“フレームレス”の驚きを日本のハイエンドユーザーにも――「AQUOS CRYSTAL X」開発秘話開発陣に聞く「AQUOS CRYSTAL X」(1/2 ページ)

» 2015年02月13日 07時00分 公開
[田中聡ITmedia]

 ソフトバンクモバイルが米Sprintと共同調達して、3辺狭額縁をさらに突き詰めた「フレームレス構造」が大きなインパクトを与えた「AQUOS CRYSTAL」。これをさらに進化させた日本オリジナルのモデルが「AQUOS CRYSTAL X」だ。フレームレス構造を継承しながら、ディスプレイはAQUOS CRYSTALの5型HD(720×1280ピクセル)から、5.5型フルHD(1080×1920ピクセル)にスペックアップ。「エモパー」や「グリップマジック」にも新たに対応した。

 AQUOS CRYSTAL Xは、どのような狙いで開発したスマートフォンなのか。シャープ 通信システム事業本部 グローバル商品企画センター 第三商品企画室 室長の澤近京一郎氏と主事の楠田晃嗣氏、シャープ プロダクトビジネス戦略本部 デザインセンター 通信デザインセンター デザイナーの二神元氏、プロダクトビジネス戦略本部 デザインセンター UXデザイン室 シニアデザイナーの中田裕士氏に、開発の舞台裏を聞いた。

photophoto シャープの「AQUOS CRYSTAL X」。カラーはレッド、ブラック、ホワイトの3色(写真はレッド)
photo 左から澤近氏、中田氏、二神氏、楠田氏

5.5型でも片手で操作できるサイズ感に

photo 2014年8月に発売された「AQUOS CRYSTAL」

 AQUOS CRYSTAL/AQUOS CRYSTAL X開発の根底にあったのは、同質化が進むスマートフォンをいかに差別化していくかという点。この課題を打ち破る第1弾モデルとして投入したのがAQUOS CRYSTALだ。澤近氏は「AQUOS CRYSTALが発売されてからの反応を見ると、好意的に受け止められています。北米でも販売して、そちらでも順調に売上を伸ばしているとうかがっています。私たちが考えていた“フレームレスの驚き”は、しっかり認知いただけたんじゃないかなと評価しています」と手応えを話す。

 一方、AQUOS CRYSTALは北米でも同時展開したことと、「フレームレスの驚きを第一に訴求したかった」(澤近氏)ということもあり、ワンセグやおサイフケータイは搭載せず、プロセッサ、ストレージ、カメラなどのスペックも抑えた。ターゲット層は、20代の男女を中心とした幅広い層を狙った。一方、AQUOS CRYSTAL Xは主に国内のハイエンドユーザー向けに開発し、ターゲット層は30代男性を中心とした。日本ユーザーのニーズが高いワンセグやおサイフケータイにも対応させたほか、ディスプレイ、プロセッサ、ストレージ、カメラなどのスペックも強化した。「AQUOS CRYSTALとXを中心に、『今までとちょっと違うよ」という商品を投入して、驚きを与え続けていきたい」と澤近氏は意気込みを話す。

photo 商品企画担当した澤近氏

 第一印象にこだわったのは、AQUOS CRYSTALと同様だ。「店頭に並んだときに、ユーザーさんがどれを選んでいいか分からないという声を聞くので、見た目のインパクトをズバッと出そうと考えました。大画面化の要望はある一方で、画面が大きくなるとセットサイズも大きくなる。5.5型といえば、ファブレットと同じサイズです。片手で操作できない、胸ポケットに入れてもはみ出してしまう……そういう不満点は絶対に出てきます」と楠田氏は想定。しかしAQUOS CRYSTAL Xはフレームレス構造によって、5型クラスのスマホとほぼ同等の幅73ミリを実現した。「5.5型で片手でも使えて、スマートフォンとしても十分使えるサイズ感に収まりました。デザインのインパクトとサイズ感の2つを両立できたのではないかと思います」と手応えを話す。

