携帯電話市場において、最も携帯電話が売れる時期は“春”だ。なぜ春かといえば、進級や進学、就職といった新生活のタイミングで携帯電話を初めて契約したり、買い替えを行ったりする人が多いからだ。
また3月は多くの企業では“年度末”に当たるため、年間予算やKPI(目標)達成のために、いつも以上にキャンペーンの内容が充実することも多い。通常時よりも携帯電話がお得に買えるため、新生活を迎えない人でもキャンペーンを狙ってこの時期に携帯電話を買うということは珍しくない。
……という話は、今までの連載でも何度か取り上げてきた。しかし、2019年10月に電気通信事業法の一部が改正されて以来、携帯電話端末の値引きに厳しい制限が設けられたため、必ずしも「春商戦のタイミングが一番安い」とは限らない状況になった。
加えて、コロナ禍を経てキャリアがオンラインショップを強化するなど、店頭購入以外の選択肢も広がった。さらに携帯電話を初めて持つ年齢の低下も相まって、以前のように春商戦が“一番の”盛り上がる時期とは言いきれない。
では、2025年の春商戦はどのような状況だったのか――携帯電話ショップの現役店員に話を聞いた。
1年前(2024年)の春商戦は、2023年末に実施されたガイドライン(総務省令)の改正もあって、端末販売において大なり小なりマイナスの影響が出てしまった。
このガイドラインは2024年12月26日に再度改正され、今度は下取りを前提とする端末購入プログラムにおける下取り額(≒残価)の設定に一定の制限が加えられた。一方で、AppleがiPhone 16シリーズの廉価モデルとして「iPhone 16e」をリリースした。拡販(販売拡大)という観点ではマイナス要素とプラス要素が“ない交ぜ”で、どうなるか読めない状況だった。
実際はどうだったのか、店員に話を聞いてみよう。
2024年末のガイドライン改正の影響ですが、もちろん値上がりした機種も少なくなかったものの、価格設定の見直しによってむしろ安くなった機種もありました。「月々1円」は無理でも、「月々数百円」であれば、毎月の負担が大きく変わるわけでもありません。そういう観点では思ったほどの影響はなかったというのが正直なところです。
ガイドライン改正が決まった時は「これから稼ぎ時なのに……」と大きく落ち込みもしたのですが、そもそも3月に入ってから来るようなお客さまは「(2024年)12月26日までの価格」を知らない人が多いのも手伝って、何とかなったというところでしょうか。
発表時は「イマイチかな?」と思ったものの、iPhone 16eも出たら意外と売れました。春商戦は盛り上がったわけではないですが、iPhone 16eのおかげで「新商品が売り場を華やかにする」という効果は得られて、集客にも貢献してくれました。
そういう意味では「売りやすくなった」ような気はします。
iPhone 16eの反響については前回取り上げているが、爆発的なヒットとまでは行かないまでも、現場に立つ店員目線では“追い風”にはなったようだ。
そしてガイドライン改正の影響も少なく、2019年末の時のように一気に買い控えムードになったりといったこともなかったそうだ。
では、肝心の「春商戦は盛り上がったのか?」という点だが、先の回答にも一部出ているが改めて話を聞いてみよう。
通常時と比べると、来客自体は増えました。だいたい年明けくらいから「新生活に合わせて(買い換えを)」というお客さまが増えてくるのも、例年通りでした。
極端なことをいうと、以前は2月3月とで販売台数が2倍以上違ってくることもあったんですが、ここ数年は「(3月は)いつもよりは売れている」くらいで、その点では今年も変わりありません。「休憩を取る暇もないほど忙しい」という3月は、過去なのかもしれません。
年度末になると(棚卸しの都合で)在庫の発注ができなくなります。以前なら、そのタイミングで「売れ筋の在庫がなく、仕方なく他の機種に振り替えて買っていただく」なんてこともあったんですが、今年はそのようなこともなかったです。どの機種も在庫はあるし、品薄や品切れもありませんでした。もっといえば、「キャンペーンの予算が終了したので、(値引き施策を適用できなくて)ごめんなさい」みたいなこともなかったです。
今回はキャリアショップだけでなく、家電量販店の携帯電話コーナーに勤務している店員からも話を聞いている。また、キャリアも複数にまたがる。
「どこかは景気が良くて、どこかはへこんでいる」ということもなく、どのキャリアのどの販路でも、出てくる話はほぼ同じだった。総じて「いつもよりは売れたけど、昔のような爆発力はない」といった感じだ。
春商戦は最大の商戦期――もはや過去の話なのかもしれない。
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