気象庁の大雪予報が外れた日、ウェザーニューズはなぜ、「雨」を予報できたのか(2/2 ページ)

» 2013年02月28日 09時30分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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気象のプロが思い描いていたお天気の世界と違う

 サポーターからもたらされる圧倒的な量の情報を分析するうち、実際の天気が、「気象のプロが思い描いていたお天気の世界と違うことが分かってきた」と、森田氏は言う。

 例えば、梅雨の時期や台風の際にテレビに登場する雨の分布図。雨の多い部分と少ない部分をきれいな曲線で分けて描いた「等値線」で示すが、サポーターから寄せられる雨の報告を地図上にプロットしても、きれいな曲線では描けないという。

画像 ウェザーニューズ 取締役の森田清輝氏

 その違いは、観測点の密度の違いに起因する。アメダスは20キロおきにメッシュ状に設置されているが、サポーターは1キロおきにいる。「雨も気圧も、観測が詳細になればなるほどきれいな等値線では描けない、曲線で描こうという方法自体が成り立たない」のだ。

 桜前線も同様だ。気象庁が桜の開花予報を行っていたころは、「標本木」と呼ばれる桜の木が咲いた日が桜の開花日とされ、開花日を結んで描いたきれいな曲線が「桜前線」と呼ばれたが、サポーターが送ってくれる桜の開花情報を地図にプロットしても、きれいな曲線が描けないことが分かってきた。

 「標本木は最も多い時代で全国で100本オーダーだったと思うが、サポーターが観測してくれる桜の木は1万本オーダーにケタが変わっている」。同社の天気予報は、400万人のサポーターがそれぞれ“観測点”になり、観測機によるデータやプロの知見に基づく理論上の気象と現実の気象との橋渡しをして精度を上げてきた。

 サポーターは観測機ではなく人間だ。アメダスのように、決められたタイミングで気温や降水量を精密に測るといったことは難しいが、寒いか暑いかや、雨が「ポツポツ」「パラパラ」「ザーザー」降っているといった体感、これから天気が良くなりそうか悪くなりそうか、といった感覚を伝えてくれる。体感は人によって異なり、気象予報の基礎データとして利用するには不安が残りそうだが、同社は、人間の五感を大事にしているという。

 「気象を構成する要素は、気温、湿度、気圧、風向、風速の5要素しかなく、例えば、空が明るい・暗いといった要素は含まれていない。流体力学のモデルにあてはめるには、5要素でいいのかもしれないが、われわれがやっているのは、流体力学ではなく天気だ」(森田氏)

報告は「宝の山」 全リポートに目を通す

 同社の予報担当者は、サポーターから届く写真やメッセージなど、すべての報告に目を通しているという。その量は1日万単位に及ぶが、「宝の山で、ワクワクする」と森田氏。「情報量が圧倒的で、旧来の気象観測を上回るデータになってきた」のだ。

画像 雨と雪の境界も、サポーターからの報告のおかげで一目瞭然だ

 例えば、サポーターが送ってくれる雨や雪の写真からは、雨粒の大きさや雪の降り方、落下速度なども分かるし、データだけでは判断が難しい雨と雪の境目も、サポーターの報告を地図にプロットすれば一目瞭然だ。「これまで、有能な気象屋が、さまざまなデータを勘案してエイヤと線を引いていた雨と雪の境目が、入社1年目の新人でも引けるようになった」(森田氏)

 「ツルツル凍結」か「シャーベット」か――。雪の日にはサポーターに路面の凍結状況も聞く。従来は、降雪量や気温などから凍結状況を推定。気象予報では「できる限りの注意事項を言っておこうと判断していた」(喜田氏)が、サポーターから現地の雪の状況を教えてもらえるようになり、「より適切なメッセージを届けられるようになった」という。

気象のプロがサポーターに負けた「敗北記念日」

 気象予報士という“プロ”が、サポーターという素人の報告を信じて予報に生かす。その姿勢は、4年前の「敗北記念日」以降、徹底してきたという。

 敗北記念日――。気象のプロが、サポーター(一般ユーザー)に“敗北”した日だ。

画像 ウェザーニューズ WITHステーションコンテンツ運営本部チームリーダーの喜田勝氏

 2009年3月3日。同社は「関東は大雪になる」と予報した。同社以外の予報機関もそろって雪を予報していた日。「気象技術の専門家として見た時、間違いなく雪になる条件がそろっていた」と森田氏は振り返る。

 だが当日、サポーターから送られてくる報告は、「雪は降りそうもない」というものばかり。予報と乖離していたが同社は判断を曲げず、「もうすぐ気温が下がり、雪になる」というメッセージを出し続けた。

 その日は結局、関東のほとんどの地域で雨。大雪にはほど遠い気象となり、プロの予報よりサポーターの実感が正しいという結果になった。「サポーターが送ってくれていた“五感”情報を生かし切れなかった」(喜田氏)のだ。

 現地に住むサポーターは、その地域の気候を肌で知り、体感している。彼らの生の情報の大切さは十分に認識しているつもりだったが、敗北記念日までは、「自分たちは気象の専門家で、サポーターは素人」というプライドがどこかに残っていたという。その日以来同社は、「迷った時、判断が難しい時はサポーターを信じる」(喜田氏)という姿勢を徹底している。

明らかにおかしい報告、1万通に8通のみ

画像 ウェザーリポートch

 サポーターは携帯電話やスマートフォンを持っていれば誰でもなれ、気象の知識などは不要だ。間違ったデータが送られてくるリスクもあるが、「明らかにおかしい報告は1万通に8通。99.9%以上は、正確な天気をあらわしている」(森田氏)という。

 放送局などには、「サポーターから届いた写真は裏を取っているのか」とよく聞かれるが、森田氏は意に介さない。「気になるなら、写真を撮ってくれたサポーターに電話し、写真で表現しきれない情報を引き出せばいい」と考えているからだ。

 同社はサポーターからの今の天気の報告を、「ウェザーリポートch」で惜しみなく公開。誰でも無料で見られるようにしている。「ネットの時代に、独占はないと思ってる」――森田氏は、“誰でも天気予報ができる時代”を見すえ、こう語る。

続編へ続く

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