iPhone 5sとiPhone 5cの“革新性”を分解して知るバラして見ずにはいられない(3/3 ページ)

» 2013年10月16日 11時58分 公開
[柏尾南壮(フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ),ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

sとcで異なるのは?

 プロセッサがA7かA6かを除くと、最大の相違点はボディにある。iPhone 5sはそれまでのiPhone 5と同じアルミ合金を外装パネルに使っている。切り出した板の内側を削って皿のようにし、裏側はサンドブラストで梨地風にしている。このボディだけで約40ドルのコストがかかっていると思われるが、軽いうえ、ボディ上にすべての構造物を作ることができるので効率的だ。

 iPhone 5cのボディはプラスチックでコストは安く、アルミ合金では表現できなかった多彩なカラーバリエーションが可能となった。しかし、基板などを固定するため、また、アースを確保するため、ステンレスと思われる板にネジ穴などを作り込んだパネルをプラスチックのボディカバーのほぼ全面を覆うように搭載している。このため、ボディパネルの重量はアルミ合金のiPhone 5sより16グラムほど重い。当初はバッテリーなどを大型化したための重量増であると思われたが、これらの部品のサイズは同じなので、ボディ構造の違いが重量の違いと考えるのが妥当だろう。

ボディパネルの構造と重さ、コストを比較する。左はiPhone 5cで右がiPhone 5s

 iPhone 5sに搭載した指紋センサーは、アップルが認証技術を持つAuthenticを買収したため、この企業の技術を反映したものと思われる。少し前のトラックパッド採用モデルの多くは、赤外線方式マウスをひっくり返したような方式だった。しかし、iPhone 5sの指紋センサは指を乗せる部分とセンサが密着した状態なので、新しいセンシング方式を採用したと推定できる。

 指を乗せる部分は人工サファイアを円形にカットしたものだ。高級腕時計などに使用しているものと同じだが、これほど小さいものを真円にカットするのは相当な手間を要するもので、原価を計算するときには高額部品の1つとなるだろう。

iPhone 5sに搭載した指紋センサー

「名脇役」たちに注目する

 これまでこの連載ではあまり紹介する機会がなかった部材の1つに「コネクタ」がある。液晶パネル、タッチパネル、カメラ、バッテリーなど、基板に載せきれない部品を接続する機能も重要だが、同じくらい重要な機能として、信号にノイズを入れず高速で伝送する役割も担う。プロセッサがどんなに高速でも、コネクタの信号伝送速度が遅いとデータの目詰まりを起こしてしまう。そういう意味ではプロセッサの動作クロックが高速になった現代だからこそ非常に重要な部品の1つといえる。

 例えば、iPhoneには通話用アンテナが2つある。通常は口元に位置するアンテナを使用するが、手で覆うなどしてこのアンテナの感度が落ちてくると、通信を途絶させないため、耳の方にあるアンテナが動き始める。通信ブロックは基板の下部にあるため、ここで発生する信号を上部(耳元)アンテナに伝送する必要がある。しかもLTE対応ということで高速大容量のデータ伝送となる。

 iPhone 5sとiPhone 5cでは、基板の下部と上部を同軸ケーブルで接続して通信信号を伝送している。同軸ケーブルはTV用信号ケーブルのように、中心線をメッシュ状の銅線で取り巻くタイプだ。この種のケーブルは、周囲で発生する電子的ノイズの周波数によっては共振(アンテナとして作用)する場合があるため、途中3カ所に絶縁ポイントを設けている。検証した機材に搭載するケーブルのメーカーは不明だが、国内では日立金属などが手掛けている。また、このケーブルを基板に接続するのは金メッキされた円形のコネクタで、これが、村田製作所の製品と推定している。

iPhone 5cのシステム基板に実装したコネクタ配置(写真=左)と、iPhone 5s/5cのディスプレイ側に実装したアンテナケーブル(写真=右)

 ボディ上下のアンテナスペースを提供するガラスパネルも名脇役といえるだろう。ボディ全体をアルミ合金で覆ってしまうと電波を通さないため、iPhone 5sのボディ上部と下部には外枠を残して細長い穴が開いており、ここにアンテナを配置してガラスで覆っている。外枠の上にガラスを載せて接着するとき、アルミ合金のボディとの段差を最小限にする苦労がある。取材の中で、段差の値をやや厚めから薄めまで細かく分け、その段差に合うガラスカバーを取り付けているという興味深い話を聞くことができた。

世界の多くの人はまだアップルを買えない

 iPhone 5sのゴールドモデルは、人気が高く購入を希望してもなかなか入手できないほどの人気となっている。しかし、このような高額ハイエンドモデルを取り巻く状況は厳しい。iPhone 5cも登場したが、Android OSを導入したスマートフォンの中には100ドル台で販売されるものも多い。iPhoneを使いたいが経済的事情で購入できないユーザーは全世界でまだまだ数多く存在する。スマートフォンが急速に普及しているのも事実だが、その価格帯にアップルの製品はいまだない。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年