NTTドコモの関西支社は、7月21日に災害対策、イベント対策の取り組みを説明する記者説明会を開催した。また、ドコモが全社を挙げて設置してきた「大ゾーン基地局」を公開。緊急時などに出動する移動基地局車に上り、E-Bandで実際に伝送路を確保するまでの手順も体験することもできた。ここでは、その模様をお届けしたい。
ドコモは、2011年に発生した東日本大震災の教訓を生かし、災害時の対策を大きく見直してきた。ドコモで災害対策を担当する、関西支社 ネットワーク部 災害対策室の田村勝久氏によると、改善は「3原則」にのっとっているという。「システムとしての信頼性向上」「重要通信の確保」「通信サービスの早期復旧」がその3つだ。
3原則に基づき、新たな対策として、1つで半径7kmをカバーする「大ゾーン基地局」の導入や、基地局のバッテリー24時間化の推進、被災エリアへの衛星携帯電話の即時導入などに取り組んできた。アプリケーションレイヤーでは、「災害用音声お届けサービス」も開始した。こうした対策は、2012年2月までにおおむね完了しているという。大ゾーン基地局は2017年3月までにLTE化を完了する予定で、導入済みのものに対しても磨きをかけている。
これに加え、関西独自の事情を加味した災害対策も行っている。関西では、南海トラフ大地震への備えが必要となるためで、もし津波が発生すると沿岸部の基地局が水没してしまう恐れもある。これをカバーするために導入されたのが、一般の基地局と大ゾーン基地局の中間にあたる、「中ゾーン基地局」だ。
中ゾーン基地局は大ゾーン基地局とは異なり、新たに設置するものではなく、「全体的にカバーできる局を選び、既存の基地局の基盤を強化する」(田村氏)もの。基地局をネットワークにつなぐ伝送路を二重化し、非常用バッテリーとして燃料電池を備え「3日間は停電に耐えられるようにしている」(同)という。この強化した基地局を、災害時に遠隔コントロールすることでカバー範囲を広げるというのが、中ゾーン基地局の考え方となる。
基地局1つあたりのカバー範囲が広がれば、そのぶん接続する端末が増えるため、速度の低下などは起こるものの、緊急時に最低限の通信を確保するための手段として、こうした対策を採用しているという。
南海トラフ大地震に備えるために関西支社で導入された中ゾーン基地局だが、他のエリアにも広がりを見せ、既に実際の災害で活用されたケースもある。その一例が熊本地震で、応急復旧として41局の中ゾーン基地局が稼働した。ほかにも、32局の移動電源車、発動発電機を出動させたり、8カ所に衛星移動基地局車を配備したりといった応急復旧を行い、同時に「全国から復旧の支援体制を受け、1000人で総力を挙げ、通信サービスの復旧や確保をやってきた」(田村氏)。結果として、立ち入り禁止区域を除く全てのサービスエリアを、4月20日には回復させることができたという。
こうした震災対策の一部は、平時にも取り入れられている。イベント時の対策がそれで、「ある1カ所に、20万人のような規模の人が集まると、どうしても設備の処理能力を超えてしまい、使いづらい状況になってしまう」(田村氏)。これを防ぐために、移動基地局車を出動させている。
イベント時は、通常時とは異なる膨大なトラフィックが発生する。田村氏は、7月2日、3日に開催された音楽イベントの「京都大作戦」を例に挙げ、最大でトラフィックが通常の30倍程度になったことを語る。夏場は、花火大会も多く開催され、トラフィックが局所的に増大するため、こうしたイベントに合わせ、移動基地局車を配備するなどしているという。
その移動基地局車自体も、容量を上げるため、LTE-Advancedが導入された。現状では、2GHz帯(Band 1)、1.7GHz帯(Band 3)、800MHz帯(Band 19)の3波CA(キャリアアグリゲーション)にも対応しており、下り最大で375Mbpsが出せるようになっているそうだ。
これと並行して、既存の基地局にも周波数を追加したり、キャリアグリゲーションを導入したりすることで、容量を増加。結果として、移動基地局車の出動回数は、2015年度が37だったのに対し、2016年度は17と半分以下に激減している。イベントの総数自体は変わっていないため、既存の基地局の容量対策が功を奏していることがうかがえる。
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