夏野氏とひろゆき氏が考えるインターネットの未来はInterop Tokyo 2009

» 2009年06月12日 20時38分 公開
[秋吉健(K-MAX),ITmedia]

 Interop Tokyo 2009の最終日となる6月12日、慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏とニワンゴ取締役の西村博之(ひろゆき)氏が「インターネットの未来像:ポストインターネット」と題した基調講演を行った。

 携帯電話やインターネットの世界で有名な2人が講演するとあって、多くの一般観覧者が詰めかけたこの講演は、冗談交じりのトークに会場から笑い声が飛び交う和やかなムードで展開された。

Photo 慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏(左)とニワンゴ 取締役の西村博之(ひろゆき)氏(右)

Photo 自身もひろゆき氏もアナーキーだと話す夏野氏

 最初の話題にはインターネットが政治に与える影響が上がり、夏野氏が米大統領選でのバラク・オバマ氏のインターネット活用に触れ、「オバマ現象が起こった」と説明。これまで政治のネット活用といえば公式サイトやブログが中心で、政治家自身が前面に出てくることはあまりなかったが、Twitterというネットツールを使って選挙戦を戦ったことが、オバマ氏の大きな勝因になったのではと分析した。

 ひろゆき氏も「ネットの活用で勝利を収めた大統領としては、韓国の故・盧武鉉元大統領が最初だったのでは」と振り返り、政治にインターネットが活用され始めていることを示唆した。

 またTwitterの特徴については「ブログなどでも政治家の意見などは読めるが、それを本人が書いているとはほとんどの人が思っていない。しかしTwitterだと、本人もしくは本人に限りなく近い人物でなければできない」と夏野氏。「政治と国民が、これまで以上に近い関係になったことが新しい流れ」という見方を示した。

Photo インターネットを活用することで大統領選を有利にコントロールしたとされるオバマ大統領。BlackBerryのヘビーユーザーとしても有名で、大統領専用のBlackBerry端末を作らせたという

 日本の政治家のインターネット利用については、夏野氏がニコニコ動画の事例を挙げ「日本の政治家も、なぜかニコニコ生放送を使いまくっている。しかも面白い」話す。これにはひろゆき氏が「炎上とか知らないだけじゃないでしょうか」と独特の切り替えしを見せ、会場を沸かせた。

Photo 各政党のトップがずらりと顔を並べるニコニコ生放送。共産党の志位和夫委員長は、その名前からニコニコ動画や2ちゃんねるでは「C」と呼ばれ、一躍人気政治家となった経緯がある。政党でもこれを逆利用して、若年層の取り込みを目指している

旧態依然とした出版、テレビ業界のビジネスモデルを批判

 続いて新聞や雑誌などのペーパーメディアについての考察に入ると、夏野氏が「ペーパーメディアは終わってる。なんで絶版の本をネットで(データとして)売ったらだめなのか。儲ける気がないんじゃないか」と痛烈に批判。ひろゆき氏も「絶版の本がアマゾンのマーケットプレイスで売っているんですが、もともと1000円程度の本が10万円もする」という実状を説明し、出版業界の旧態依然とした販売体制に不満を漏らした。

 テレビメディアについてはひろゆき氏が「リアルタイムの情報を欲しがる人はネットに集まる」と分析。さらに「そうなるとテレビは生中継しか売りがなくなるが、生中継をメインにしたら視聴率が激減した。TBSで最近最高視聴率を獲得したのは水戸黄門の再放送だった」と、テレビというメディアが抱える問題の深さを指摘した。

 また両氏は、ペーパーメディアと同じように、テレビメディアの考え方も古いと指摘。夏野氏は「テレビ局の人にオンデマンドと言っても理解してもらえない。テレビ局は『その場で見て欲しいんだ!』と強く主張してくるが、その理屈が理解できない」と批判する。ひろゆき氏も「選択肢が少ないうちはそれでもいいけれど、今は山ほどある選択肢の中から自分に合ったものを選ぶ時代。そんな時代に、“おしつけの理論”で来られても、誰も選ばない」と同意した。

 一方、オンデマンドについては、夏野氏がアメリカの無料動画配信サイト「Hulu」(フールー)に言及。「すでに米国ではYouTubeの次に観られている。動画は完全無料で映画でもドラマでも何でもある。ただそこにある動画のすべてに広告がついているというだけ」と話すと、ひろゆき氏も「テレビのコンテンツが悪いわけじゃない」と述べ、問題はビジネスモデルにあると示唆した。

Photo 動画配信にかかる費用や収益をユーザーサイドに求めるのではなく広告主に求めるという方法は、インターネットのコンテンツプロバイダやISPなどには当たり前のビジネスモデルとなっているが、日本のテレビ業界などではこの考え方がまだまだ浸透していない

リアリティは生放送じゃないと伝わらない

 講演はニコニコ動画の最近の動向に関する解説に入り、両氏は最近のトレンドとして「ユーザー生放送が大人気」だと説明する。面白いコンテンツを流しているユーザーを紹介しながら「ユーザー生放送こそインタラクティブ。コメントがつけばそこに(動画を配信している)ユーザーがリアルタイムで応える。それが無茶苦茶楽しい」と夏野氏が述べると「何か事件があるとそこでユーザー生放送が始まる。ユーザーが記者になっている」とひろゆき氏。「生放送は真実を伝える。それに対してテレビは切り取った情報。リアリティは生放送じゃないと伝わらない」と、両氏はインターネットを使った生放送の面白さをアピールした。

Photo ニコニコ動画におけるユーザー生放送の利用状況は増加傾向にあり、インターネットがもはや“誰もが情報を発信する場”となっていることを物語っている

 最後は日本のインターネットの現状や今後のあり方が議題に上がり、夏野氏は「日本はIT大先進国。海外のブロードバンド事情やモバイル環境に比べたら、日本(の進化)は異常ともいえるレベル」と持論を展開。「インターネット発祥の地はアメリカかもしれないが、今そこで流行っているコンテンツの多くが日本発祥のもの。ケータイもガラパゴスなどと言われているが、日本が突き抜けて高いレベルにあるだけ。日本はもっとコンテンツや技術を海外に輸出するべきだ」と熱弁を振るった。

 日本が得意とするコンテンツについては、ブログやプロフなどを取り上げ、両氏は日本人が情報に対して非常に真摯に接していると分析。ひろゆき氏が「最後は結局コンテンツ。技術は高いのに世界に出さない。自己満足で終わっている」と語ると、夏野氏が「それってひろゆきじゃないか?」と皮肉り、会場の笑いを誘った。

 「ITに関する日本の潜在能力は非常に高い。しかし日本人はメインカルチャーでなければ認めようとしない風潮がある。それがコンテンツをダメにしている」というのが、夏野氏とひろゆき氏の共通の考え。夏野氏が「個人ユーザーでの活動は活発になっている。大きな仕掛けをしている人ももっと頑張れ!」と、日本のテレビメディアやインターネットを動かす企業や業界に向けてエールを送った。

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