ラトナー氏が紹介した2050年を見据えた技術で最も会場を熱狂させたのが、無線を使った電力送信技術だ。有名な発明家ニコラ・テスラ氏とその発明品である「テスラ・コイル」がスライドで表示されると、会場からはどよめきが起こった。
実験では対向に設置した2つのコイルを使って、離れた拠点間で電力の送信が行われた。一方のコイルには電力送信装置が、もう一方にはコイルに接続された電球が設置され、無線を使って送られた電力が電球を発光させる。説明によれば、60ワットの電力を75%の効率で約2フィート(60センチメートル)ほど飛ばすことができるという。
このほかにも研究成果がいくつか報告されているが、このような将来に実現する開発途上の技術を紹介する場合、製品化まで時間のかかるものばかりということもあって、具体的な活用例が分かりにくいことが多い。しかし、ラトナー氏の講演で紹介されたものは、どれもが、分かりやすいストーリーと構成、実験装置を使ってデモストレーションを行っていたのが興味深かった。
IDF 2008では、特別トークセッションのゲストとしてApple共同創業者の1人である“ウォズ”ことスティーブ・ウォズニアック氏が登場した。スティーブ・ジョブズ氏とともにガレージカンパニーとしてAppleをスタートさせたサクセスストーリーは、シリコンバレーで伝説となっている。口上手で営業やマーケティングセンスに長けるジョブズ氏に対し、シャイなエンジニアのウォズニアック氏は初期のApple製品の設計と開発をすべて担当しAppleの基礎を作り上げた。
インタビューでは「セグウェイ」好きで知られるウォズニアック氏の休暇の過ごしかた、iPhoneの発売日やApple Company Storeを訪問したときの出来事、学生時代やApple創業までにまつわるエピソードなどが紹介された。その中でウォズニアック氏が特に強調していたのは、「当時はとにかくお金がなかった」ことだ。コンピュータを使うにも(当時は“タイムシェアリング”という形で1つのコンピュータを皆で時間を分け合いながら使っていた)、会社を立ち上げるにも、何をするにもお金がなかったという。そのなかで、パーソナルコンピュータの登場は、自由に使えるコンピュータを1人1台持つための手段になった。シンギュラリティの到達にしろムーアの法則の実現にしろ、そのモチベーションの本質はこうした「自由に使えるコンピュータを1人1台」という欲求と同質であることは確かだ。
ウォズニアック氏は静かなエンジニアだった。外見のマニアックな雰囲気とは異なり、冷静にテクノロジーを見極める目を持っていた。例えば、AppleがプラットフォームをIBMのPowerPCからIntelの Core MicroArchitectureにシフトしたことについても、「ノートPCでの利用を考えれば当然の帰結」とコメントしている。「重要なのはプラットフォームではなく、その上で動くソフトウェアだ。ユーザーがしたいことができればそれでいい。Intelに移行する下地はその前からできていたと思う」と述べ、ハードウェアへの過度なこだわりは必要ないともいう。ウォズニアック氏自身はいまもApple製品を愛用しており、「スティーブ(ジョブズ氏)はうまくやっていると思う」と、過去のパートナーに賛辞を送っていた。
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