固定を廃し、会社の内外線を携帯に――JSOLが手にした「持たない経営」と電話運用の柔軟性(2/2 ページ)

» 2011年03月23日 12時00分 公開
[日高彰,ITmedia]
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通信費用のログが契約見直しのきっかけに

 一方で、導入から1年程度が経過したころ、社内では新たな問題が挙がっていた。パケット通信量が増え、通信費が大きく膨れあがってきたのである。

 携帯電話の導入にあたって、同社では使い方の規制は特に何もしていなかった。また、従来の固定電話を置き換えるものであったため、パケット通信の利用は想定しておらず、パケット定額サービスなどは契約していなかった。そのため、社員が外出中に電車の乗り換えや地図を検索したり、あるいは私用でWebサイトを閲覧したりしても、それを抑制する方法がなかった。

 この問題への対策として、同社は契約キャリアから提供される通信ログを解析するシステムを開発した。ログには、音声通話は通話先と通話分数、パケット通信はパケット数と使用時間帯がユーザー毎に記録されており、これを同システムに入力することで各社員の使用状況が一目瞭然となった。パケット通信を使いすぎても通信が切断されたり遅くなったりということはないが、一定の通信量を超えると当該社員の上司に通知が行くようにした。

 これによってパケット料金は目に見える形で減少したということだが、ログ解析システムの導入は思わぬ副次的効果を生み出した。それまで金額の総量でしか見えなかった電話料金を、ユーザーごとの利用動向として把握することが可能になったのである。そして、数カ月後には契約更新のタイミングが控えていた。そこで、ログの解析結果を通信キャリアに渡し、より適した料金プランがないかあらためて見積もりを取ることにした。

実データのシミュレーションで「ドコモが一番安かった」

 結論からいうと、それまで契約していたキャリアよりも、NTTドコモが提示した料金シミュレーションのほうが安かった。シミュレーションといっても、元になったパラメータはリアルな使用実績である。携帯電話の契約時にしばしば見られる「月に○○分くらい話すならこのプランが一番お得です」といった仮定ではなく、同社が携帯電話を使うと実際にこれだけ安くなるという数字が得られたことで、契約更新タイミングでのドコモへの乗り換えは決定的になった。具体的なコスト削減額については企業秘密ということだが、「すんなり決められる」提案内容だったという。

 価格が安くなってもサービス内容まで落ちては本末転倒。しかし、サービス面でもドコモへの乗り換えには決め手となるポイントがあった。

利用企業と連携したサポート体制が重要

photo 大内氏

 「導入から時間が経ってくると、端末の故障や紛失といったトラブルも次第に増えてきます。そのときに、従来は総務サービス部門で問い合わせを受けていました。しかし、私たちは街の携帯ショップの店員さんではないので、携帯電話に関して特に知識があるわけではありません」――JSOLの総務部門で、携帯電話に関して社内向けの窓口を担当していた大内氏はこう振り返る。

 つまり、従来は携帯電話に関してトラブルや使い方の問い合わせが寄せられると、それをユーザー社員に代わって逐一キャリアに連絡して対応にあたる必要があったのだ。1000台以上の端末が毎日業務で使われる中、1年も経つと携帯電話関連の対応だけで忙殺されるような日も生まれるようになっていたという。

 それに対して、ドコモとの新契約にはキャリア側でヘルプデスクを用意することが含まれていた。故障や紛失に関しては、ドコモが直接サポート窓口となってユーザー社員からの電話に対応するので、総務部門が携帯電話に関する問い合わせを受ける機会は激減した。また、従来のキャリアからの移行にあたっては、移行中の不通を最小限にするため、1600以上の契約回線を100回線程度のグループに分け、1日1グループずつ移行を行った。このため移行期間は約1カ月にわたったが、その間ドコモからサポートスタッフが派遣され、回線の移行だけでなく必要な社員には電話帳のコピー作業なども提供した。

 さらに、どの社員にどの電話番号とメールアドレスが割り当てられ、端末は正しく動作しているかといった管理についても、ドコモが用意する管理システムを利用することができ、ユーザーであるJSOL側からは社員リストのマスターデータを提供するだけで、契約中の全回線についてリアルタイムに利用状況を管理することが可能となった。

