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» 2018年02月16日 21時00分 公開

「大容量」を生かして効率アップ――KDDI×大林組×NECが「5G」を使った建機の遠隔操作試験を実施

建設機械(建機)の遠隔操縦技術の開発に積極的に取り組む大林組が、操作に必要な映像伝送に「5G」を用いる実証試験をKDDIやNECと共同で行った。建機の遠隔操作に5Gを使うと、どのようなメリットがあるのだろうか?

[井上翔,ITmedia]

 KDDI、大林組とNECは2月15日、2月1日から14日にかけて3社が実施した第5世代移動体通信技術(5G)を活用した建設機械(以下「建機」)の遠隔操縦の実証試験について、報道関係者向け説明会を開催した。

 この試験では、一般的な建機(ショベルカー)に大林組の遠隔操縦システム「サロゲート」と、4K(3840×2160ピクセル)の3Dカメラや2K(1920×1080ピクセル)の全天球カメラを装着。カメラの映像を5G通信で伝送し、操縦オペレーターがそれを見て見て建機を遠隔操縦した。

 以前から建機の遠隔操縦を現場作業に取り入れているという大林組。その背景には何があるのか。そして、遠隔操縦に5Gを取り入れるメリットはどこにあるのだろうか。

試験の概略図 試験の概略図。今回は、建機からの映像伝送に5G通信を利用する
実際に使った建機 実証試験で実際に使った建機。日立建機製のショベルカーに実証試験用の機材とサロゲート用の機材を搭載している

建機の遠隔操縦導入の背景と課題

大林組の古屋氏 大林組 技術本部 技術研究所の古屋弘上級主席技師

 昨今、地震や台風、大雨などに起因する激甚災害が増加傾向にある。災害からの復旧やインフラの再構築はできる限り早期に行うことが好ましい。一方で、これらの作業は、特に災害発生直後において大きな危険を伴うため、作業員の安全を確保することが大前提となる。

 そこで、大林組では安全性確保の観点から遠隔操縦の建機を含む「建設ロボット」の導入を以前から進めている。1992年頃の雲仙岳噴火における災害復旧工事では、遠隔操作された建機が活躍したという。

 ただ、建機の遠隔操縦は伝送される映像を頼りに操作するため、どうしても直接操縦時と比べて作業効率が落ちてしまう。現状の無線LANを使ったサロゲートでは、直接操縦時の60%程度の効率となってしまうという。これをいかに改善するかが、ある意味で課題となっている。

 さらに最近の建設業界では、若い労働者の減少とそれに伴う作業従事者の高齢化や、特殊技能工を含む熟練工の減少も課題となっている。建機の遠隔操作オペレーターは熟練工の一種で、ご多分に漏れず従事者は減少傾向にある。これも解決すべき課題だ。

遠隔操縦導入の背景と課題 危険な災害復旧作業における作業員の安全確保策として採り入れらた建設ロボット。その代表格が遠隔操縦できる建機だが、オペレーターの減少や作業効率の改善といった課題もある

「高速・大容量」で作業効率アップ

 これらの課題を解決する方策の1つが5G通信……というわけだが、「なぜ5G?」という疑問も同時に浮かぶ。

 まず、5G通信を用いるメリットとして、従来のLTEよりもさらに「高速・大容量化」、つまりより高速で、容量の大きいデータのやりとりができるという点が挙げられる。

 現行の遠隔操作システムでは、3台のXGA(1024×768ピクセル)カメラの映像を2.4GHz帯の無線LAN(IEEE 802.11g)で伝送している。カメラは建機の“手元”を撮影するメインカメラ、作業範囲内の安全を確認するために建機から離れた場所に設置する俯瞰カメラと、同じ目的で建機上に設置する360度カメラという構成だ。

 それに対して、今回の実証試験ではメインカメラとして4Kカメラ2台、作業範囲内の安全確認のために2K(フルHD:1920×1080ピクセル)のカメラ3台(1台が360度カメラ、残りが俯瞰カメラ)という構成を取っている。

