インタビュー
» 2009年11月30日 16時50分 UPDATE

iPhoneの導入事例:“100台のiPhone”で生保の営業をどこまで効率化できるか――AIGエジソン生命保険の試み

生保業界で初めて、iPhone 3GSによる営業支援システムの活用を開始したAIGエジソン生命保険。ワールドワイドの推奨端末がBlackBerryであるにもかかわらず業務用端末としてiPhoneを導入した同社は、この端末のどこを評価し、どんな効果に期待したのか。システム管理チームに聞いた。

[岡田靖,ITmedia]
Photo AIGエジソン生命保険 システム計画・リスク管理グループ マネージャーの菊池亮氏

 生命保険の営業社員の業務は、外出先で顧客の個人情報を扱うことが多く、彼らが使うシステムには、高いセキュリティとモビリティが要求される。多くの場合ノートPCが使われており、そこに各種のセキュリティ対策を施して、顧客情報を守る工夫を凝らしているのが現状だ。

 AIGエジソン生命保険も、外回りの営業向け機器としてノートPCを採用していた。モバイル通信は一部の例外を除いて行わず、原則として“外出先ではオフライン、オフィス内のみオンライン”という使い方だったという。しかし、このような使い方では、当然ながら不便な点も少なくない。外出先では最新の情報を引き出すこともメールの確認もできず、業務効率を向上させるには、こうした不便さを解消していく必要があった。

 そこで同社が導入を決めたのが、アップルのiPhone 3GSだった。ワールドワイドの推奨端末がBlackBerryであるにもかかわらず、iPhoneを導入したというAIGエジソン生命保険のシステム管理チームに、導入のいきさつと期待する効果、具体的な用途について聞いた。

導入のポイントは「プラットフォーム」「UI」「サポート」の3点

 「これまでは、外出先でリアルタイムの情報を確認しようと思ったら、営業社員向けのコールセンターや自身の所属するオフィスに電話する必要があった。ただ、顧客のライフスタイルは多様化しており、コールセンターやオフィスの営業時間外に訪問する機会も少なからずあって、対応が難しくなっていた」――。AIGエジソン生命保険 システム企画部 システム計画・リスク管理グループ マネージャーの菊池亮氏は、iPhone導入前の状況をこう振り返る。

 業務のスピードアップを図るべく、現場からは外出先でもオンラインで使えるようなシステムが求められており、それに加えて各種パンフレットなどの営業資料や訪問先の地図などを持ち歩く負担を軽減することも課題として挙がっていた。

sa_aig01.jpgPhoto 従来の業務スタイル(左)と、これからの業務スタイル(右)のイメージ

 こうした業務上の課題を解決すべく、AIGエジソン生命保険では2009年4月頃からスマートフォンの導入を検討しはじめ、最終的にiPhone 3GSを選んだ。端末を選ぶ上で重視したのは、「プラットフォーム」「ユーザーインタフェース」「サポート」の3つだったという。

 「iPhone 3GSは全世界共通アーキテクチャであることが大きい。また、ビジネスのスピードを重視する我々としては、専用サーバなどが不要である点もポイントとなった。端末も大画面でレスポンスがよく、ユーザーインタフェースも直感的に使えるものであるなど、習熟に時間を要さない」(菊池氏)。

 スマートフォンの採用を検討している時に、iPhone OSが3.0にバージョンアップし、セキュリティ面が強化されたことも採用を後押しした。

 「iPhone OSがバージョン3.0になってからは、端末内データの遠隔消去が可能になった。パスワードポリシーも4文字以上に拡張できるなどセキュリティ面が強化され、トラブル時の切り分けも容易になった。現在のところ、ベストチョイスではないかと思う」(菊池氏)

Photo 導入を決めたポイント

 なお、AIGグループ全体としては、米国にならってBlackBerryをモバイル端末に使うことが推奨されていたが採用には至らなかった。AIGの業務でBlackBerryを利用するためには専用サーバを導入する必要があり、サーバ構築に必要な予算の手配などを考えると、迅速な展開が難しかったというのがその理由だ。

 Windows Mobile系の端末についても合わせて検討したが、全般的に動作の遅さがみられることや、全世界共通アーキテクチャを望む同社のニーズに合わなかったことから採用を見送った。全世界共通アーキテクチャの端末であれば、新サービスの迅速な提供が期待できることから、ここははずせなかったという。

 Android端末については、まだ法人向けの管理ツールが存在しないことや、AIGエジソン生命保険が導入を検討していた時点で実機が発売前であったことから採用に至らなかった。

100台を試験導入、ユーザーの評価は総じて良好

 iPhone 3GSは8月から社員への配布が開始され、まずは試験的に100台を導入した。現在では営業社員の一部と、役員が使っているという。

Photo iPhoneで利用できる主な営業向け機能

 iPhone 3GS上で利用できるおもな機能は、「顧客の契約内容の照会」「営業支援サイト『Edison Pro.com』との連携」「社内メールシステムとの連携」の3点。アプリケーションはWebベースで、それぞれの機能のショートカットを登録した状態で配布している。

 これにより、客先でも必要な情報を自由に検索できるようになり、また顧客の勤務先についての情報を調べるなどといった用途にも対応。出先でリアルタイムに情報を把握できるため、契約などの際に必要な資料が整っているかどうかといった、バックヤードでの作業状況も含めて随時チェックしながら進められるようになった。