 また、ネットワークの質については一般に評価が高いFOMA網だが、ビルの中など電波が届きにくい場所については、屋外のサービスエリアの整備状況よりも、ビルの中に屋内用基地局があるかないかが通話品質を大きく左右する。同社の大阪の拠点に関しては、ビル内にドコモの基地局が設置されていないことが分かっていた。このままでは電話がつながりにくい状況が発生する可能性が高いため、乗り換えにあたってはドコモ負担で屋内基地局を整備することが条件となっていたが、ドコモ側がこれに応じたため、品質についても問題ない形で移行を行えた。また、JSOLでは製造業の顧客も多く、営業担当者が郊外や地方の製造拠点などへ出向く機会も多いが、その点でFOMA網の品質には大いに満足しているという。

今後の課題はパケット通信の利用

photo 池田氏

 以上のように、ドコモへの契約変更によって価格、サービス内容、品質のいずれにおいても従来よりも満足のいく通信環境を得ることができたが、これですべての課題が解決したわけではなく、携帯電話契約については引き続き見直しを検討したい点があるという。

 中でも最大の課題は、パケット通信料である。現在のところJSOLでは、従来と同じくパケット通信の利用は最小限に抑えるよう社員に求めている。これは、現状の用途においては、パケット通信サービスの費用対効果が高くないという経営判断のためだ。

 しかし、経営管理本部の池田氏は「本来使えるものを使わないのはもったいない、とは認識している」と話す。携帯電話からさまざまなWebサービスが利用できる現状の中で、あえてその利用を禁じるのは時代に逆行する流れであるということは、ITコンサルである同社が一番よく理解しているところである。逆にいえば、リーズナブルな料金体系さえあれば、すぐにでもパケットを使いたいということだ。

 1600台の端末すべてにパケット定額サービスを適用すると、それだけで1カ月あたり数百万円のコスト増になってしまうため、現状では利用できないが、池田氏は私案として「業務でのパケット通信については、ヘビーな使い方をするのはおそらく一部のユーザーに限られるでしょう。であれば、全社のユーザー間で一定のパケット料金をシェアするといった契約なども考えられれば」と話し、従量か定額かという選択肢だけでなく、企業にとって使いやすいプランが生まれれば、携帯電話のビジネス利用の幅がさらに広がるという見方を示した。

 携帯電話各社も、音声通話やパーソナルユースでのパケット通信に関しては、これまでの経験からどの程度の料金設定が妥当かという判断が可能だが、ビジネスユースでのパケット通信に関しては、業種・業態や具体的な業務内容によって利用パターンが大きく変わるため、まだノウハウを蓄積する段階にあり、JSOLのような大規模案件に対しどのような提案が可能かは手探りの状況のようだ。

 もうひとつ課題を挙げるとすれば、スマートフォンやタブレット型デバイスのような新しいモバイル機器を利用した業務の効率化である。これには前述のパケット通信料に加えて、社外でメールを受信したり社内システムを利用したりする際のセキュリティ確保の問題がある。

 最近ではデバイスベンダー各社も法人導入拡大を狙い、かなりセキュリティ機能に力を入れるようになってきているが、同社の場合、NTTデータグループと日本総研グループの両グループとして設けているセキュリティ基準をクリアする必要がある。これは金融など特に厳格なセキュリティやコンプライアンスが求められる業種との取引にも対応できる基準のため、それぞれのモバイル機器が備える標準のセキュリティ機能では条件を満たせない可能性が高い。ただこれも、ネットワークとデバイスの双方でセキュリティを担保でき、コスト効率上も問題ないソリューションさえあれば、ぜひ導入を検討したいとしている。また、こういったJSOLの携帯電話の利用ノウハウを、同社の顧客へと提案したい考えもあるという。


 現状多くの企業では携帯電話料金が固定電話に上乗せする形でのコストとなっているのに対し、同社では携帯電話をベーシックなコミュニケーション手段とした。それによって、10年スパンでの投資が必要だった「通信インフラ」は、常時見直し可能な「情報ツール」に変化したといえる。

 コミュニケーションの手段が多様化するとともに、経営スピードの迅速化が求められる状況下では、電話というシステムに投下するコストの考え方そのものが変わっていくことは間違いない。さらにいえば、その変化に対応できるサービスのあり方が、今後の通信キャリアには求められるだろう。

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