榊原氏に限らず、MicrosoftによるGitHubの買収を正当化する際に必ずといっていいほど例に挙げられるのが、以前に買収したLinkedIn(ビジネス向けSNSを提供)とMojang(Minecraftの開発元)だ。
特にLinkedInは買収総額が262億ドル(約2兆7000億円)と、GitHubと比較しても買収額の桁が違っており、Microsoftはその買収の理由について「LinkedInで得られるプロフィールとプロフェッショナルグラフの活用、Microsoftサービスの融合によるシナジー効果」を強く訴える必要があった。
だが実際のところ、現時点で両社のサービスが効果的に融合した顕著な例はあまりみられず、両社のサービスは独立を維持する形で別々に運営されている。しかもLinkedInは買収後もデータセンターインフラを自前で増強する体制を取っており、実質的に組織体系以外の面ではMicrosoftからほぼ独立した状態にある。そのため、筆者はこの買収はあまり成功した状況にあると見なしていないが、GitHubの件に関しては話が異なるようだ。
これについてワーナー氏に質問したところ、興味深い答えが返ってきた。「LinkedInについてはその性質上、サービスの融合を訴える必要があったのかもしれない。だがGitHubについてはナデラ氏から『変わらないことに価値がある』というお墨付きを得ている。つまりGitHubそのものがブランドであり、独立を維持して、その価値を毀損(きそん)しないことが重要というわけだ」というのだ。
GitHubはツールや言語が複雑化する中、それらを結ぶハブとして機能しており、これにMicrosoftが独自の価値を追加する意味はないという考えだ。さらにいえば、インフラもGitHubの独自のものを維持する計画で、例えばGoogleからAzureに移行するような強引な手段をとられることもないという。
一方で「Microsoftには優秀な開発者やエンジニアがいて、互いに交流することによって知見を得られるメリットがある」ともワーナー氏は付け加える。
それでは、MicrosoftにとってGitHubの買収から得られるメリットは何だろうか。筆者としては、「ライバルに先んじて買収することで、開発者で最も人気のコミュニティーサイトを守った」のがMicrosoftであり、そうした「オープンソースの守護者」しての地位を得られたのが最大のメリットのように思える。
過去にはBASIC言語で会社を立ち上げ、OS事業で成長し、プラットフォーム会社へと変わってきたMicrosoftだが、それを支える開発者コミュニティーとの付き合いは連綿と続いてきた。恐らく今後もそれは変わらず、開発者の味方という確固たるポジションをこのタイミングで得ることに価値を見いだしたというわけだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.