 「これまでの、“打ち合わせを終えて帰社してから確認し、再訪問する”――という従来の業務フローから、大幅に効率化が図られた。移動中にメールをチェックできるなど、時間を効率的に使えるところも配布した社員から便利だと評価されている。業務を効率化することでできた時間で、より深く顧客の話を聞き、よりよい提案を行うというのが、スマートフォン導入の目的であり、それが実現できている」(菊池氏)

 AIGエジソン生命保険が用意した機能だけでなく、iPhone 3GSの基本機能も営業社員の業務効率に貢献しているという。

 「例えばGoogleマップを使えば、訪問先の地図を持ち歩く必要がなくなる。これまでは地図をコピーして持って行くことも多かったが、数千人の社員がいると紙の量は相当なものになる。エコロジー面でも効果がある」(菊池氏)

 一方、試験導入を通じて、課題も見えてきた。まだ配布し始めたばかりで、多くのユーザーが完全に使いこなしているとはいえず、多少の慣れが必要という声も聞かれるという。また、AIGエジソン生命保険のサイトにアクセスする際にはセキュリティ確保のために長いパスワードを頻繁に入力する必要があり、それをタッチパネルで入力するのが不便だと感じるユーザーも多いようだ。「Edison Pro.comの一部画面で文字化けが生じており、これもいずれ一括して修正する必要がある」(菊池氏)

 ただ、慣れが必要だといっても、そもそも「iPhoneを使っている人が身近にいるだろう」という判断からスタッフへのトレーニングはほとんど行っておらず、また、配布してさほど間がない時期の意見である点も、差し引いて考えるべきだろう。AIGエジソン生命保険では、スタッフからの問い合わせに対応するためのヘルプデスクを設置しているが、操作に関する問い合わせは少なく、せいぜいが「電源を切るつもりが切れていない(単に画面を消しただけだった)」という程度の、簡単な内容ばかりだという。

ノートPCの完全な置き換えにはならないが、メリットは大きい

sa_aig_koike.jpgPhoto AIGエジソン生命保険 経営企画本部 広報部 部長の小池純人氏(左)と情報システム本部 システム基盤開発部 オープンシステム管理課の種村理氏(右)

 AIGエジソン生命保険では、近い将来の全社的なiPhone 3GS導入を目指している。試験導入を通じて社員の意見を集約し、iPhone 3GSで利用できる機能を強化。その上でほかの営業社員にも配布する方針だという。経営企画本部 広報部 部長の小池純人氏は、その時期は明確にいえる段階ではないとしながらも、「来年のどこかの段階で導入する予定」と説明している。

 ただ同社では、すべてをiPhone 3GSに置き換えるつもりではなく、ノートPCと併用して使っていく考えだ。例えばライフプランニングをする際などには、顧客に見せる画面は大きなノートPCの方が見やすい。また、今のところはiPhone 3GSからモバイルプリンタを使えず、その場で紙の資料をiPhone 3GSから出力して顧客に渡すことはできない。

 情報システム本部 システム基盤開発部 オープンシステム管理課の種村理氏は、「現状のiPhone 3GSでは、残念ながらノートPCをなくすことはできない。100%完全に置き換えるとは限らないのではないか」と話す。年配ユーザーなどではiPhone 3GSに馴染みにくいケースも考えられ、ノートPCとの併用スタイルも含めて、どこまで使っていくかについても検討する必要があるとしている。

 同社はこれまで基本的にモバイル通信を利用しておらず、iPhone 3GSを全社的に利用することになれば、導入した台数分の通信コストが新たに生じることになる。菊池氏は、導入のメリットはそのコストを補えるものになるとし、推進していく方針に代わりはないと話す。「コストの上昇分より、生産性の向上や業務効率化で得られるメリットの方が大きいと考えている」(菊池氏)

役員の前向きな姿勢が現場を後押し

Photo AIGエジソン生命保険 システム基盤開発部 システム基盤計画グループ マネージャーの伊藤勲氏

 生命保険業界といえば、堅実さを重視する“お固い”イメージがあり、新技術についても導入には慎重な印象を受けるが、AIGエジソン生命保険ではiPhone 3GS以外にも新たな技術を積極的に導入しようとしている。

 例えば、音声自動認識システムを利用してコールセンターでのやり取りをテキスト化し、契約などの際に必要となる複数人でのチェックを効率的に行えるようにするシステムを導入しており、オペレーターのワークスタイル変革や新型インフルエンザのような伝染病対策として、在宅のままコールセンター業務に就けるようなシステムも作り上げている。

 「こうした新機軸への積極的な取り組みは、情報システム担当役員自らが旗を振って取り組んでいる。我々、情シスの社員よりも、新技術やサービスに対するアンテナが敏感で、いろいろと先進的な取り組みを推進してくれる」と、システム基盤開発部 システム基盤計画グループ マネージャーの伊藤勲氏はいう。

 AIGエジソン生命の方針は“新しい仕事の進め方はトップダウンで進めるべき”というものであり、iPhone 3GSも、試験導入段階から全役員が利用しているという。「画面をにらみつけるようにしながらも(笑)、使っている」(小池氏)

 経営層の前向きなIT活用の姿勢が情報システム部門に活気を与え、現場の社員にも影響を与えていく――。こうした取り組みの一環として、導入したのがiPhone 3GSだと小池氏。今後、AIGエジソン生命でiPhoneの業務用途がどう広がっていくのかに注目したい。

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