ドコモ、KDDIと好調な決算が続いたが、ソフトバンクグループはSprintの再建という大きな課題が残されている。同社代表取締役社長の孫正義氏も、会見の冒頭で「ソフトバンクの株価への懸念、マイナス要因として多くの株主の皆様にご心配をおかけしている」と語り、自身での説明にも長い時間を割いた。
孫氏からたびたび語られているように、Sprint買収に関しては当初のもくろみが外れ、T-Mobileの合併が規制当局の反対にあったため、単独で他社に対抗していくことになった。反転攻勢がかけられないまま業績は低迷しており、加入者数でもT-Mobileに抜かれ、米国4位に転落している。
Sprintの再建に関しては、孫氏自身の「最大の懸念点」で、「僕自身が真剣に取り組んでいる事業」。同氏が8月6日の決算会見で打ち出した“秘策”が、「通信事業者、唯一最大の商品」であるネットワークの改善だ。ポイントは、ネットワークの容量を上げつつ、コストを抑えるところにあるといい、2.5GHz帯のTD-LTEを活用していく構えだ。詳細については明かされなかったが、ヒントとして、孫氏は次のように語っている。
「鍵は2.5GHz帯。2.5GHz帯というと、ほかの電波よりは距離が飛ばないので、基地局の数をたくさん作らなければならない。ただし、Sprintが持っている周波数は120MHz幅分。飛ばないが数打ちゃ当たるということで、数を打てば圧倒的な球を飛ばせる。料理の仕方によっては、ネットワークを非常に強力なものにできる。その特徴を生かした設計になっている」
2.5GHz帯でネットワークの容量を上げていく一方で、孫氏は「800MHz帯を最大限活用して、カバレッジをよくするのはマスト」とも述べており、エリアも他社にキャッチアップしていく方針だ。基地局の数を増やせば、それだけコストはかさみそうだが、孫氏によると「非常に少ない設備投資の金額でできる。内部で持っていた計画より大幅に設備投資額を減らし、期間も短縮した」という。
ただし、ネットワークの改善効果が現れるまでに、「2年ぐらいはかかる」(孫氏)。こうした発言からは、日本でソフトバンクのネットワークを改善してきたときのように、Sprintの事業にも本腰を入れ、じっくり取り組んでいく決意がうかがえる。こうした発言を裏付けるように、ソフトバンクは8月13日にSprintの株式を追加取得したことを発表している。
Sprintの再建案発表には熱を入れていた孫氏だが、比較的安定している国内事業に対しての言及は非常に淡々としていた。発表自体をPepperに任せてしまったほどだ。実際、第1位四半期は売上高、営業利益ともに前年同期比でプラスになっており、業績が不調なわけではない。Pepperによると「ほかの会社に比べて解約率がまだ少し高い」ところが反省材料だが、スマートフォンやタブレットなどの純増や、ARPUの増加は好調に推移しているという。
一方で、足元の数値を見ると、ソフトバンクの勢いに陰りが出てきていることもうかがえる。スマートフォンやタブレットなどに絞った「主要回線」では純増しているものの、総回線数は純減傾向にある。これは、「PHSで20数万、その他モジュールで20数万の純減があった」(ソフトバンク 代表取締役社長兼CEO 宮内謙氏)からだ。孫氏も、「そもそもとして、3000万、4000万の累計に対して、毎月1万、2万の差を争っている」としながらも、以前ほどの伸びを示していないことは認めている。厳密な数値が出ていないため推測にはなるが、他社のMNPの状況を含めて考えると、転出超過になっている可能性も高い。
宮内氏は「成長戦略はソフトバンク光、ソフトバンク、ワイモバイルの3ブランドをメインにして、大きな成長ではないが緩やかに成長し、きっちり利益を出していく方向性は描けている」と語っている。また、「iPhone片足打法ではキツイとおっしゃる方もいるが、ワイモバイルとソフトバンクを足した量販店でのAndroidのシェアは50%を超えている」として、端末も全方位的に広げていく方針を語った。とはいえ、市場を見渡すと、ドコモやKDDIだけでなく、MVNOとの競争も激化している。MVNOに対しての取り組みは、他の2社に後れを取っているだけに、今後の巻き返しにも期待したい。
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