端末ならば、どの製品であっても恩恵を受けられるので、基地局のセル設計を一気に変更し、最適化したような効果が得られる。

 またKDDIはこれまで、周波数再編に伴う新800MHz帯への対応作業の中で、基地局の配置も見直してきた。東京都区部では約4倍の基地局が配置され、ビル陰対策も進んだ。端末から見える基地局が増えたことで、エリアカバー率が向上しただけでなく、EV-DO Advancedによる選択可能な基地局の増加という面でも効果的になっていると予想される。

 では実際にEV-DO Advancedの効果はいかほどか、ということで、都内各所で(WiMAXを切った)ARROWS Z ISW11Fとau版iPhone 4Sを持って回り、テストしてみた。この手のテストの常として、安定した速度が計測できるわけではないが、筆者が頻繁に利用している池袋、新宿、恵比寿、品川といった駅では、いずれも以前の2倍近いスループットが出る(場合が多い)という印象だ。例えば新宿の場合、混雑時は500kbpsを切ることも少なくなかったが、800〜900kbps程度の速度が出る。池袋や品川ではコンスタントに2Mbpsを越えるようになった。

 テスト経過を見ても、テスト開始までの時間が短く速度ムラが少ないため、地図やWebブラウザを動かす際にスムースに使うことができる。このあたりの感覚を、どうにか体感的な速度(ピーク速度だけでなく、なかなかデータが流れ始めないなどのストレスなども)を数値化できないものかと、色々な計測方法を試したが、結局の所、何を求めているかによって感じることは違うため数値化すると必ずどこかに歪みが出てくる。

 例えたまに“詰まり”があっても、流れ始めた時のピーク速度が速い方がいい、という人もいれば、コンスタントに流れ続ける方がいいという人もいる。これは「ネットワークの快適さ」が使い方や感覚に強く依存するからだ。ただ1つ言えるのは、確実にauのネットワークが良くなっているということだ。

 KDDIが言う、「データスループットで2倍、収容数で1.5倍」(ただしラッシュ時の山手線でもKDDIは接続できないことがほとんどないため、収容数増加はスタジアムやコンサート会場でなければ体感できない)という数字も納得できるというのが、この数週間を振り返っての率直な感想だ。

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