「技適」の話をあらためて整理するMVNOの深イイ話(3/3 ページ)

» 2017年05月29日 06時00分 公開
[佐々木太志ITmedia]
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訪日外国人と電波法

 このように、本来は厳しい電波法ですが、携帯電話にはいくつかの特例的な条文により誰でも操作できるようルールが緩和されており、そのための条件として技術基準適合証明という制度が運用されていることが分かります。加えて、携帯電話の全世界的な普及に伴って、訪日外国人が日本国内に持ち込む海外の携帯電話の扱いについて問題となるようになってきました。

 日本に訪問する観光客やビジネス客などの訪日外国人は、彼らが母国で利用していた携帯電話を(SIMカードごと)日本国内に持ち込み、国際ローミングで利用することができます(ただしLTEやW-CDMAなど日本で使われている携帯電話の通信規格や周波数に対応したものに限ります)。

 このような携帯電話には、日本の技術基準適合証明を取得していないものも多く存在します。そのため、本来であれば無免許での無線設備運用となってしまい、電波法違反となってしまいます。しかし電波法第103条の5の規定により、海外で契約され、かつ日本の技術基準適合証明に相当する海外の技術基準に適合している端末については、日本のキャリアがその包括免許の中で運用できることになっています。

 2016年5月21日に施行された改正電波法において同条文も改正され、SIMカードを日本で販売している日本のキャリア(MVNO含む)の訪日外国人向けSIMカードに差し替えた場合にも適用されるようになりました。

 無線LANやBluetoothについては、同じ改正電波法において、日本の技術基準適合証明に相当する海外の技術基準に適合している端末に限り、また入国の日から90日以内に限り、技適マークがある端末と同じ扱い(無線局免許不要、無線従事者免許不要)で運用することが可能となりました(電波法第4条第2項)。

 「え、外国人がいいなら何で技適マーク無しの端末を日本人が使っちゃダメなの?」と思われるかもしれません。実際に、2015年に電波法改正が議論された際には、訪日外国人であれば技適マークのない海外製の端末を日本で使えるのに、日本人はなぜ技適マークのない海外製の端末を国内で使ってはいけないのか、議論が沸騰したと記憶しています。

 ここまで説明した通り、電波法は電波を利用した通信その他を安定的に利用可能とすることで社会の利益と守るために存在しています。そのため、電波を使う人に原則的かつ厳しいルールを設ける一方、例外的な規定をも設けることで利用者の利便性も確保してきました。

 実際に、訪日外国人が日本に持ち込む海外製のスマートフォンが日本の電波環境を乱し、社会の利益を損ねることは考えにくいのかもしれません(そう予測されるからこそ、2015年に電波法が改正されたのです)。

 ただ、それはあくまで利用者(この場合は訪日外国人)の利便性を確保するための例外的な規定に過ぎません。電波法がこれまで適切に運用されてきたことは全体として日本の社会の利益を守るための正しい道だったと思われます。

 最近では、海外から多くのスマートフォンメーカーが日本に上陸し、技適マークの付いたさまざまなSIMロックフリースマートフォンを日本国内で販売するようになりました。電波法が適切に運用されながらも、日本の消費者が今日では多様なSIMロックフリースマートフォンを国内で買えるようになってきたことは、喜ばしいことだと私は思います。

著者プロフィール

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佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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