 4Kカメラの映像は単一の4K・3D動画として加工・圧縮され、他のカメラの非圧縮映像と共に28GHz帯の5G通信モジュールを使って伝送する。動画のビットレートは合計で約200Mbps(約25MB/秒)と、従来のLTE規格では間に合わない大容量となっている。

装置の概要 実証試験における装置構成の概要
メインカメラ 実証試験用のメインカメラは、4K対応のものを2台利用。建機に隣接する制御室で、それぞれの映像の解像度を半分(3840×1080ピクセル)にした上で単一の4K・3D動画とし合成し、圧縮の上伝送される
360度カメラとアンテナ 建機の上部に据え付けられた360度カメラとアンテナ(送受信機)群。今回の試験では、建機の制御は従来システムで行ったため、対照試験も兼ねてサロゲート用の機器も併設している

 従来システムと実証試験用システムをそれぞれ用いて、「ブロック積み上げ」操作を行ったところ、5Gを使った実証試験システムは従来システムよりも最大で25%ほど作業効率が改善したという。メインカメラによる映像の高解像度化・3D化と、360度カメラや俯瞰カメラの映像の高解像度化によって、作業状況の確認がしやすくなり、より迅速に作業できるようになったのだという。

効率を示す図 ブロック積み操作の試験で効率を比較した図。5Gを用いた実証試験用システムを使ったところ、無線LANを使う従来システムより効率が向上することが判明した。ただし、建機の見える範囲での「目視遠隔操作」、あるいは直接建機に乗り込む「搭乗操作」よりはまだ効率が低い

操作ブースの集約が可能に 人手不足対策にも

 さらに5G通信は“モバイル通信”であるということもメリットだ。

 現行システムでは建機制御や映像伝送に2.4GHz帯の無線LANを用いている。そのため、建機の近隣に操縦ブースを設ける必要がある。中継器を使った場合でも、建機の半径2km以内には操縦ブースを置かなければいけないという。当然、現場にオペレーターを派遣する必要もある。さらに、無線LANの周波数帯(チャンネル)の都合から、同時に操縦できる建機は最大6台までとなっている。

 しかし、5Gはモバイル通信であるため、近くに基地局さえあれば自前でネットワークを構築する必要がない。また、操縦ブースを建機(現場)から遠く離れた場所に設置できるようになる。5Gの「多重接続」という特徴を合わせて活用すれば、同時に操縦できる建機の数を現行システムよりも増やせるという。

 5Gを使った建機の遠隔操縦を実用化できれば、日本のどこかに「建機遠隔オペレーションセンター」を作り、全国に散らばっている操縦オペレーターを集約することも視野に入れることができる。そうすれば「操縦オペレーター不足」もある程度緩和できるという。

操縦ブース 実証試験の操縦ブース。「周囲を確認しやすくするために」(古屋氏)、360度(全方位)カメラの映像はあえて展開せずにそのまま表示している。正面の4K・3Dディスプレイは裸眼視に対応している

今後の課題

 5Gを使った建機の遠隔操作には課題もある。

 まず、今回の試験における5G通信環境は商用環境を想定したものではなく、基地局と建機(端末)が「1対1」で通信している。実際に端末が多重接続した場合の試験は行っていないのだ。

 通信需要が旺盛な都心部では、たくさんの5G端末が同時にデータ通信をすることも考えられる。そのような環境下で建機の遠隔操作をする場合、今回の試験のように約200Mbpsのデータを安定して送受信できるとは言いきれない。今後、多重接続時の伝送試験も必要になってくるだろう。

 また、今回の試験では建機の操縦を現行システム、つまり無線LAN経由で行っている。ある意味で「フル5G」にはなっていなかったのだ。

 大林組では今後、操縦(制御)信号も5G通信で伝送できるように開発を進めるという。映像伝送と信号伝送を同時に行う試験も、今後行う必要がありそうだ。

コントローラー 建機の遠隔操作をするためのコントローラー。現状では無線LANを使って建機を制御しているが、今後5G通信でも制御できるように開発を進めるという

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遠隔操作 | 実証実験 | KDDI | NEC(日本電気)


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