仕事の「意味」を考えさせる田中淳子のあっぱれ上司!(2/2 ページ)

» 2012年10月22日 11時35分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]
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上司の役割は「やらされ感」を減らすこと

 ある若手が「電話をとるのが最初はすごく怖かったけれど、それでも頑張ってとっている内にいろいろと分かってきました」と話してくれた。入社して10カ月もたとうかという冬のことである。「よく電話がかかってくる人はどういう会社のどういう人か、誰あてにかけてくることが多いかを観察していると、取引関係とか人間関係とか仕事の流れみたいなものがおぼろげながら分かってくることに気づいたんです」と言う。

 「最初は意味不明だった専門用語も耳馴れてきて、もちろん自分で調べてもみました。まだ新人なので自分あてにかかってくる電話は皆無ですが、電話の取り次ぎをしているだけでも、業務に関わる用語を覚えたり、仕事で関わりのある社内外の方の社名やお名前、製品やサービス名を覚えたりできるんですね」

 こういう感性はステキだ。もしこの彼のように自ら気づくことがなかったとしたら、先輩や上司が「電話をとることの意味や意義、電話をとるということから学んでほしいこと」を説明するべきだろう。

 どのような仕事にも意味があるし、そこから学べることはあるはず。学ぶ当人が気づき、自分なりの意味づけをすることができればそれに越したことはないが、当人が気づかないのであれば、上司や先輩が「この仕事の意味はね」と説明することが重要だ。

 「やらされ仕事」とか「やらされ感」という言葉があり、これは、たいていの場合「やる気が出ない」仕事の要因として使われる言葉でもあるが、そういう風に捉える前にその仕事にどのような意味づけをするのか、どのような意義を見出すのかをまずきちんと考えることも必要である。

小さい仕事も「やって当たり前」ではない

 上司や先輩にできることはもう1つある。華々しい仕事だけではなく、裏方の仕事や誰かがやらねばならない規模の小さな仕事に取り組む若手に対して、労いの言葉をかけることである。「新人だから、若手だからやって当たり前」と捉えるのではなく「ガンバっているな」「貢献しているな」と思い、声をかけることも大切だ。

 ある若手エンジニアの話である。「僕が新人だったときのことです。毎年、新人が担当することになっている単純な作業がありました。最初は任されたことがうれしくて、取り組んでいたのですが、数カ月もすると段取りも覚えてしまうし、とてもつまらなくなりました。そんな時、作業中にたまたま脇を通りかかった先輩に声をかけられました。“君がやっている作業は、とても地味だけど、重要な仕事なんだよ。みんなのためにありがとう”。この一言はとてもうれしくて、自分のしていることの意味を再確認し、それ以来、つまらないなどと気分が腐ることもなく、翌年の新入社員が入社するまで一生懸命取り組みました」

 「地味だけど大切な仕事。皆のためにありがとう」――。なかなか言えるセリフではない。こういう声をかけられる先輩は後輩のやる気を常に刺激してくれる存在なのであろう。

 どういう仕事でも意味を考えさせ、そこから学ぶポイントも意識させる。そして、取り組んでいる若手をよく観察し、時々は労いなどのフィードバックを伝える。大きなプロジェクトを通じて若手を育てることもあるけれど、こういう日々のちょっとした業務を通じても学びを促すことは十分にできるのである。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


  • 著書「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など
  • ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!
  • Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko

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