「arrows M02」が「想定以上」に売れた理由は?――富士通に聞く、SIMフリー市場への意気込みSIMロックフリースマホメーカーに聞く(2/2 ページ)

» 2016年02月08日 19時38分 公開
[石野純也ITmedia]
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指紋センサーを搭載しなかった理由とソフト面でのこだわり

―― 富士通さんといえばセキュリティという中で、指紋センサーが載っていないのは、少々意外でした。やはり、これがないのはコストの問題が関係しているのでしょうか。

影長氏 苦渋の選択でした。他にも、ワンセグや赤外線など、載っていないものは幾つかあります。その中でも、指紋センサーは値段的に、当初のターゲットを考えるとどうしても入れることができませんでした。これを導入すると、他の部分を削らないといけなくなってしまいます。ですから、今回に関しては、指紋センサーはなしで進めることにしました。

 ただ、Androidが標準で持っているセキュリティ機能は、全てふさぐことなく搭載しています。パスワード、パターンロック、顔認証はご利用いただけますし、ソフトウェアとして、パスワードを管理するパスワードマネージャーも搭載しています。指紋センサーについては、次回以降の課題とさせてください。

―― なるほど。コストをてんびんにかけ、ソフトでできる限りのことはやったということですね。ソフトという意味では、ホームアプリもこの機種から新しくなっています。

影長氏 基本的には、薄味のものにしました。この機種は、初めてスマートフォンを手にするお客さまもターゲットにしています。そういったお客さまが、パッと電源を入れたときに、山のようにアプリがあると、難しいと感じてしまいますし、それをサポートするのも難しくなります。最初から搭載されているアプリを消すところか始まってしまうのは、どうかなというのがあります。

 その中でも、最初に使うことになるホームアプリに関しては、初めてのお客さまでも使いやすいようにしました。かつスマートフォンらしく、オシャレに使えるものを提案しようと、完全にオリジナルで開発しています。

 特徴は、Androidのデスクトップとアプリが2階層になっている仕組みをやめたところにあります。初めて使うお客さまは、そういった階層の概念が頭になく、いらぬ混乱を招きます。横にフリックするのはスマートフォンを持っていない人でも分かるので、それだけで全ての搭載アプリを使えるようにしました。ただし、時計やメモを張り付けられるウィジェットに関しては、iPhoneにはないAndroidのよさと思っていますので、これは生かすことにしました。

 また、初心者のお客さまが使えなくなって困るのは、何といっても電話です。これを分かりやすくするために、一番左の画面には、常に電話の履歴が出るように、固定してあります。

arrows M02arrows M02arrows M02 arrows M02がプリインストールしているホームアプリ「Leaf UI」。左にフリックするとアプリ一覧、右にフリックすると通話履歴にアクセスできる。このホームアプリはGoogle Playからダウンロードできる

―― 自分のようにAndroidに慣れていると、iPhone風の階層がないホームアプリは、逆に戸惑うというか、アプリを探すのが面倒というか、少々使い勝手がよくない印象があります。

影長氏 これまでの富士通端末に搭載していた「NX!ホーム」も入っていて、切り替えができます。これは「いかにもAndroid」といったものなので、Androidを使い慣れた方はNX!ホームに変えていただければと思います。もちろん、サクサク感を含めてチューニングはしていますし、標準的なホームアプリより細かくカスタマイズできるのもNX!ホームの魅力です。

―― ミドルレンジでも、ソフトでできることはハイエンドとあまり変わりないですね。

影長氏 Androidの良さをエンハンス(強化)するというコンセプトでやっています。通常のAndroidのままがいいことはそのままにしていますし、通常のままだとちょっと分かりづらいところにはひと手間加えて、もっと使いやすくしています。確かにこれはハイエンド、ミドルレンジとは関係がなく、便利な機能と位置付けて(全てのモデルに)やっています。

コストだけでなく、品質や機能のバランスが取れたから売れた

photo 水本氏

―― 次に、SIMフリースマートフォン全体のお話をうかがいたいと思います。富士通さんが、SIMフリースマートフォンをやっている意味や意義のようなものを教えてください。キャリア向けと比べると、市場規模が小さい中で、既に一定のシェアを持っている会社が取り組むのはなぜでしょうか。

水本氏 確かにまだ小さい市場ではありますが、一方で伸びているというのも事実としてあります。そこでは、われわれがコンシューマー市場の中で培ってきた経験を生かせます。この市場が値段だけで勝負するようになってしまうと戦えませんが、そうではないことが、このarrows M02でもある意味証明されました。コストだけでなく、品質や機能のバランスが取れたものが売れたのです。そこは、われわれとしても、ぜひ開拓していきたいと考えています。

―― ミドルレンジとなると、富士通さんが得意とする、技術的なチャレンジがしづらい部分もあるのではないでしょうか。その点は、どうお考えですか。

水本氏 先ほどからコストの話が出ていますが、スマートフォンの進化そのものが止まりつつある中で、中価格帯の市場ができつつあるという認識です。その中で、この価格帯を狙おうとすると、部品としてはグローバルで標準的に使われているもの、数が多く出ていて主流になっているものを選ぶことになります。ただし、われわれの特徴としては、狭額縁やネットワークへの対応など、キャリア向けの端末をやっていることで、蓄積された技術があり、それはミドルレンジにも適用できます。

―― 大手キャリア向けとの違いで、何か感じたことはありますか。例えば、1回のロットは非常に小さくなりそうですが。

影長氏 ロットに関してはおっしゃる通りで、小口で桁も違います。しかも発注の頻度が高く、リードタイムもありません。それが大変かと言われれば、非常に大変です(笑)。そういう意味では、キャリア向けのビジネスとはまったく違いますね。とは言え、市場が盛り上がっているときは、早いうちから仕組みを作り、最適化をしておくことが商機につながります。そうなるために、今がんばっているところですね。

―― 今後の市場は、どうなっていくとお考えですか。また、SIMフリースマートフォンは、今後も継続していくのでしょうか。

水本氏 今後、どういうふうに伸びていくのかもにらみつつ、既にパートナーさんもいるので、継続して提供は続けていきたいと思います。ビジネスチャンスも出てくるので、都度判断していきたいところです。

影長氏 現状の規模を見ると、一部の詳しい人や、その詳しい人の手が届く周りの人に使っていただいているのだと思います。ただ、われわれとしては、SIMフリースマートフォンとMVNOのSIMカードをセットにして使うことがいいと考えるお客さまは、もっとたくさんいると考えています。そういった方々に、少しでもarrowsを届けていければと思います。

取材を終えて:日本メーカーにもチャンスはある

 ハイスペックで、先進的な技術を詰め込んだ端末開発を得意としている富士通だが、一方で、同社は、そうしたノウハウを、普及機に展開することに長けているメーカーでもある。ロングセラーでシニア層から支持されているらくらくフォンは、その成果の1つといえるだろう。arrows M02を使ったときに感じるバランスのよさにも、そうした富士通のノウハウが生かされていた。

 現状では、中国、台湾メーカーが中心のSIMロックフリースマートフォン市場だが、富士通のように、この価格で、これだけの機能を実現できるのであれば、まだ日本メーカーにもチャンスはあると感じた。市場が広がり、売れる端末の価格レンジが広がれば、同社が得意とする技術も搭載しやすくなる。また、大手キャリアもコスト削減の観点から、ミッドレンジ端末を拡大している。この波にうまく乗ることができれば、キャリア向けでのシェアも上げていける可能性はありそうだ。

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