IT業界の国際競争力強化、カギは“ガラパゴス”にあり――慶大教授の夏野氏超ガラパゴス研究会、発足

» 2009年04月10日 23時23分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo 元NTTドコモ、現慶應義塾大学大学院 特別招聘教授の夏野剛氏が、超ガラパゴス研究会の委員長を務める

 日本での最適化に注力するあまり、高い性能を備えながらも海外では通用しない――。これは、国産の携帯電話が海外で勝負できない理由の1つとして挙げられるもので、こうした状況は、閉鎖された環境で独特の進化を遂げた“ガラパゴス諸島”になぞらえて語られることも多い。

 この国際競争力の低下やガラパゴス化は今や、携帯電話の世界だけではなく、IT業界全般に広がりつつある。PCの世界シェアでは、日本のメーカーが5位に唯一ランクインするのみ。コンテンツ業界を見ても世界的に知られる企業は少ない。

 日本のIT企業が世界で競争力を失いつつある理由は何なのか、競争力を強化するためには何が必要で、どこを変えればいいのか――。NPO法人のブロードバンド・アソシエーションが、問題の解決に必要なファクトを集め、それに基づく具体的な施策案を政府や企業に提案する「IT国際競争力研究会」、通称“超ガラパゴス研究会”を立ち上げた。

 研究会のメンバーは、ICT関係者やアナリスト、コンサルタント、大学・政府関係者で構成される20人。委員長はiモードやおサイフケータイの生みの親として知られ、現在は慶應義塾大学大学院 特別招聘教授の夏野剛氏、副委員長は日立コンサルティングの芦辺洋司氏が務める。

 研究会では、年内にも何らかの形で議論の成果を形にし、政府や企業に提案する計画。個別の産業にかたよることなく、ICT産業に共通する問題点や解決策を提示する考えだ。

Photo 携帯電話や情報通信機器の国際競争力低下を示すグラフ(左、中)。その要因の1つとして、内需にフォーカスするあまり、グローバル展開を怠る“ガラパゴス化”が挙げられる(右)

Photo 研究会のメンバー。委員長の夏野氏は「冷静に議論できる人を選んだ」と話す

どうすれば国際競争力が付くかを“冷静に”議論したい

委員 名前 所属
委員長 夏野剛 慶應義塾大学
副委員長 芦辺洋司 日立コンサルティング
幹事 渡邊聡 情報大航海プロジェクト
委員 青山友紀 慶應義塾大学
委員 石橋聡 日本電信電話
委員 乾牧夫 USB証券会社
委員 猪子寿之 チームラボ
委員 大谷章夫 東京海上アセットマネジメント投信
委員 忍足大介 JPモルガン・アセット・マネジメント
委員 黒川清 政策研究大学院大学
委員 佐藤文昭 メリルリンチ日本証券
委員 津坂徹郎 バークレイズ・キャピタル証券
委員 根本昌彦 未来戦略研究所
委員 間下直晃 ブイキューブ
委員 松本徹三 ソフトバンクモバイル
委員 村井純 慶応義塾大学
委員 村上敬亮 経済産業省
委員 持田侑宏 フランステレコム
委員 米川達也 NTTレゾナント
事務局 飯野嘉郎 NPO法人ブロードバンド・アソシエーション

 研究会の委員長を務める夏野氏は、自身が(ドコモに在籍していた)テレコム業界時代にやり残したこととして“海外展開”を挙げ、現在のICT業界全般の競争力低下にも大きな危機感を持っていると話す。しかし、その理由や対策が冷静に議論されているかどうかは疑問だと指摘。競争力の低下には理由があるはずで、ファクトに基づいた合理的な議論が必要だと強調する。「ドコモを離れてICT業界を見渡すと、ほかの産業もみな似たような形になっていることが分かった。しかし、問題や課題をファクトベースできちんと羅列していく作業は、意外と誰もやっていないように思えたので、研究会で提示していこうと考えた」(夏野氏)

 “合理的で冷静な議論”は、日本ならではの特異な進化を皮肉る“ガラパゴス化”を語る上でも重要なことだと夏野氏。特異な進化は、「見方を変えれば“特異な競争力につながる差別化ポイント”になりうる」(同)という見方を示し、そのポジティブな事例として、新たな利用者層を取り込んで成功した任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」を挙げた。

 日本はガラパゴスだから、どうせ世界に出て行けない。しょうがない――。研究会では、日本企業に漂うこんなムードを払拭する議論の展開を目指す。「研究会では、(企業が)実際の行動を起こせるような情報や知恵をどんどん提供する。あとはそれを感じていただけるかどうかが重要」(夏野氏)

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