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支出管理プラットフォームを提供するTOKIUMが高い成長を遂げている。
2024年7月末時点での導入企業数は2500社となり、そのうち、この2年間で1500社がTOKIUMを新たに導入するという勢いだ。同社は請求書受領や経費精算などの業務を効率化し、電子データとして一元管理できるサービスを提供している。「未来へつながる時を生む」という志は、そのまま社名のTOKIUM(トキウム)につながっている。
TOKIUMの黒崎賢一 代表取締役は、「最新テクノロジーではなく、最適なテクノロジーを提供するのがTOKIUMの特徴」と強調する。インタビュー前編では、TOKIUMの起業に至るまでの経緯、同社が成長するきっかけとなった施策、そして話題となっているTV CMへのこだわりなどを、同社代表取締役の黒崎賢一氏に話を聞いた。
―― いきなりですが、黒崎さんはかつてIT系のテクニカルライターの仕事をしていたことがあるんですね。
黒崎 中学や高校時代は、Peer to Peer(P2P)技術を応用した「Winny」が注目を集めていた時期で、ネットや雑誌に書かれているさまざまな記事を見て、多くの刺激を受けました。ITは大きな可能性を持った世界だと感じ、そこに憧れてCNET JapanやZDNET Japan、ソフトバンク系の媒体などに原稿を書いていた時期がありました。
今も、面白いものを発見したり、便利な使い方などを見つけたりして、それを多くの人に広げたいという気持ちはあります。多くの人に貢献したいと気持ちが強いんですね。Winnyに代表されるP2Pのように、ファイルをお互いに渡し合うといった世界や、開発したライブラリーをオープンソースコミュニティーに公開して、それを多くの人に使ってもらうというSharing is Caringの精神がとても好きなんです。テクニカルライターの仕事をやっていたときも、そういった気持ちが、執筆の原動力になっていました。
―― 起業に至った理由は何ですか。
黒崎 面白いものを伝える側ではなく、自分が作っていく側に回りたいという気持ちが徐々に芽生えてきました。そういった中で、2011年3月の東日本大震災で、多くの人が命を亡くし、それを見ていて「命は時間」ということを感じ始めたのです。
同時に、「時間を多く作れれば、それは人の命を救うことになる」ということにも気がつきました。その当時、エンジニアとしてソフトウェアを開発し、業務の自動化などにも取り組んでいましたから、これを大規模に展開すれば、人の時間を増やすことができ、結果として人の命を救うことができると考えたのです。
TOKIUMを創業したときから、「無駄な時間を減らして、豊かな時間を創る会社」をビジョンに掲げ、TOKIUMという社名も、「未来へつながる時を生む」という意味から付けました。これも、「命は時間」という考え方がベースにあります。
―― 創業時の社名はBearTail(ベアテイル)でしたね。
黒崎 実はBearTailも、「未来へつながる時を生む」という志を表した社名です。BearTailは、小熊座の尻尾に位置する北極星のことであり、北極星は旅人の道しるべとなります。これと同じように、社会の道しるべとなるような、大きな価値を届ける存在になるというのが社名の由来です。
その際に、提供する価値のモノサシは「時間」であると考え、豊かな時間を与えること、無駄な時間を減らすことにフォーカスした事業を展開していくことを打ち出しました。説明をすると分かってもらえるのですが、これはストレートには理解されないですね(笑)。
起業した際に最初に考えたのは、「オンライン墓地」のサービスでした。しかし、死の瞬間の気持ちなどを考えると、どうしても後ろ向きになってしまい、生きている時間をもっと楽しめるサービスを作りたいと考えました。
楽しい時間の1つが買い物の時間であり、それをサポートするサービスとして、買い物の履歴が残る家計簿アプリの開発にたどり着きました。「何にお金を使うか」ということは、「どう時間を使うか」ということにつながり、時間の使い方で人の人生が変わるともいえます。
例えば、私が筑波大学情報学群 情報メディア創成学類に進学するために受験料を支払い、大学の近くに住むための家賃を払ったからこそ、そこで得られるものがあったり、新たな人との付き合いが始まったりといったことが起きました。
何にお金を使うかが時間の使い方を変化させ、その後の人生を大きく変えることにつながります。私の場合は、学生時代のお金の使い方、時間の使い方の延長線の上にTOKIUMの創業があります。
あるとき、京都で開催されているスタートアップ企業のイベントに、学生スタッフとして参加したことがありました。講演する日本の名だたるスタートアップ企業の経営トップを間近に見たり、控室で話をしていたりするのを聞いて感じたのは、彼らは決して特別な人たちではなく、多くの人たちと同じであるということでした。
この経験から、自分も起業できるのではないかということを感じたのです。電車賃を払って、イベントを手伝って体験をしたことで、起業する気持ちが固まりました。学生のテクニカルライターの原稿料からすれば、京都までの電車賃は大金だったわけですが(笑)、ここにお金を使ったことが、その後の私の人生が変わりました。
お金を使って体験をするために、豊かなに時間を創出し、人生を変えることを支援できるサービスとして、家計簿アプリにたどり着きました。
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