携帯電話だけでなく、サービスも提供――クラウド時代を見据えた富士通の法人戦略

» 2010年08月30日 15時17分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo 、富士通執行役員常務 兼 ユビキタスプロダクトビジネスグループ長 兼 ユビキタスビジネス戦略室長の大谷信雄氏

 「企業の要望を聞いて、本当の意味でのビジネスパーソン向け携帯電話をつくりたい」――。ドコモが8月末に発売する法人端末「F-10B」は、富士通開発陣のこんな思いから生まれた端末だ。

 買い替えサイクルの長期化でコンシューマー向け端末の出荷台数が伸び悩む中、富士通はまだ発展の余地がある法人市場に注目。ドコモが「ビジネスシンプル」や「オフィスリンク」など、法人向けのリーズナブルな料金プランを打ち出しているタイミングでもあり、企業のニーズをくんだ端末をラインアップすることで、法人市場の活性化をはかりたい考えだ。

 ラインアップ構成について、富士通執行役員常務 兼 ユビキタスプロダクトビジネスグループ長 兼 ユビキタスビジネス戦略室長の大谷信雄氏は「企業のニーズにフィットする端末を、それぞれのセグメントに応じて出していく必要がある」と説明。携帯電話を単体で利用するニーズからソリューションとの連携で活用するニーズまで幅広く対応する端末をそろえる方針だ。

 この5月には、ハンディターミナル端末の置きかえ需要を狙った端末として「F-05B」を投入。F-10Bは、企業が必要とするセキュリティ機能や管理機能を備えながら、導入しやすい価格を実現した端末として投入し、法人市場のすそ野の拡大を目指す。

 さらに新たな取り組みとして、企業が法人端末を導入する際に役立つサービスを、富士通が提供する点にも注目だ。

Photo 法人契約は年平均12%以上伸張すると予測(左)。1台で多様な法人ニーズを満たすのは難しいことから、各セグメントのニーズをくんだ端末を開発し、投入する(右)
Photo 通話やメールをメインで使う幅広い層に訴求する「F-10B」(左)を新たに投入。5月にはハンディターミナル端末の置きかえ需要を狙った「F-05B」を投入している(右)

法人のニーズにきめこまかく対応

 F-10Bの開発にあたって富士通は、導入時の機種選びを担当する総務部門にヒアリングを行い、その要望をくんで端末を開発。情報漏えいを防ぐための指紋センサーや、紛失時に遠隔操作で端末内データとmicroSD内のデータを消去する機能、端末の設定・管理をPCから一括して行う機能、防水・防塵機能などは、その要望に応えて搭載したものだ。

 また、初期導入コストを抑えるための端末の低価格化や、長期にわたって同一機種で管理をしたいという要望にも対応。NTTドコモの法人事業部で法人ビジネス戦略部長を務める小関純氏は、「1年以上前から生の声を集めて開発し、機能も十分なレベルに達している。かなり思い切った価格で提供できるので、競争が激しい法人市場の中で、機能もコストパフォーマンスも満足いただける」と自信を見せた。

 ほかにも、端末に挿したmicroSDをPCや他の携帯電話で読み出せないようにするパスワード設定機能や、キーを押すだけで自分と相手の通話をすべてmicroSDに録音する「通話メモ」など、ビジネスに役立つ機能を装備。基本機能についても、3G/GSMの国際ローミングや下り最大7.2MbpsのHSDPAに対応するなど、長期にわたる利用でも不便にならないよう配慮した。

Photo 端末を選定する総務部門にヒアリングを行い、ニーズが高い機能を調査。ワンセグやゲームなどのエンタメ機能や、バッテリーを消費するGPSなどは大胆に省いた

Photo ドコモ携帯として初となる、全通話録音機能を搭載(左)。強力なセキュリティ関連の機能を装備している(右)

端末に合わせて法人ソリューションも提供

 端末と合わせて、法人利用に役立つソリューションを提供するのも富士通の新たな試みだ。まずはメールソリューションと健康ソリューションを提供し、ユーザーからの要望が多いソリューションについては順次、サービス化を検討するという。

 メールソリューションは、業務用途のPOPメールをF-10Bで閲覧できるようにするサービス。企業のメールサーバと富士通が提供するネットワークサービス「FENICS」のサーバを接続するだけで導入できるなど、既存システムに手を加えることなく導入できるのが特徴だ。

 F-10B側ではアプリを介してメールを閲覧する仕組みで、新着メールのプッシュ配信にも対応。最大150件のメールがアプリ内に保存され、ユーザーは電波の届かない場所でもメールの内容を確認できる。セキュリティ面にも配慮しており、アプリは指紋認証で起動し、データはiアプリのスクラッチパッドに保存。受信したデータはあらかじめ設定した期間を超えると、残すよう設定したメール以外はすべて削除される。

Photo 出先のメールチェックに伴う課題(左)と、法人向けメールソリューションの活用イメージ

Photo 法人向けメールソリューションの機能(左)とシステムイメージ(右)。添付されたWordやExcel、PowerPointなどのデータはJPEGに変換され、アプリ内で閲覧できる

 健康ソリューションは、すでに個人向けサービスとして発表している健康管理サービス「深体創工房」の法人向け拡大版という位置付けだ。F-10Bには、端末を身につけるだけで歩数や活動量を測定できる機能が備わっており、測定したデータは端末の通信機能を通じて自動で健康ソリューションのサーバに送信される。サーバ側では送信されたデータを元に、社員の個々の動向に応じたアドバイスメールを自動で作成し、配信する。

 社員は受け取ったアドバイスメールを通じて、自身の活動を振り返ることができ、それに応じて歩く量を増やすなどの対策をとれる。ほかにも社員の平均データを通知して、モチベーションを高めるなど、社員の“行動変容”を喚起するさまざまな機能を用意した。

Photo 健康ソリューションのサービスイメージ(左)。富士通社内で行った実証実験では効果が見られたという(右)

 富士通は、法人向けメールソリューションを2011年1月から、健康ソリューションを2010年12月から提供する予定。利用料金はメールが月額500円/ID、健康ソリューションが月額数百円/ID+初期費用となる見込みだ。


 富士通はクラウド事業を強化しており、富士通の携帯電話ビジネスについても、法人向けにはクラウドのクライアント端末として利用していく考え。今回の法人向け携帯電話ソリューションはその一環として提供するもので、今後のサービスの広がりに注目したい。

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