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» 2016年10月31日 06時00分 UPDATE

IIJmio meeting 13:「悪ではないが、検討すべき課題がある」――IIJのゼロ・レーティングに対する考え (1/3)

特定のアプリやサービスを使ったときのデータ通信量をカウントしない「ゼロ・レーティング」を採用するMVNOが増えているが、「通信の秘密」や「ネットワーク中立性」で議論の余地が残っている。IIJの考えは?

[房野麻子,ITmedia]

 特定のアプリやサービスを使ったときのデータ通信量をカウントしない「ゼロ・レーティング」(「カウントフリー」「ノーカウント」などとも呼ばれる)を採用するMVNOが増えている。例えば、「LINEモバイル」はLINEの通話とトークが使い放題になる「LINEフリープラン」と、それに加えTwitterとFacebookも使い放題になる「コミュニケーションフリープラン」を提供している。また、FREETELのiPhone向け料金プランはApp Storeでアプリをダウンロードする際のパケット料金が無料になる。

 無料化対象になるサービスを利用するユーザーにとってはメリットだが、ゼロ・レーティングには「通信の秘密」や「ネットワーク中立性」の面から問題があるとする意見もある。IIJのエンジニア、佐々木太志氏は10月22日に行われたIIJmioのファンイベント「IIJmio meeting 13」でゼロ・レーティングについての問題点をまとめ、IIJの考えを説明した。

ゼロ・レーティング ゼロ・レーティングについての考えを述べるIIJの佐々木太志氏

ゼロ・レーティングの3つの課題

 ゼロ・レーティングについては、技術面も含めてさまざまな課題があると佐々木氏は指摘。その中で今回は「通信の秘密」「ネットワーク中立性原則」「利用者間の公平性」の3つについて取り上げた。

ゼロ・レーティング ゼロ・レーティングの3つの課題

 「通信の秘密」は基本的人権の1つとされ、多くの国の憲法にも記述がある普遍的な考え方だ。個人の私生活の自由やプライバシーは保護されるべきものであるとともに、通信は生活の中で重要なコミュニケーション手段になっている。通信の秘密が侵されてしまうと、私生活の自由やプライバシーが危機にひんするため、これを守ることは非常に重要だ、という考えだ。

 通信の当事者は、通信の内容、通信の相手、そもそも通信があったこと自体も第三者に知られない権利を持つ。この第三者の中には、電気通信事業者、郵便事業者など、通信を媒介する者も含まれている。IIJのような電気通信事業者は本来、「通信を見ることもできないし、通信があったことを知ってもいけないし、通信している人が誰かも知らない」(佐々木氏)

 さらに日本の法律では、第三者の中に電気通信事業者が使う通信機器も含まれているそうだ。機械が自動的にユーザーの通信を扱っていることも、日本の法律では通信の秘密の侵害と解釈されているというのだ。

ゼロ・レーティング 「通信の秘密」は憲法や電気通信事業法でも言及されている基本的人権

 しかし、電気通信事業者はユーザーのメールを送受信したり、通信ログを見ながら通信量を把握して料金を決めたりしているので、ユーザーの通信を見てはいけない、機械的にでも知ってはいけないということになると事業が行えないことになる。そこで、「電気通信事業者は日常的に通信の秘密を侵害しているけれど、警察に逮捕されないからくりが用意されている」(佐々木氏)。そのからくりとは、正当業務行為であること、通信当事者の同意を得ているケースなどだ。

ゼロ・レーティング 正当業務行為や通信当事者の同意があった場合には「通信の秘密の侵害」が許される

 正当業務行為とは、“やらないとどうしようもない業務”といえる。法律に違反するとしても、できないと仕事が成り立たないから、それに関しては違法としない扱いにする場合だ。例えば、医者は手術で体を切り開くことがあるが、傷害罪にはならない。開腹手術は医者の正当の業務と見なされるからだ。同様に、電気通信事業者も、メールの宛先や使った通信量など、ユーザーの通信の中身の一部を見ることができないと業務が成り立たなくなる。こういったことに関しては、ユーザーの同意なく通信の秘密をあばくことができる。

