スマホの“総ミドルレンジ化”が原因? VAIO Phone炎上という悲劇ふぉーんなハナシ

» 2015年04月07日 16時00分 公開
[村上万純ITmedia]

 最近、MVNO市場が盛り上がっていることもあり、ITmedia Mobileでも連日格安スマホ関連の記事を掲載しています。次々に発表される端末の記事を書いていて、ふと気になることがあります。

 どれも端末スペックが似ている……?

 例えば国内向けの格安スマホの場合は、1.2GHz駆動のクアッドコアプロセッサの端末が多く見られます。開発時期が近いとどのスマホも使われている部品が似たものになりますが、低価格帯端末は開発コストの事情も絡んでくるようです。

 その1つに、チップセット市場でシェアを握る米Qualcommが製造メーカー各社に提供している「Qualcomm Reference Design」(QRD:クアルコム リファレンス デザイン)の影響があると言われています。あらかじめ用意された完成品のベースを使うことで、スマホメーカーや製造を請け負うOEM(Original Equipment Manufacturer、委託者のブランドで製品を製造すること)/ODM(Original Design Manufacturing、委託者のブランドで製品を設計・生産すること)企業が低コストかつ短期間でスマホを開発できる仕組みです。

 この仕組みはあまり大きな開発費を掛けられないミドルレンジやエントリークラスのスマホ開発で多く採用されているといいます。ミドルレンジモデルは世界的に見て多くの国で需要が見込まれており、その結果よく似たスペックの製品が量産されているようです。

各社がアピールする“ちょっとプレミアム”なミドルレンジ

 所変わって、3月2日〜5日にスペイン・バルセロナで世界最大規模のモバイル関連見本市「Mobile World Congress 2015」(MWC 2015)が開催されました。日本で漠然と感じていたミドルレンジ化の波を、異国の地で体感することとなるのです。(むしろ世界的な流れが日本にもやって来たという感じでしょうか)

 ご存じの通り、MWC 2015で新たに発表されためぼしいフラッグシップスマートフォンはSamusungの「Galaxy S6 edge」「Galaxy S6」、HTCの「HTC One M9」の3機種で、ソニーモバイルコミュニケーションズが発表した「Xperia」のフラッグシップモデルはスマホではなくタブレットの「Xperia Z4 Tablet」でした。

 一方で、ソニーモバイルが「スーパーミッドレンジ」と位置づける「Xperia M4 Aqua」を発表したり、LG Electronicsも新たに発表したミドルレンジ4モデルのうち上位2機種を「ミドルハイエンド」(LG広報)と呼んだりと、ほかのミドルレンジと差別化した“ちょっとプレミアムなミドルレンジ”をウリにする企業が目立っていました。

photo ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia M4 Aqua」

 国内にいると米AppleのiPhoneを始め、シャープ、富士通など国産メーカーのキャリア向け端末などは基本的にハイエンドモデルです。しかし、世界的に見ると高額なハイエンドモデルが売れ筋の市場はごく少数で、国内市場が頭打ちになっていることからも分かるように、先進国が中心のそうした市場は成長性が低いとされています。

 企業にとっては開発費が莫大(ばくだい)になるハイエンドモデルだけに注力することはリスクが高く、海外市場や国内のMVNO市場向けにミドルレンジモデルを投入する国産メーカーも少なくありません。例えば京セラは北米市場を中心に世界各国で高耐久スマホを法人向けに提供していますし、富士通も国内向けにSIMロックフリー端末を投入しました。MWC 2015では、両社とも事業的に基盤のある法人向けにブースを展開していたことが印象的でした。

 そんな中、Samusungは例年通りフラッグシップモデルの大規模な発表イベントを開催しました。ここには「Galaxy」というブランドの価値をさらに高めて、ミドルレンジモデルだけでなくハイエンドモデルでも勝負していくぞ――という同社の意気込みが感じられます。

photo Samusungの「Galaxy S6 edge」

 MWC 2015では、国内メーカー3社がWindows Phoneを発表したことも話題となりました。これも米Microsoftがハードウェアの開発面でメーカーに要求する基準を緩めただけでなく、QualcommがWindows Phoneでもリファレンスデザインを提供するようになり、端末開発がしやすくなったことが関係しています。

