ケータイの作り手から“売り手”へ ショップから見たスマートフォン・シフトの実情

» 2011年07月05日 21時54分 公開
[平賀洋一,ITmedia]

 「ドコモショップ」などのキャリアショップを、全国で230店近く運営する携帯電話販売代理店のNECモバイリング。同社が、今後の携帯電話販売事業に関するメディア向け説明会を開催した。

photo NECモバイリング 代表取締役社長の山崎耕司氏

 6月22日に同社代表取締役社長へ就任したばかりの山崎耕司氏は、親会社であるNEC出身。長年、携帯電話などのモバイル分野の事業にたずさわり、執行役員兼モバイルターミナル事業本部長と、NECとカシオ計算機、日立製作所の携帯電話事業を統合した「NECカシオ モバイルコミュニケーションズ」の初代社長を歴任した。

 今、携帯電話市場で何が起きているのか。山崎氏は、携帯電話の作り手から“売り手”へと立場を変えた視点から、スマートフォンシフトの実情を次のように説明した。

 「さまざまな場所で言われていることだが、スマートフォンの普及でARPUが上がってきた。特にデータARPUの伸びが、音声ARPUの落ち込みをカバーしている。これはキャリアにとってのプラス材料といえる。当然、販売する端末の比率が、スマートフォン主体になった。特にドコモは2011年度に600万台を出荷すると発表している」(山崎氏)

 NECモバイリングは全国に222の「ドコモショップ」を展開してる。ほかにKDDIのauショップ6店舗、ソフトバンクモバイルショップ1店舗を運営しているが、事業の中心はドコモの販売チャンネルによるものだ。2010年度の端末販売実績は138万台で、ドコモショップ内の販売シェアは約8%。シェアトップは商社系代理店のティーガイアが独走しており、NECモバイリングは2位の座を同じメーカー系代理店であるパナソニックテレコムと激しく競っている。

 「弊社のスマートフォン販売比率は、2010年度末に約35%だったが、6月末の直近では40%まで上昇した。震災の影響で4月に落ち込みがあったが、スマートフォンの伸びは順調だ」(山崎氏)

photophoto ドコモショップの販売代理店シェア(左)。スマートフォンの普及は、キャリアの収益モデルにも変化を与えている

 スマートフォンの販売拡大とデータARPU上昇の結果として、各キャリアは増大するデータトラフィックの対策が新たな課題となってきている。LTEやWiMAXによるデータオフロードが解決の糸口だが、結局は基地局の増加で対処せざるを得ない。山崎氏はこの点についても、「弊社は基地局設置やエリア調査などの事業部門もあり、こうした分野でもスマートフォンシフトの影響はポジティブに働く」と明かした。

photo NECモバイリングのスマートフォン比率も伸びている

 こうした市場全体のスマートフォン・シフトを背景に、NECモバイリングは「端末販売のシェア拡大、周辺商材の販売拡大、新しいビジネスの拡大という3つのポイント」(山崎氏)で成長戦略を描いている。

 例えば、同社でスマートフォンを購入するほぼ8割が、ジャケットやカバーなどのアクセサリー類を買い求めるという。これについて山崎氏は、「あるドコモショップの店長に聞いたら、スマートフォンを買うと、ジャケットやアクセサリーなどを1つではなく2つ3つ買う人が多いという。スマートフォンは、折りたたみやスライドなど外見や機構のバリエーションが少ない。そこで、アクセサリーを組み合わせることで、自分のものにカスタマイズするという意識が働くのではないか」と指摘。また、スマートフォンユーザーは比較的価格の高いアクセサリーを購入する傾向が見られる点にも触れ、「スマートフォンの周辺商材にはビジネスの広がりを感じる」(山崎氏)と期待を寄せた。

 関連商材と合わせて、スマートフォン本体購入時にニーズが高いのがアプリだ。山崎氏は、「フィーチャーフォンと違ってスマートフォンはアプリによる機能追加の自由度が高い。ということで、ハードウェアと合わせてソフトウェアを販売することにも可能性があるかもしれない」と、店頭でのアプリ販売に対する展望も見せた。

 さらに山崎氏は、モバイル機器の普及を通じて「ホームICT」社会の実現を目指したいと話す。そのためのショップ運営には、NECモバイリングが持つエンジニアリングの素地が武器になると説明する。

photophoto NECモバイリングが目指すホームICTショップの概要(左)。スマートフォンに特化した併売店は、キャリアにも恩恵をもたらす(右)

 「モバイル機器を使ってネットワークを駆使するホームICTのコンセプトには、エンジニアリングの目線が必要になるだろう。例えば、Android OSとAndroidアプリの違いをユーザーに説明できるのかどうか。またアクセサリーも、単なるジャケットだけならよいが、バッテリーを組み込んだものを選び販売するならエンジニアリングの視点が必要になる。また、スマートフォンの通信は3Gが良いのか、無線LANが良いのか、それともWiMAXやLTEなのか。ネットワークがマルチ化していくと、これらのメリット・デメリットを理解してきっちり説明しなくてはならない。こういった点で、ほかのショップと差を付けていきたい」(山崎氏)

スマートフォンシフトに対応する「AND market」

 NECモバイリングは6月1日、スマートフォンで変化していく携帯電話市場に対応するため「AND market」をプレオープンさせた。現在は、NECモバイリングが入居する霞が関ビルディングに1店舗があるだけだが、今年度中に2号店、3号店をオープンさせる予定だ。

 「AND marketはスマートフォンと周辺商材の販売拡大に加え、新ビジネスの拡大という3つのポイントを具現化するためのショップであり、新しい販売スタイルとユーザーサポートのあり方をトライアルするのが目的。特にサポートでは、『らくサポ』という会員制サービスと、エンジニアリング面の素地を生かした法人向けのサポートなども提供している」(山崎氏)

「AND market 霞が関」


 フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えるには、タッチパネル操作や料金プランなど、さまざまな説明が必要になる。また乗り換えたあとにも、各種設定やアプリの追加などを相談する人が多いという。各キャリアショップでは、自社の端末やサービスに関する説明やサポートは行うが、他社のものの説明は行いにくい。そこでNECモバイリングが開始したのが、スマートフォン関連のサポートを包括的に提供する「らくサポ」という会員サービスだ。

 らくサポは端末ではなくユーザー(会員)に対して提供されるため、端末のキャリアや機種を問わないサービスを提供する。会員には端末の設定やアプリの追加方法や使い方、活用方法の提案に加え、独自の公衆無線LANサービスやセキュリティメニューも用意するなど、単に端末の使い方をレクチャーする以上の内容を持つのが特徴だ。また、過去のサポート履歴が残るため、トラブル解決のための問題切り分けなどが容易になる。

 ドコモショップを柱にする同社が併売店のAND marketを始めることについては、業界から驚きの声もあったという。山崎氏は、AND marketへの取り組みがユーザーだけでなく業界全体にも貢献できると話す。

 「AND marketで得たノウハウは、ほかのショップにも展開できればと思う。『スマートフォンは使いにくい、分かりにくい』というユーザーをしっかりサポートできれば、端末活用の幅を広げ、安心感を提供できる。ショップの利用促進を生み販売面へのプラスになる。キャリアにとっても顧客満足度の向上が期待でき、タブレットなど2台目以降の需要の掘り起こしにも役立つだろう」(山崎氏)

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