日本での最適化に注力するあまり、高い性能を備えながらも海外では通用しない――。これは、国産の携帯電話が海外で勝負できない理由の1つとして挙げられるもので、こうした状況は、閉鎖された環境で独特の進化を遂げた“ガラパゴス諸島”になぞらえて語られることも多い。
この国際競争力の低下やガラパゴス化は今や、携帯電話の世界だけではなく、IT業界全般に広がりつつある。PCの世界シェアでは、日本のメーカーが5位に唯一ランクインするのみ。コンテンツ業界を見ても世界的に知られる企業は少ない。
日本のIT企業が世界で競争力を失いつつある理由は何なのか、競争力を強化するためには何が必要で、どこを変えればいいのか――。NPO法人のブロードバンド・アソシエーションが、問題の解決に必要なファクトを集め、それに基づく具体的な施策案を政府や企業に提案する「IT国際競争力研究会」、通称“超ガラパゴス研究会”を立ち上げた。
研究会のメンバーは、ICT関係者やアナリスト、コンサルタント、大学・政府関係者で構成される20人。委員長はiモードやおサイフケータイの生みの親として知られ、現在は慶應義塾大学大学院 特別招聘教授の夏野剛氏、副委員長は日立コンサルティングの芦辺洋司氏が務める。
研究会では、年内にも何らかの形で議論の成果を形にし、政府や企業に提案する計画。個別の産業にかたよることなく、ICT産業に共通する問題点や解決策を提示する考えだ。
委員 | 名前 | 所属 |
---|---|---|
委員長 | 夏野剛 | 慶應義塾大学 |
副委員長 | 芦辺洋司 | 日立コンサルティング |
幹事 | 渡邊聡 | 情報大航海プロジェクト |
委員 | 青山友紀 | 慶應義塾大学 |
委員 | 石橋聡 | 日本電信電話 |
委員 | 乾牧夫 | USB証券会社 |
委員 | 猪子寿之 | チームラボ |
委員 | 大谷章夫 | 東京海上アセットマネジメント投信 |
委員 | 忍足大介 | JPモルガン・アセット・マネジメント |
委員 | 黒川清 | 政策研究大学院大学 |
委員 | 佐藤文昭 | メリルリンチ日本証券 |
委員 | 津坂徹郎 | バークレイズ・キャピタル証券 |
委員 | 根本昌彦 | 未来戦略研究所 |
委員 | 間下直晃 | ブイキューブ |
委員 | 松本徹三 | ソフトバンクモバイル |
委員 | 村井純 | 慶応義塾大学 |
委員 | 村上敬亮 | 経済産業省 |
委員 | 持田侑宏 | フランステレコム |
委員 | 米川達也 | NTTレゾナント |
事務局 | 飯野嘉郎 | NPO法人ブロードバンド・アソシエーション |
研究会の委員長を務める夏野氏は、自身が(ドコモに在籍していた)テレコム業界時代にやり残したこととして“海外展開”を挙げ、現在のICT業界全般の競争力低下にも大きな危機感を持っていると話す。しかし、その理由や対策が冷静に議論されているかどうかは疑問だと指摘。競争力の低下には理由があるはずで、ファクトに基づいた合理的な議論が必要だと強調する。「ドコモを離れてICT業界を見渡すと、ほかの産業もみな似たような形になっていることが分かった。しかし、問題や課題をファクトベースできちんと羅列していく作業は、意外と誰もやっていないように思えたので、研究会で提示していこうと考えた」(夏野氏)
“合理的で冷静な議論”は、日本ならではの特異な進化を皮肉る“ガラパゴス化”を語る上でも重要なことだと夏野氏。特異な進化は、「見方を変えれば“特異な競争力につながる差別化ポイント”になりうる」(同)という見方を示し、そのポジティブな事例として、新たな利用者層を取り込んで成功した任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」を挙げた。
日本はガラパゴスだから、どうせ世界に出て行けない。しょうがない――。研究会では、日本企業に漂うこんなムードを払拭する議論の展開を目指す。「研究会では、(企業が)実際の行動を起こせるような情報や知恵をどんどん提供する。あとはそれを感じていただけるかどうかが重要」(夏野氏)
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