Sprintは「と金」、ARMは「本業」、その他の事業は「禅譲」――海外事業により注力するソフトバンクグループ孫社長(2/2 ページ)

» 2016年07月30日 15時00分 公開
[井上翔ITmedia]
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ARM買収:ソフトバンクグループの「本業」に 戦略はあえて語らず

 7月18日、電撃的に英ARMの買収を表明した孫社長。今回の説明会では「ソフトバンク(グループ)創業以来、一番大きな、一番中核になる事業」「圧倒的にソフトバンクの中心中の中心になる」「『ソフトバンク(グループ)の本業はARMです』と多くの人が思うほどの存在になる」と、さまざまな言葉でARMに対する期待を語った。

 ソフトバンクグループとしては過去最大となる約3.3兆円での買収の原資は、約70%を手元資金、残りの約30%をみずほ銀行からのブリッジローンで賄う。孫社長は「余裕を持った資金調達ができた」と、ARMの買収が財務上無理のない範囲で行うものであることをアピールした。

 ブリッジローンについても、2016年度に国内通信事業で生じる見通しの5000億円の余剰資金を踏まえて「実質無借金」(孫社長)と考えているようだ。

ARM買収の資金スキーム ARM買収に伴う資金のスキーム。総額の約70%を手元資金で賄う

 ARMはプロセッサのアーキテクチャ(構造)を研究開発・設計する企業で、Qualcomm、MediaTek、Appleといったプロセッサを開発する企業にアーキテクチャのライセンスを供与して収益を上げている。直近では売上高、利益は安定して成長しており、利益率も高い。今後も、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術の進展によって組み込み機器向けのプロセッサアーキテクチャのライセンス提供の増加が見込まれ、売上・利益の絶対額は「これからも『うなぎ上り』」(孫社長)を続けることが予想される。

ARMの売上高 2009年以降、ARMの売上高は安定して増えている
ARMの税引き後利益 ARMの税引後利益も2009年以降は安定して増えている
ARMアーキテクチャのライセンス先 ARMアーキテクチャのライセンス先は多岐に渡り、さまざまなデバイスでARMアーキテクチャをベースとするプロセッサが稼働している

 そのような状況で、孫社長は「この2〜3年、あるいは4〜5年間は目先の利益を少し減らしてでも、売上やシェアの拡大、技術者の増員、研究開発費の増額、IoT時代のパラダイムシフトに向けた先行投資をしよう」とARMの関係者に語りかけているという。

 さまざまなデバイスにARMアーキテクチャのプロセッサが使われ、それがインターネットを介して「横」につながることで、「広い意味でのソフトが(インターネット上で)バンク(保存)され、世界中の人と分かちあう」という、孫社長が1981年にソフトバンクグループ(当時は日本ソフトバンク)を創業したときから思い浮かべてきた理想をいよいよ実現する――それが、ARMの買収を提案した大きなきっかけとなっているようだ。

 ただし、従来のソフトバンクグループの買収とは異なり、ARMの買収は既存事業との相乗効果に乏しいことも事実だ。この点について質疑応答で改めて問われた孫社長は、「(相乗効果が見えない)だからいいんですよね」とした上で、「シナジー(相乗効果)がすぐ見える会社は独占禁止法上、ARMを買収できない。だからこそ、(相乗効果が)直接見えないソフトバンク(グループ)が買いに行ける」と相乗効果が直接的にない「メリット」は説明したものの、既存事業との具体的な相乗効果については説明を避けた。

 当面の間、ソフトバンクグループはARMの既存の経営戦略を加速するとしている。将来のARMの姿、あるいはグループ全体に対する相乗効果については孫社長の「頭の中」だけにあるに等しい状況だ。

当面はARMの既存戦略の加速をサポート ソフトバンクグループは当面の間、ARMの「既存戦略の加速をサポート」する立場を取る。「当面の間」の先の戦略については語られることはなかった

その他の事業:割く時間は「10%」の一部 権限委譲を推進

 説明会の質疑で「SprintのCNO(最高ネットワーク責任者)職をいつまで続けるのか?」と問われた孫社長は「少なくとも来年(2017年)末までやる」と回答した。その上で、自身の執務時間の45%をSprint事業に、45%をARM事業に割り当てるとした。つまり、国内通信事業を含むその他の事業は残り10%の時間で行うことになる。

 しかし、その他の事業も、「10%」では片付かないほどの規模感がある。この点については、宮内謙副社長(ソフトバンク社長などを兼任)に国内事業、ロナルド・フィッシャー取締役(Brightstar Global Group会長などを兼任)にSprintとARMを除く海外事業を一任するなど、順次「禅譲」を進めることで乗り切る考えであるようだ。

ソフトバンクグループの宮内謙副社長 ソフトバンクグループの国内事業を統括するソフトバンクグループの宮内謙副社長

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