世間では「GAFA」という、IT系プラットフォーマー全てを一緒くたにする表面的な言葉がはやってしまったが、その一方で、現実の世界では情報を商品とするインターネット系プラットフォーマーと、それらから個人を守ることを目指すAppleの対立が深刻化してく。
そしてAppleのこうした訴えが多くの人々の目に触れ、ヨーロッパや米国でも「個人情報を収集しない」ことを高らかにうたったIT系ベンチャーが続々と立ち上がり始めると、さすがにFacebookやGoogleも、そのままでは事業を続けられなくなり、例えばAndroidの機械学習ではFederated Learningという個人がどんな情報に触れたかを一切関知せずに、スマートフォン内で機械学習した結果だけをサーバに吸い上げるなど、プライバシーに配慮した設計が次々と採用され始めた。
2019年に行われた開発者会議ではFacebookやGoogleも「プライバシー順守」を一番大きなテーマに掲げるなどの変化は生まれた。
しかし、それでも他社の取り組みはまだまだ、というのがAppleのスタンスだ。
環境保全の取り組みで、厳しいヨーロッパの基準よりもさらに高い基準を自らに課して実践してきたように、プライバシーの取り組みについても、プラットフォーマーであるからこそ、業界で最も厳しい基準を設けて実践するだけでなく、プライバシーの保護がいかに大事で、その際にどうしたことに注意すべきかを注意喚起すべく、今回のセキュリティについてのWebサイトの全面リニューアルやホワイトペーパー公開、といった動きにつながっている。
ここで誤解してほしくないのは、Appleは何も機械学習の発展など、データーの収集そのものを否定しているわけではないということだ。
一度、これはOK、これはダメという厳しいガイドラインをしっかりと作っておいて、その上でそのガイドラインに沿って行う情報収集については、逆にAppleもこれから積極的に行っていく模様だ。
その象徴とも言えるのが、「Find My」サービスを使った、Macの検索機能だろう。macOS Catalinaでは、GPSなどを搭載しないはずのMacだが、常にBluetooth機器と接続するためにBluetoothの信号は出し続けている。置き忘れや盗難にあったMacのそばを誰かのiPhoneなどのApple製品が通ると、その信号をキャッチしてAppleのサーバに知らせて位置情報を特定する。
ただし、その際にそれが誰のMacであるかを特定できない工夫がされていて、誰のiPhoneが発見したかも特定できない仕組みで、ただMacがどこにあるかの情報だけが持ち主に届く。持ち主は発見してくれたiPhoneの利用者にお礼をしたいかもしれないが、どんなにお礼をしたくても、発見した本人も知らなければ、Appleでもそれが誰であるかを特定できない。
そこまで徹底したプライバシー保護のガイドラインに沿った形であれば、逆に積極的に情報を活用していこうというのがAppleのスタンスだ。
「何も、情報収拾を全てやめろ」というわけではない。こうしたガイドラインなしで、誰も読まない冗長な確認事項を表示するだけで、個人情報を収集するとなし崩しになって、冒頭で紹介したケンブリッジ・アナリティカのような悪用を生みかねない。
それは20世紀、空気を汚し、汚い水を垂れ流し、たくさんの公害を生みながらも「経済のため」といってまい進してきた工業化の失敗を、デジタルの世界で繰り返すのに等しい行為だ。
もちろん、この行為において、あのAppleですら失敗は犯す。つい最近、Siriの性能向上のために行っていたユーザー音声の録音が許可なく、分析を行う他の会社に流れていたことが発覚し、大ニュースになった(Appleは収集した声は誰のものだか分からない状態になっていたと弁明している)。
最新のOSでは、この情報収集に参加するか否かの分かりやすい確認画面がiOSの初期設定時に表示されるようになった(実は分かりやすい、読みやすい形で許諾を取ることも、個人情報保護の大事な要素だと筆者は思う)。
この失敗を踏まえて、ますます個人情報の保護には厳しく努めるというApple。
確かに世の中には、多少のプライバシーを犠牲にしてでも得たい便利さというものも、あるにはある。
だが、そもそもプライバシーというものがなぜ大事で、どうしたことに注意を払えばいいのかという気付きを得るためにも、新しくリニューアルされたAppleの「プライバシー」特設Webサイトは一見の価値がある(Appleには、日本のIT企業のプライバシー意識を高めるためにも、ぜひともホワイトペーパーを日本語化してもらいたい)。
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