加速するスマホのコモディティ化

 QRDの提供や、ODM/OEMメーカーの台頭などさまざまな要素が重なり、スマホのコモディティ化が進んでいる――そう感じていた折に、帰国して間もなく「VAIO Phone」が発表されました。

photo 「VAIO Phone」

 日本通信とVAIOが提供するVAIO Phoneは、台Quanta Computerが委託を受け製造したもの。外観やスペックがパナソニックのAndroidスマートフォン「ELUGA U2」に類似していることに加え、端末価格がELUGA U2より約2万円高い5万1000円(税別)であることなどが火種となり、ネットではVAIO Phoneに対してさまざまな意見が飛び交いました。

 これも、先ほどの「スーパーミッドレンジ」のように、国産のVAIOブランド(VAIOはデザインを監修)を付加価値として、ミドルレンジモデルにプレミアム感を演出したものです。端末がコモディティ化したため、モノ以外の付加価値(ここではブランド)で差別化を図ろうという考えです。ここまで炎上した理由は定かではありませんが、スペックと比べて消費者が予想していた価格よりも高いということが要因の1つになっているのではないでしょうか。

 ブランドでコモディティ化の波を乗り切ろうという流れは、スマホだけにとどまりません。MWC 2015では、数多くのウェアラブルが展示されました。LGやHuaweiなどは、高級腕時計を意識したデザインのスマートウォッチを発表しています。また、3月19日(現地時間)には、仏LVMH傘下のスイス高級腕時計メーカーのTAG Heuerが、米Intelおよび米Googleと提携してスマートウォッチを製造することを明らかにしました。

 ブランドイメージを非常に大事にする高級時計メーカーがウェアラブル市場に参入することに驚いた人も多いのではないでしょうか。そのほか、MONDAINEやファッションブランドのGucciなど各社がこぞってスマートウォッチを発表しており、“ポストスマホ”と言われていたウェアラブル端末が、すでにブランドやデザインで勝負しなければならない時代になってきたのだなと実感します。

 テクノロジーの進化により、ほかの製造・販売業界と同じようなコモディティ化の波がモバイル/ウェアラブル業界にも迫ってきている――MVNOやMWC 2015の取材を通してそれらがいよいよ現実味を帯びてきたように思います。モノが均質化する中で付加価値を付けるには、ブランド、デザイン、独自機能やほかの機器との連携、新しい使い方の提案などが考えられます。

スマホのコモディティ化、その先にあるものは?

  今後ますますテクノロジーが進化していくと、もはや個人でスマホを自由にデザインできる時代が来るかもしれません。2015年1月には、Googleの「Project Ara」というモジュール式スマートフォンの開発者向けイベントが開催されました。これは、機能ごとに基板をブロック化し、必要なモジュールを選択することで、好みに合ったスマートフォンをパズルのように組み立てて作ることができるというものです。

photo Project Araのプロトタイプ

 共通するパーツを各ユーザーが組み合わせることで自分だけのオリジナルスマホを作れる未来も期待できます。コモディティ化が進んだPCでは、HDDやSSD、グラフィックスカードなど各パーツを買って自作するのは当たり前の時代になりました。次はスマホを“自作”する時代も予測されています。長く愛用しているけれどハードウェアスペックがソフトウェアに追いつかずに動かなくなってしまった……という端末も、プロセッサを入れ替えるだけで現役復帰させることができるようになるかもしれません。

 今、スマホで個性を出すためには、自分好みのケースを装着したり、壁紙を設定したりするくらいしか方法がないですが、「自分だけのスマートフォン」(スマホですらないかも?)を自作して個性を出せるようになると面白そうですね。

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