「Apple M1」でMacの性能が大きく伸びたワケ Intel脱却計画に課される制約とは?本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

» 2020年11月12日 11時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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高帯域のメモリアクセスに依存するが故の上限16GB

 同じパッケージに搭載できるDRAM量を見積もったとき、経済的に妥当なラインが最大16GBだったのだろう。今回発表されたM1搭載Macのメモリ容量は、全て8GBか16GBだ。またSSDコントローラーの制約なのか、SSDの最大容量も2TBになっている。前述したThunderbolt 3・USB 4ポートが2つというのも同じ理由だろう。

 システムを電気的にコンパクトにすることで高性能化しているのがM1の根幹なのだとしたら、入口としてエントリークラスのMacから順にApple Siliconに置き換えるというシナリオは、それ以外できないのだと思う。

 1つのパッケージにシステムの大部分を集約するというコンセプトは、性能、消費電力、セキュリティなどあらゆる面で有利ではあるが、一方で大きなシステムを作るハードルは高くなる。

 MacBook Airは全面的にM1へと移行しているが、MacBook Proは13インチモデルの下位(Thunderbolt 3×2ポートモデル)のみ。Mac miniもThunderbolt 3が4ポートあるIntel搭載モデルが併売される。これはいずれも既存のモデルが提供する機能を、M1では埋めきれないからといえる。

Mac mini M1搭載のMac miniは背面のThunderbolt 3・USB 4ポートが2つになる

 単純にCPUとGPUの性能、Neural Engine搭載の意味なども考えれば、もっと大胆にApple Siliconに移行してもよさそうなほど、M1のパフォーマンスは高い。しかし、その高いパフォーマンスを引き出している理由そのものが、機能面でのスケーラビリティに制約を与えていることになる。

M1から考える今後のシナリオ

 M1がシステムに搭載されたときのパフォーマンスは、今後Macの実機を入手してからゆっくりと評価していきたいが、AppleがSoCという形でパフォーマンスを上げていくことを考えているのであれば、チップの集積度を上げる以外に機能を向上させる方法はない。

 今回のM1は160億個ものトランジスタを集積している上、5nmの最新プロセスを最初に使った製品でもあるため、来年劇的にトランジスタ数が増えるとも考えにくい。もちろんコスト次第ではあるのだが。

 今後のシナリオとしては、M1の延長線上にThunderbolt 3・USB 4のチャンネル数倍増、DDR5対応+接続可能なDRAMの容量増加、SSDコントローラーの拡張で接続可能なSSD容量が増加、といった改良が考えられる。その際のCPU、GPU、Neural Engineなどは、次期スマートフォンのiPhone 13に使われるA15 Bionic(製品名は不明)向けの設計が応用されることになるのかもしれないし、現状のコア設計のまま周辺を強化するのかもしれない。

 そこは使用できるトランジスタ数との兼ね合いだ。実際、AppleはiPhone 11向けのA13世代で、A13X BionicなどのiPad向けSoCを開発しなかった。集積できるトランジスタ数に制約があるなら、M1のメモリやI/Oまわりの拡張性を改善する方が優先となるかもしれない。

 しかし、このようなシングルチップでMacの全用途をカバーするのでは、当初いわれていた「2年」でIntel Macからの移行計画を完遂することはできない。ということは、シングルチップはなく複数のチップで、Apple Mシリーズチップのアーキテクチャを生かせる方法を何か用意(開発)しているのかもしれない。

Mac 今後2年でIntel Macからの移行を果たす計画だが、Apple Silicon搭載Macのリリースはまだ始まったばかりだ

 M1のアーキテクチャを見ると、複数種類の処理回路とキャッシュ、DRAMの間をファブリック(型のネットワークチャンネル)で結んでいる図がある。

UMA 1つのパッケージ内で複数種類の処理回路とキャッシュ、DRAMの間が結ばれているM1

 この相互接続のアーキテクチャをチップ内、SIP内、複数チップ間と速度を変えながら結び、柔軟なシステム設計ができるように準備を進めているとしたら、などと妄想するが、いずれにしろハイエンドデスクトップの「Mac Pro」までをカバーするならば、複数チップ構成はもちろん、さまざまなタイプの拡張ボード、アクセラレータなどにも対応せねばならないだろう。

 これはCPUコアを増加させる上での必要な措置になると考えられる。またデスクトップ向けと割り切るならば、M1ほど消費電力あたりのパフォーマンスを重視するのではなく、よりスケーラビリティの高いデザインに振る方がよいことは明白だからだ。

 どのような構成、分割になるかは議論があるところだが、デスクトップ向けに複数チップへの展開が来年、再来年に向けての注目点となっていく。

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