“ネットいじめ”の真実(1)小寺信良「ケータイの力学」

» 2013年02月04日 15時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 2月頃から全国的に、私立中学や高校入試が始まる。3月の二次募集を経て、4月には多くの子供たちが、新しい人間関係をスタートさせる時期である。

 中学・高校へと進学する子供を持つ保護者の間では、子供がケータイやスマホを持ち始めることで、“ネットいじめ”を懸念する声が毎年聴かれる。いわゆる「学校裏サイト」がメディアでしばしば取り上げられた2008年頃は、新しい問題の発生という捉えられ方をした。しかし、それらは一部の事例が大きくクローズアップされただけで、学術的な研究結果というのはほとんどメディアで紹介されてこなかった。

 ネットいじめについて、インターネットの利用といじめにはどのような関係があるのか。安心ネットづくり促進協議会の調査検証作業部会では、2009年末から2010年にかけて調査を行ない、その結果が報告書として公開されている。前回前々回で取り上げたネット依存に関する報告書も同時に公開されているので、興味のある方はご覧いただければと思う。

 今回はこの報告書のうち、「インターネット使用といじめ・暴力の関係性に関する研究」について取り上げてみたい。ちょっと調査が古く、昨今のスマートフォン普及の事情が加味されていないところはあるのだが、基本を学ぶには差し支えないと考える。

 日本におけるネットいじめの定義は、被害者からの目線で捉えている。文科省の定義では、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」となっている。

 一方いじめの国際的定義では、「相手に危害を与え、反復性があり、加害者と被害者の間の力関係にアンバランスがある行為」とされており、加害者側からの視点となっている。このあたりからすりあわせていかないと、国内外の調査結果を単純に比較しても、意味がないことが分かる。

 2008年に発表された論文「『サイバー型いじめ』(Cyber Bullying)の理解と対応に関する教育心理学的展望(千里金蘭大学 小野 淳・斉藤富由起)」では、ネットを使ったいじめを以下の8つに分類している。

photo サイバー形いじめの種類

 今回の実態調査では、上記の8項目に、「他者からの呼びかけに応じていじめに荷担したか」などの項目を加え、加害経験と被害経験の両方を調査している。

ネットとリアルでのいじめ経験を比較する

 まずネットいじめの加害と被害の行動体験について比較してみる。本調査では小学生の資料もあるが、ネットを使ったいじめが非常に少ないため、本稿では中高生にフォーカスする。またこの調査結果は、総務省が平成23年度版として発行した「情報通信白書」にも掲載されており、グラフなどはそちらのほうが綺麗なので、そちらをお読みいただくのもいいだろう。本稿のグラフもそちらから引用する。

 加害体験だが、ネットとリアル(学校)での経験を比較すると以下のようになる。

photo 中学生のいじめ加害体験
photo 高校生のいじめ加害体験

 中高を比較すると、リアルいじめの傾向はあまり変わらないが、ネットいじめでは中学生はメールが中心、高校生ではもっと広く掲示板やブログ、SNSなどのコミュニケーションの場へ主軸が移行しているのが分かる。

 では被害について比較してみる。

photo 中学生のいじめ被害体験
photo 高校生のいじめ被害体験

 被害については、リアルいじめは中学よりも高校ではかなり減っている。加害のほうも高校で減る傾向にはあるが、被害ほどではない。これは、中学生が自分はいじめられているのではないかと疑心暗鬼になりやすい年頃であることも、無関係ではないだろう。一方ネットいじめが高校では増加する傾向にある。これは高校生になれば携帯所持率が全国平均でも97%と大幅にアップすることで、ネットへのアクセス率が増大するからと考えられる。

 ネットいじめの内容面では、高校生で画像の無断掲載が上位に上がっている。これは単なる悪口レベルから、ケータイのカメラを使って撮影し、サイトに上げるなど、コミュニケーションツールを使ったいじめに変化していることが分かる。

 加害、被害両方ともネットでのいじめの発生に比べて、リアルでのいじめが比較にならないほど多いという事実は看過できない。個人を対象としたいじめは、一つの行為のみに留まらず、別の行為も平行して行なわれるケースも多い。ネットいじめを心配するよりも、学校内でのリアルないじめを警戒するほうが先である。

 次回は、リアルいじめとネットいじめの相関関係と、ITの知識とリテラシーがどのように作用するのかを分析する。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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