ハイエンドモデルはメーカーの技術力や新機軸を打ち出す器と考えると、2022年のスマートフォンは踊り場にいたような状態だったといえる。一方で、売れ筋であるミドルレンジモデルは、例年にも増して激戦になっている。中でも筆者が注目したのは、Googleが投入した「Pixel 6a」だ。同モデルには、2021年に発売された「Pixel 6/6 Pro」と同じTensorが搭載されており、ミドルレンジモデルと同価格帯の5万3900円(Googleストア、税込み)ながら、パフォーマンスはハイエンド並みに高い。現時点ではセールでさらに1万920円割引され、その値ごろ感がさらに増した格好だ。
同モデルは、Pixel aシリーズの方向性を変えたモデルでもある。もともと、Pixel aシリーズは前年に投入されたハイエンドモデルと同じカメラを搭載した廉価モデルだった。代わりに、プロセッサのスペックは落ちており、本体の仕上げもハイエンドモデルよりチープだった。これに対し、Pixel 6aは、ハードウェアとしてのカメラをスペックダウンした代わりに、プロセッサをハイエンドモデルと同等まで引き上げたモデルだ。本体の素材はグレードが落ちているものの、見た目はより高級感が高い仕上げになっている。
カメラのハードウェアは確かにグレードが落ちている一方で、写真の仕上がりは想像以上にきれいだった。これは、Tensorやその上で動くAIの力によるものだ。5万円台前半という価格も相まって、Pixel 6aは好調な販売を記録。同モデルを取り扱うKDDIとソフトバンクも、値下げ合戦を加速させた。Pixel 7/7 Proの発表に合わせて来日したGoogleのVP(Vice President)でDevices & Services Business APACを務めるマイク・アバリー氏も「Pixel 6a(の売れ行き)には本当に励まされている。日本における多くのパートナーのおかげでトップセラーモデルになった」とコメント。Pixelシリーズの普及率向上に貢献していることを明かした。
シャープが“国民機”として投入した「AQUOS sense7」も、お値段以上のミッドレンジモデルだった。同モデルで特に注目したいのは、カメラ機能。センサーサイズが1/1.55型と大型化し、夜景など、暗い場所での描写力が格段に上がった。これまでのAQUOS senseは、どちらかといえばミドルレンジのど真ん中を目指した端末で、裏を返せば、どこか特徴に欠けていたシリーズだった。厳しい見方をするなら、当たり障りのない端末だ。これに対し、AQUOS sense7は明確にカメラという売りを打ち出した格好だ。
ライカとの協業で、カメラのチューニングに磨きをかけていたことも奏功した。もちろん、ディスプレイのリフレッシュレートが60Hzだったり、プロセッサが「AQUOS sense6s」と同じ「Snapdragon 695 5G」だったりと、不満がないわけではない。実機を試すと、バイブレーションの振動が大味なのも少々気になった。ただ、ミドルレンジモデルのため、トレードオフがあるのは致し方がないところ。デザインもハイエンドモデルのAQUOS R7と共通性が増し、シャープの戦略がより明確に見えてきた1台だったと総括できる。
他にも、長く使うことにフォーカスしたOPPOの「Reno7 A」や、初めて5Gに対応した第3世代の「iPhone SE」、ドコモ以外のキャリアに広がった「Xperia Ace III」など、エントリーモデルからミドルレンジモデルは豊作だった。サムスン電子が初めてオープンマーケットに挑戦した端末として、「Galaxy M23 5G」もその名を印象に残した。モトローラが、オープンマーケットモデルとして初めておサイフケータイに対応した「moto g52j 5G」を投入したのも、22年のこと。その意味で、2022年はミドルレンジモデルの選択肢が大きく広がった1年だったともいえる。
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