来年1月1日より、小中学生の携帯所持規制を含む石川県の「いしかわ子ども総合条例」がスタートする。携帯所持規制というと大げさだが、実際には親の努力義務であり、強制力はない。また携帯電話販売店に対しても、小中学生には売らないようにといった指導もない。筆者も実際に石川県に飛んで取材も行なってきたが、さあ子どもからケータイを取り上げるぞといった雰囲気もない。
しかしいくら努力義務とはいえ、条例でそれを決めてしまったというのは重い話だ。勘違いして本当に子どものケータイ狩りを行なう団体や、子どもたち同士のいじめが出現しないとも限らない。条例のお墨付きがあることで、それが正義だと思い込む可能性は、否定できないのである。
石川県の条例に関しては、その経緯も含めてまた改めて語るべき機会もあるだろう。今回は直接その話ではなく、その条例が投げかける影響について考察してみる。
石川県の条例を受けて、通信事業者らが一斉に警戒したのが、この所持規制の条例化が他所へ飛び火するのではないかという点である。実際にいくつかの地方都市の市長さんらとディスカッションしてみると、子どもとケータイの関係をどのような態度で対応していくのか、議会からその判断を迫られているところもあるようだ。
11月30日にパブリックコメント応募を締め切った「埼玉県青少年健全育成条例の改正骨子案」は、石川県の条例改正を受けた動きのひとつである。改正のポイントは以下の3つだ。
(1) 保護者がフィルタリングを解除する際の条件を規定する
(2) 携帯電話事業者は、青少年又は保護者に対して、フィルタリングサービスに関する口頭説明や説明書の交付を行なう
(3) (2)を遵守しているか県職員等が販売店に立ち入り検査し、守られていない場合は勧告、名称・所在地の公表を行なう
(1)の条件に「保護者がインターネットの利用履歴提供サービスを活用し、青少年のインターネットの利用状況を常に確認する場合」とあるのだが、この利用履歴提供サービスは現在NTTドコモとソフトバンクモバイルしか提供していない。つまりちゃんと携帯の利用監視を行なう埼玉県の家庭では、NTTドコモかソフトバンクモバイルに乗り換えなさい、ということになってしまう(※編注:初出時、履歴サービスの提供元についてNTTドコモのみと記載しておりましたが、ソフトバンクモバイルも提供しておりますので、該当カ所を訂正させて頂きました)。
またこの利用履歴提供サービスはいざ利用しようとすると、利用のためのパスワードが履歴を見たい携帯電話、すなわち子どもの携帯電話に送信される。つまり「今からお前のケータイを監視するのでパスワードを教えなさい」と子どもに聞かなくちゃならない。それで素直に教えるぐらいの歳の子どもならばいいが、中高生では無理ではないか。
さらにこの利用履歴は、パソコンで利用するサービスだ。しかしパソコンでURLやリンクなどが表示されても、昨今のケータイサイトはPCからのアクセスを遮断する傾向が強まっており、その場でサイトの内容などを確認することができないのである。
(3)に関しては、かなり筋の悪い話だ。「県職員等」と書いてあることから、おそらくどこかの団体に外部委託することも視野に入れてあるのだろう。そうなると、その団体の胸先三寸で販売店の締め上げつるし上げが可能ということになり、利権ウェルカムな構造を産む。
全体的に埼玉県の方針は、フィルタリングの効力に対して妄信的に依存しており、まったくもって勉強不足であると言わざるを得ない。また学校・家庭でのリテラシー教育に対する施策もなく、さらには教育の成果測定も何もない。埼玉の親はフィルタリングかけて、あとは寝てればいいということなのか。
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