BtoBよりPtoP、PtoPよりKtoKのために――ビジネスマンはストーリーテラーたれ樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

仕事の話だけをして、受注できたことはほとんどない。営業マンはBtoBである前に、PtoP(パーソントゥパーソン)であれ。さらにKtoK(ニートゥニー)となれ。つまり「ひざをつき合わせろ」というのが筆者のポリシーだ。

» 2009年05月26日 22時00分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 就職面接は、「その会社で何ができるか」「その会社の製品やサービスから発想が出せるか」で決まると言っていい。筆者がアイデアマラソンを教えている大学で、ある講義の後、1人の学生が就職活動の報告をしてきた。「先生、X社に入社できました」「一部上場じゃないか。よかったね」「はい、アイデアマラソンのノートを面接に持って行ったのです」――。

 その学生は面接の時、そのノートをひざに乗せていたという。すると、試験官の1人が「そのノートは何ですか」と質問してきた。それから彼の面接は、アイデアマラソン一色になって持ち時間を相当越えてしまったのである。

BtoBよりPtoP、PtoPよりKtoK

 筆者も現役時代に入社試験の面接に試験官として参加したことがあるが、毎回同じ質問をするのにうんざりしたものだ。だから、目新しい話題で話ができればとても新鮮な気分になり、評価も高くなる。面接もコミュニケーションの1種だから、自分の得意な話題や自分の主導できるホームグラウンドに引きずり込めるなら最高だ。

 基本的に面接は一方的な質問から始まるが、似たようなケースはビジネス上よくある。例えば営業マン。極めて短時間の営業で、就職面接のように話題の主導権を握る必要がある。初対面の顧客と1時間か2時間同行するようなチャンスや、「お昼でも一緒に」と言われたときに、話す話題もなくて静かにしていたら営業はとても務まらない。

 お互いに知らない者同士親しくなる絶好のチャンス。相手はこちらほど親しくなりたいと思っていない場合、あなたは何を話すだろうか。どのような話題を話して、印象を深め、名前を覚えてもらい、あなたの人柄、キャリア、信念を伝え、あなたを売り込むことができるだろうか。

 営業はまず自分を売り込むことから始まるのだから。仕事の話だけをして、受注できたことはほとんどない。営業マンはBtoBである前に、PtoP(パーソントゥパーソン)であれ。さらにKtoK(ニートゥニー)となれ。つまり「ひざをつき合わせろ」というのが筆者のポリシーだ。

相手の関心を引く話題を連発銃のように続けるために

 筆者がビジネスに関するエッセイを書き始めたきっかけは、個人としての顧客と一刻も早く親しく、理解し合うために、自分を売り込む必要があったからだ。そのためには「仕事以外の楽しい話題」「珍しい話題」、そして「相手が関心を示す話題」を自然体でありながら、連発銃のように続けられるかどうかが大切だと考えていたのだ。

 そのため筆者は「ビジネス・ストーリーテラー」に徹しようと考えていた。筆者の長い海外駐在経験は、ビジネスストーリーでは宝の山である。そもそも「ビジネスストーリーテラー」のコンセプトは、海外駐在している時に思いついたもの。日本から訪問してくるメーカー幹部と数日間の現地滞在中に、どれだけ親しくなり、自分のことを覚えてくれるかに執念を燃やしたことから始まったのである。

 共通の話題がゴルフだけだったり、接待する女性が同席しているバーでカラオケをして過したりすることは、すでに時代錯誤。それにゴルフや酒を利用したビジネスリレーションを構築するのは、筆者は大嫌いだった。むしろ、お互いの体験や考え方をじっくりと話すことが大事。そうした話があふれる食事が好きだ。海外では、大多数の訪問客を自宅に呼んだのもそのためである。

 自分自身を顧客により早く理解してもらうように、そして面白い話をさらに洗練するために、そもそも内容を忘れないように――ノートに書き記しておくべきだ。体験したエピソードや思い出したことをノートに書き留め、ワープロやPCに記録しよう。筆者の場合は、こうして書き溜めた話が本になっていったのだった。

今回の教訓

 KtoKの次はHtoH(ハートトゥハート)――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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