経営を統合すると量販店から客が消える牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2013年01月23日 11時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

「仕入れの統合によるボリュームディスカウント」は本当か

 家電量販店の統合や提携が相次いでいる。街にあった家電量販店の看板が、いつしか別の看板にかけ替えられていることも珍しくない。どの量販店も生き残りに必死で、“仁義なき戦い”が繰り広げられているというのが実情だ。

 こうした量販店の経営統合で、必ずといっていいほどメリットとして挙がるのが、「仕入れの統合によるボリュームディスカウント」だ。これまで別々に行っていた仕入れ交渉を一本化することで、メーカーや卸からさらに有利な価格条件を引き出せるという。

 例えば、2つの量販店のバイヤーがそれぞれ「1万個の仕入れで原価60パーセント」とやっていたのを、「統合後は2万個仕入れるから、原価を下げて55パーセントにしろ」とか、合計数では統合前と変わらないのに、あたかもスケールメリットがあるかのように思わせて仕入れ価格を下げさせるテクニックだ。ただ、発注の窓口を一本化できるので手続きや連絡位置あわせが楽になるとか、納入先が1つの物流センターで済むとか、そういうコストカットのメリットは確かにある。

 ここ数年、大規模な統合が続く家電量販店のほか、さまざまな業種において、このような経営統合による“ボリュームディスカウント”が当たり前のように語られる。あまりにも当たり前のようにいわれるので、理由がよく分からないのに、「まとめて仕入れればそうなるのか」と、なんとなく納得してしまいがちだ。

 しかし、実際にはすべてのケースに当てはまるわけではない。そればかりか、業種によってはマイナスになることも少なくない。特に、PC周辺機器などでは、量販店の統合で、多大な迷惑を被るケースが増加しつつある。

「仕入れの統合によるディスカウント」が起こりにくい構造的要因とは

 「製品をたくさん作れば1個あたりの単価が安くなる」というのは間違っていない。なぜ単価が安くなるかというと、製品を作るときにかかるイニシャルコストを、それだけたくさんの製品で負担できるからだ。

 単純化して説明すると、金型が100万円、製品そのものの材料費が500円だったとして、製品を100個しか作らなければ1個当たりの原価は1万円(100万円÷100)+500円の1万500円になるが、100万個作れば原価は1円(100万円÷100万)+500円の501円で済む。

 ところが、PC周辺機器などでは、この理屈が必ずしも通用しない。理由は簡単で、自社で金型を作っているとは限らないからだ。PC周辺機器メーカーの多くは自分の工場を持たず、半完成品を外部から買っている。部品の加工をいっさい行っていない場合も多い。

 この場合、金型はおろか、工場などの設備費もなく、さらには、設計などの費用すらほぼゼロという製品も少なくない。そのため、イニシャルコストのほとんどを占めているのはパッケージのデザイン料になるが、それすら、製品の原価として計上するのではなく、販促費など別の科目で処理することもあるほどだ。

 このような状況下では、どれだけたくさん作っても、製品の原価はほとんど変わらない。金型や設計などの実質的なイニシャルコストは外注先が負担している形になるので、PC周辺機器メーカーが外注先に対して「これだけロットが大きい見積依頼が来ているのでもっと価格を下げられないか」と交渉をすることはあるが、その外注先の立場では、そのPC周辺機器メーカーに出荷する金型にしろ設計にしろ「個数」は同じ(金型も設計図も1つ作ればそれで済む)なので、原価の下げようがない。

 これに対して、自社で大規模な工場設備を抱えていて、生産ラインがアイドリングしている時間を使って余分に製品を作るような場合は、人件費は変わらないのに生産数は何倍にもなり、その結果1個あたりの原価は劇的に下がる。しかも、製品の個数が増えることで1個当たりのイニシャルコストまで下がるという好循環が発生する。身近なところでは、食品メーカーなどで起こりうるパターンだ。こうした場合は、仕入れの統合によるボリュームディスカウントは確実に有効だ。

 このように、「仕入れの統合によるボリュームディスカウント」が比較的容易に起こる場合と、構造的に起こりにくい場合がある。しかし、後者の場合も原価は変わらないのに営業レベルで利益を削ってサービスすることがあったりするので、結局のところ、目に見えるメリットとしては、値引き率が多いのか少ないのかだけが表面化することになりがちだ。

 特に、家電量販店の側からすると、どのプロセスでコスト的なメリットが発生しているかは重要でない。最終的に、自分たちの手元に届く伝票で金額が安くなっていればいいからだ。

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