経営を統合すると量販店から客が消える牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

» 2013年01月23日 11時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]
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そして、多品種少量に逆行する家電量販店

 これだけであれば、「仕入れを統合しても原価はほとんど下がりませんでした」という話で済むが、仕入れの統合がマイナスに作用する場合もある。そして、またしても、損をするのはPC周辺機器メーカーだったりする。

 先ほど、2つの量販店がそれぞれ1万個を仕入れていたのが、経営統合によって2万個を仕入れるようになった例を説明したが、マイナスに作用するケースでは、単純に「1+1=2」という話ではない。問題は、経営統合前は、それぞれの量販店に製品Aと製品Bを用意してそれぞれ1万個ずつでも問題ないが、経営統合後は、同じ製品を2万個用意しなくてはいけない、ということだ。

 USBなどの統一規格のおかげで、最近でこそある程度共通化が進んだとはいえ、もともとPC周辺機器というのは、PC本体と接続できて価値が出る製品なので、必然的にモデルの数が多くなる傾向がある。Windows用やMac用といった対応OSの違いはもちろん、CPUのパフォーマンスに違いがあったり、メモリやストレージの容量が違うといった具合に複数のラインアップがあるのが普通だ。最近はカラーバリエーション展開が当たり前になったことで、1つの型番当たりの販売数は10年前などに比べると大幅に減少している。

 アクセサリ系も、最近はユーザーの嗜好が多様化したことに伴って、多品種少量の傾向が強まりつつある。例えば、スマートフォン用ケースなどは、ほかの人と違うものを持ちたいというのが購買動機の1つだったりするので、効率を重要視して品数を減らすわけにいかない。少しの違いでもモデル数を増やして、店頭で広い面積を確保しなければ、競合他社に競り負けてしまうからだ。

 このような複数の要因により、メーカーの品作りは多品種少量の方向に向かいつつある。これらを生産する外注先工場も、1つの製品を大量に生産するラインを持つのではなく、多品種少量の傾向に対応できるような体制に移行している。

 ところが、仕入れの統合によるボリュームメリットというのは、この流れと逆行する動きになる。もともとモデル数が多いアクセサリなどは影響は少ないが、問題なのは、仕入れの数を増やすことで、外注先の生産能力を超えてしまうようなケースだ。これまでであれば、ある家電量販店には製品A、別の家電量販店に製品Bと定番モデルを分けて用意して、この製品Aと製品Bをそれぞれ別の外注先で作らせていたのが、経営統合で製品を一本化したことによって、どちらかの外注先で生産能力を超えてしまうことになる。

 こうした場合の対策は、生産量を増やすためにラインを増設することだが、生産側の多くは、すでに多品種少量向けの体制に移行しているため、ラインの増設ができる外注先とできない外注先が出てくる。さらに、ラインの増設には多大なコストを必要とするため、長期の契約でもない限り、無理にラインを増やすのではなく、生産キャパに収まる製品数を家電量販店に提案しよう、という発想になる。こうなると、生産量が現時点でギリギリいっぱいの製品Aと製品Bは提案せず、2万個が供給可能な製品Cを提案することになり、最終的にユーザーの購入できる選択肢は2モデルから1モデルに減ってしまう。

 家電量販店のバイヤーも、本当に売れる製品を仕入れることより、全国に点在する各店舗で品切れが発生しないように、供給数に余裕があることを仕入れ条件で最重視するようになる。ユーザーの側からすると「全国で統一のモデルを売らなくてもいいじゃないの」と思うが、全国どの店舗に行っても均一なサービスを提供することを掲げる量販店側にとっては、全国すべての店舗で同じ製品を供給することが必須となる、という理由以上に、そうしないと仕入れを統合するメリットがなくなってしまうので、社内的にバイヤーとしての力量がないとか、会社の方針に反対しているように評価されるのを恐れているという事情もある。

経営を統合した家電量販店は“ド”定番だけを売る

 この結果どうなるかというと、経営を統合した家電量販店に並ぶのは、生産数が多く在庫コントロールも容易な無難な製品ばかりということになる。PC周辺機器メーカーも無難な製品を提案し、バイヤーは品切れがないことを重要視して無難な製品を受け入れる。クセはあるが「おっ、これ面白い」という驚きを与えて好奇心(と物欲)を刺激するような製品は、経営を統合した大規模家電量販店には並ばない。そして、無難な定番製品しか並んでいないから、消費者もわざわざ足を運んで見に行く必要がないというサイクルにハマることになる。

 メーカーにしても、大規模な家電量販店であればあるほど、定番から外れたときの一斉返品は相当な量になるので、わざわざリスクのある(しかし、新機軸を取り込んでヒットする可能性もある)製品を納入しない。また、チラシ商材のような爆発的な数が売れる製品になると、数を用意するのは絶望的になる。理由は簡単で、定番モデルをさらに上回る量を用意できる製品というのは限られており、それ以外では、もともと過剰在庫でどれだけ売っても在庫が尽きないような“死に筋”製品くらいしか、提案できるモデルがないからだ。

 大規模な家電量販店で、ワゴンに山積みになっている特価商材をチェックすると、値引き率は高いにもかかわらず、ぜんぜん買う気にならなかった経験はないだろうか。それは、バイヤーがユーザーの需要を理解していないのではなく、膨大な量の一括仕入れを行うと、あのような製品しか仕入れられないという、構造的な問題に起因しているのだ。

 家電量販店の経営統合が増えれば増えるほど、こうしたケースは必然的に増えていく。家電量販店の売り上げが減少の一途をたどり、Amazonなどの売り上げが伸びているのは、単純に価格や利便性の問題ではなく、ユーザーが買いたい製品を家電量販店が用意できなくなっているからなのかもしれない。

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