エッジカットの角度はAQUOS CRYSTALから変更

 ディスプレイのアクリルの端を斜めにカットして、光学レンズ効果でフレームがないかのように見せる手法もAQUOS CRYSTALと同様だが、「実は(エッジカットは)同じ角度ではないんです」と楠田氏。AQUOS CRYSTAL Xの方が、より角度が緩やかになっているそうだ。「AQUOS CRYSTAL Xは画面サイズが大きくなったので重くなります。解像度もフルHDになると、液晶の配線も増えてきて額縁が目立ちやすくなりますし、落下強度も強くしないといけません。これで(AQUOS CRYSTALと)同じフレームレス構造を実現させようとすると、ハードルとしては2段も3段も上がります」(楠田氏)

photo AQUOS CRYSTALとは角度を変えたという、AQUOS CRYSTAL Xのエッジカット(上がCRYSTAL、下がCRYSTAL X)

 画面占有率がAQUOS CRYSTALよりも高い約84.4%を実現しているのも特筆すべき点だ。これはディスプレイ面下部のスペースをAQUOS CRYSTALよりも狭めているためだ。「液晶の下には、センサーや液晶のドライバー、USB端子などを詰め込んでいます。AQUOS CRYSTALでも詰め込んでいましたが、そこをさらに狭くしました」と楠田氏は苦労を話す。このディスプレイ下部のカラーは、AQUOS CRYSTALでは同色に統一していたが、AQUOS CRYSTAL Xでは本体色ごとに色を変えている。「奇抜に色を付けるのではなくて、表の鏡面感を出しながら、上品に仕上げました」と二神氏は説明する。

photo 左がAQUOS CRYSTAL、右がAQUOS CRYSTAL X。CRYSTAL Xの方がディスプレイ下部が狭くなっていることが分かる
※初出時に、左がAQUOS CRYSTAL X、右がAQUOS CRYSTALとしていました。おわびして訂正いたします(2/19 15:56)。

photo 3色ともディスプレイ下部の色も変えている
photo デザインを担当した二神氏

 カメラリングとイヤフォンジャックのリング、電源キーには金属を用いた。「手にしたときの本物感を出すために、細かいこだわりを詰めていくことで、AQUOS CRYSTALよりもバージョンアップした様子を見せたかった」と二神氏。背面カバーの処理は、AQUOS CRYSTALのディンプル加工を継承しているが、「ラバーの中に粒子を入れることで、より上品さを出した」(二神氏)という。この背面にはFeliCaマークがあるが、突起の高さも含めて数パターもの検討を重ねたという。「マークの見え方は、フェリカネットワークスさんに規定があります。ちゃんと目立つようにしましょうと。デザインと視認性を両立できるよう、実際にフェリカネットワークスさんとお話をして、何とか了承をいただきました」(楠田氏)

photo カメラリング、イヤフォンジャックのリングと電源キーには金属を用いている

 まるで金属のように見える側面の処理も、AQUOS CRYSTALを継承している。これには難易度の高い技法を使っているようで、AQUOS CRYSTALでもお願いをした協力会社の同じ担当者に依頼したという。「通常は蒸着の上にトップコートを2回かけると剥がれてしまいますが、剥がれないように工夫をしてもらいました。金属ではありませんが、この質感を出せるのは、今はうち(シャープ)とその協力会社だけですね」と二神氏は胸を張る。

photo 蒸着塗装の上にトップコートをかけることで、金属っぽさを表現した側面

IGZOは搭載しないが、執念で「3日以上」のスタミナを実現

 AQUOS CRYSTAL Xは、ドコモやKDDIから発売されているAQUOSスマホと異なり、「IGZO」を搭載していないのは少々残念なところ(液晶はS-CGSilicon)。「液晶の額縁幅を比較すると、S-CGSiliconよりもIGZOのほうが太くなるので、今回のタイミングではS-CGSiliconを使いました。ただ、技術は進化しているので、いずれIGZOについてもフレームレスデザインを実現するところは来るでしょう」(楠田氏)とのことなので、期待したい。

 IGZOを搭載していないとはいえ、バッテリーの持ちはシャープの測定で3日以上持つことが確認されている。「シャープは省エネ駆動や画質エンジンの消費電力を落とすことのノウハウを蓄積しています。今回は5.5型のフルHDながら、3日以上持つところを達成できました。フレームレスになったからといって、(バッテリーの持ちが)3日を切って2日になるというのは、ユーザーさんからは絶対に受け入れられないと思います。エモパーやグリップセンサーなどの新しい機能を入れると、電力的な障壁は上がりますが、そこを何とか抑え込もうと。うちの技術のパワーや執念で何とかやり切ってくれました」(楠田氏)

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