底面から、左右端のヒンジ部を固定するネジと、液晶ディスプレイ部につながるケーブル類を外す。こうすれば、液晶ディスプレイ部がスライド機構のヒンジ部とともに丸ごと分離できる。この独特のスライド機構については、じっくり見ていこう。
Surf Sliderデザインと名付けられたこのスライド機構には、VAIO Duo 11の開発で最も力が注がれた。携帯電話のように小さな端末ではスライド機構も珍しくないが、強化ガラスが貼られた11.6型ワイド液晶搭載のディスプレイ部はそれなりに重く、これを軽い力で滑らかに開閉させるのは、相当に高いハードルとなる。
そのため、ノートPCの機構設計においては、ほかの多くの部分と兼任でヒンジ部の担当者がつくのが普通だが、今回はまったく新しいスライド機構を完成度の高いものとすべく、ヒンジ部専任の担当者をつけて開発を進めた。
キーボードモードとタブレットモードを軽い力で素早く切り替えて両立できる理想的なデザインとして、スライド型ボディの採用に踏み切ったものの、その開発は苦難の道だ。キーボードモードでもタッチ操作やペン入力がしやすいように、あえて液晶ディスプレイ部は固定して動かないデザインに決めたはいいが、液晶ディスプレイ部のスムーズなスライド動作を実現するにはトライ&エラーの連続だった。
鈴木氏は「開発初期のモックアップは開閉時にギイギイと音が鳴ったり、異物感が大きかったり、耐久試験でもたった数百回の開閉試験で破損してしまうなど、それはひどい状態だった。スライド型で液晶が下品に開くと、相当粗悪なものに感じてしまうとの懸念があり、機構設計の担当には『普通に開くだけでは絶対NG。品位をもった動きで、軽く滑らかに開かないといけない』とよく話をしていた。普通は1回試作をすれば次に金型を起こせるが、今回は特別に2回多く試作し、やっと満足できる品質にまで持って行けた」と当時の苦労をにじませる。
浅見氏も「どのように液晶ディスプレイ部がスライドして動くかは、開閉させるリンクの組み合わせで決まってくるが、キーボードすれすれを移動させるのは接触の可能性があって危険で、かといって浮きすぎると使い勝手や見た目が悪い。この動き方を変えるとなると、リンクの一部分だけでなく、スライド機構の全部に影響が出てくるため、何度も試作が必要だった」と語る。
「品位のある動き」という難しいオーダーに応えるため、ヒンジ部はリンクを複数組み合わせており、ディスプレイ部を持ち上げる強いバネと、スライドして横移動するディスプレイ部を斜めに引き起こすカムユニット、勢いよく立ったディスプレイ部のショックを最後にスッと吸収する油圧式のダンパーなど、全体のバランスを細かく調整することで、軽い力で滑らかに開閉できるユーザー体験を追求していった。そして、左右のヒンジ部にそれぞれあるリンクがきちんと連動して動くよう、強度のあるマグネシウム合金の板で左右のヒンジ部を接続している。
ヒンジ部を構成するパーツでも特にこだわったのがダンパーだ。
浅見氏は「これが硬すぎると開く途中で止まってしまい、軟らかすぎると勢いよく開きすぎてガチャンと大きく振動してしまう。どちらも品位のある動きとはほど遠い。いかに気持ちよく使ってもらうかを考えて、ダンパーだけでも5〜6種類は試して調整を追い込んだ」と説明するように、経年変化や量産時における少しのバラツキも考慮し、開いた液晶ディスプレイ部が最後にふわっと止まる動きを演出するダンパーの硬さを追求した。
このスライド機構のダンパーは、金森氏と鈴木氏もお気に入りの部分という。「ノートPCの機構としてダンパーが入っているのは、メカ好きにはたまらないところ。VAIO Duo 11のダンパーはヒンジの中に隠れて見えないが、いっそマウンテンバイクみたいに外側に露出していたら面白かったかも(笑)」とは金森氏のコメントだ。
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