 電気通信事業者の正当業務行為の例としては、課金を目的として利用者の通信履歴を閲覧したり処理したりすること、ネットワークの安定運用を目的として、相当と認められる手段で利用者の通信の制御を行うこと、捜査機関の令状提示に対して、利用者の通信履歴を提出することなどがある。これらの場合は、特にユーザーの同意を得なくても行うことができる。

 正当業務行為以外でも、通信の秘密を侵害して問題ないことがある。それは通信当事者の同意がある場合だ。ユーザーが「有効な同意」をした場合は、その意思に反しない利用である限り、電気通信事業者は通信の秘密を侵害できる。

 しかし、この有効な同意とは、「利用者がその意味を正確に理解し、その上で同意した場合」だ。「あまり意味が分からないけれど、ここにハンコを押してくださいと言われたからハンコを押した」「約款のどこかに小さい文字でそんなことが書いてあったかもしれないけど、よく分からない」というような場合は有効な同意とはいえない。有効な同意は「個別かつ明確な同意」である必要がある。

 「通信の秘密は基本的人権。われわれは非常に重要なものとして扱ってきたし、重要に扱うだけの価値があること」と佐々木氏は述べ、一般的な規約に同意することとは別次元の、非常に明確な同意が必要であるという考えを示した。

通信の秘密を侵害しないゼロ・レーティングとは

 佐々木氏は「電気通信事業者が事業を行うことは、日常的にユーザーの通信の秘密を侵すこと」と断言。さらに、ある特定のパケットについて無料化する行為も、「ぶっちゃけ違法か違法じゃないかといったら、違法」という考えだ。「通信内容を調べて無料化対象の通信かどうかを判定する行為が、通信の秘密を侵害していることは明らか。これをサービスとして提供するときには、正当業務行為に相当するか当事者の同意があるかの二択になる」(佐々木氏)

 正当業務行為に相当する場合は、ユーザーから個別に同意をもらわなくても、通信事業者は通信の秘密を侵害できる。しかし「ケースバイケース。総務省にも明確な回答をいただけない場合がある」(佐々木氏)という。

 正当業務行為になるかどうかは厳しく判断される必要がある。一般的には「目的が正当であるか」「行為が必要であるか」「手段が相当であるか」という3つの要件があるとされ、この3つが全部満たされる場合に正当業務行為であるとされる。これに沿って考えた場合、ゼロ・レーティングのためにパケット検査をすることが正当業務行為といえるかどうかは、「正直、難しいというのが基本的な考え」と佐々木氏は述べ、ゼロ・レーティングのためのパケット検査は正当業務行為に相当しないという認識を示した。

ゼロ・レーティング ゼロ・レーティングが通信の秘密を侵害しているのは明らか。正当業務行為に相当すると考えるのも難しく、通信当事者の同意が必要になる

 そうなると、ゼロ・レーティングを提供するにはユーザーの同意が必要だということになる。このときの同意は「十分な説明に基づく個別、明確な」同意でなくてはならない。「どこまで通信を確認させてもらうか、それによって何が起きるかを十分に説明した上で同意をもらう必要があるというのが、われわれの考え方でもあるし、これまでの電気通信事業者の考え方でもあるし、監督官庁である総務省の考え方だと思っている」(佐々木氏)

 さらにこの場合、「ユーザーの意思に反しない範囲で」というのが重要だと佐々木氏は指摘。一度同意をもらったからといって、通信を見てもいい権利を得たわけではなく、必要最小限の範囲で同意されたにすぎない。「きちんとユーザーに情報を与えた上で同意をもらわなくてはならない」と佐々木氏は繰り返し述べ、「個別かつ明確な同意」の必要性を強調した。

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