子どもの健全育成と社会的代償:小寺信良「ケータイの力学」

» 2010年04月19日 14時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 東京都が都議会に提出した「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(青少年育成条例)の改正案に関して、ネットユーザーの間では大きな騒動となった。それというのも、この改正案で定義された「非実在青少年」の扱いについて、大がかりな表現規制に発展するのではないかという懸念が広がったからだ。現在法案は継続審議となり、おそらく6月ぐらいに再審議となる予定である。

 ネットやケータイに関する規制は、地方自治体の間で徐々に拡がっている。子どもに対するケータイ不所持の努力義務と、フィルタリング解除規制を盛り込んだ石川県が先頭を走っている格好だが、フィルタリング解除規制に関しては、埼玉県などが追従の構えを見せている。東京都も一応地方自治体に入るわけだが、日本のメディアの中心地であるが故に、東京都の決定が全国に影響を与えることとなり、もはや単純に地方自治体レベルの話では片付けられない。

 ここで我々が反省しなければならないのは、これまで多くの関心が国政に向きすぎており、地方行政の仕組みや立法プロセスに関して、あまりにも無関心であったということである。地方行政の場合、知事は投票によって直接選出されるため、かなり強い権限を持つ。一方県議会は、一番人数の多い党が第一党ではあるものの、国会のように与党となるわけではない。国政で言うところの与党に相当するのは、県知事である。すなわち地方議会とは、知事 vs. 議会という構図になる。これを誤解していては、陳情もままならない。

 条例案は、ほとんど知事から提出され、議会での賛同を経て条例化されていく。特に青少年健全育成条例などは、「子どものため」という大義名分のため、簡単に通りやすい。一方国会における議員立法に相当する仕組みも、地域行政にある。ただ、積極的に使われている県と、全く使われたことがない県が存在する。

 石川県の場合、携帯不所持努力義務は議員提案によって条例化された。過去石川県は議員提案の立法が1つもなく、よほどおかしなものでなければ是が非でも通すというコンセンサスが取れていたのだ、と語る議会に近い筋の人もある。もちろんこれは、真偽のほどは永久に確かめようがない話である。

東京都条例改正案の本当の問題点

 東京都の条例改正案は、今回非実在青少年に関してクローズアップされたので、次の改正案ではその部分はかなり丸められるだろう。しかし筆者が問題にしたいのは、それ以外の知事の権限に関する部分である。今回の改正案には、次のような条文がある。

東京都青少年の健全な育成に関する条例 改正案

十八条の八 (インターネット利用に係る保護者等の責務)

3 行政機関は、その業務を通じて、青少年がインターネツトを利用して自己若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為をし、又は犯罪若しくは被害を誘発したと認めたときは、これを知事に通報することができる。

4  知事は、青少年がインターネツトを利用して自已若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為をし、又は犯罪若しくは被害を誘発したと認めるときは、その保護者に対し、当該青少年について再発防止に必要な措置をとるとともに、そのインターネットの利用に関し適切に監督するよう指導又は助言をすることができる。

5 知事は、前項の指導又は助言を行うため必要と認めるときは、保護者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる。


 これらはすなわち、行政機関が「尊厳を傷つけ」たというような曖昧な基準で、青少年を知事に告発できるということであり、その青少年に対する監督責任が保護者であるとし、その指導又は助言のために家庭内に立ち入ってあらゆる調査を行なう権限を有するという意味に取れる。

 普通このような調査には、目的が限定されたものに限るなどの付帯条件が付くものだが、それらの制限も全くないし、しかも知事の調査をどこの組織が代行するのかも記載されていない。子どもの健全育成をダシに、いくらでも難癖を付けて警察が家庭に立ち入り調査ができることになりかねないような条例が、うっかりすると3月に丸ごと通りそうだったのである。

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